イチローに球宴史上初のランニング本塁打を打たれたアイビー・リーグ卒投手は究極のGMになれるか?
テキサス・レンジャースがアイビー・リーグの名門校、プリンストン大学出身で、メジャーリーグで13年間プレーしたクリス・ヤングを新ジェネラルマネージャー(GM)に抜擢した。
メジャーリーグのGMは、昔は選手上がりのメジャー経験者が多かったが、今世紀に入ってからはプロとして野球経験のないアイビー・リーグの名門大学出身の若いエリートの起用がトレンドとなっている。
ランディ・ジョンソンと同じ身長208センチのヤングは、メジャーの歴史上2番目(実質にはヤングを含む5選手が2位タイ)に背の高い選手で、大学までは野球とバスケットボールの二刀流選手だった。
バスケットボールの実力も一流で、大学1年生から主力として活躍。アイビー・リーグの男子選手としては史上初めて2つのスポーツで、リーグの最優秀新人選手に選ばれた。
大学2年生を終えた2000年夏のドラフトでピッツバーグ・パイレーツから3巡目で指名されたヤングは、プリンストン大学を卒業するまでは学業を優先するとの条件でプロに転向。マイナーリーガーとアイビー・リーグの現役大学生の二足のわらじを2年間履き、2002年に政治学の学位を取得した。
レンジャースに所属していた2004年にメジャーへデビューしたヤングは、13年間のメジャー生活で5球団を渡り歩き、通算79勝を挙げ、サンディエゴ・パドレスでプレーした2007年にはオールスターに選ばれ、11勝を挙げた2015年にはカンザスシティ・ロイヤルズのワールドシリーズ制覇にも貢献。現役時代から、球界で最も賢い選手と言われていた。
2007年のオールスター戦で、イチローにオールスター史上初となるランニング・ホームランを打たれた投手がヤングだった。
2018年春に現役を引退すると、MLB機構に就職。MLB機構の副社長として、直属の上司であるジョー・トーリーと一緒に球界向上のために働いていた。
41歳のヤングをMLB機構から引き抜いてGMに抜擢したジョン・ダニエルズは15年間座っていたGMの椅子をヤングに譲り、2013年から兼務していた野球運営部門社長の職に専念する。
アイビー・リーグのコーネル大学で応用経済学とビジネス管理学を学んだダニエルズは、2005年に史上最少年齢となる28歳と41日でレンジャースのGMに就任。2010年と11年には2年連続してチームをワールドシリーズに導き、2012年1月にはダルビッシュ有を獲得するなど辣腕ぶりを発揮した。
ヤングはニューヨーク・メッツからもGMの有力候補としてラブコールを送られていたが、テキサスからニューヨークに引っ越したくないと辞退。メジャー・デビューを果たしたチームで、ダラス郊外の自宅から通えるレンジャースのGMに就任した。
アイビー・リーグで鍛えられた明晰な頭脳と、メジャーで13年間プレーした経験を兼ね備えるヤングは、古き良き時代と新時代の両方を兼ね備えたハイブリッドなGM。彼こそが「究極のGM」なのかもしれない。