Yahoo!ニュース

乃木坂46・吉田綾乃クリスティーが『フルーツバスケット』舞台化で主演「自分の欲しい言葉が出てました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜

乃木坂46の吉田綾乃クリスティーが舞台『フルーツバスケット』に主演する。原作は世界的に大ヒットした少女マンガで、アニメも人気を呼んだ名作。演じる本田透もやさしくて強い、絶大に支持されるキャラクターだ。自身と似つかわしいようでもある大役にどう挑むのか? アイドルと女優それぞれへの考えも語ってもらった。

基本「ハーフ?」と聞かれます(笑)

――定番ネタですが、吉田さんはハーフではないんですよね?

吉田 はい。純日本人です(笑)。

――ハワイ移住に備えて命名されたとか。

吉田 そうです。それで漢字とカタカタが入りました。

――小学校、中学校とフルネームで通していたんですか?

吉田 今までずっと、省略したことはないです。一度、戸籍上でクリスティーを外すか、外さないかという話になりましたけど、私はイヤだと思ったことはなくて。

――お気に入りの名前だったと。

吉田 私はあまり自分から人に話し掛けられないんです。でも、名前きっかけで話してもらえることが多いので、クリスティーはあったほうがいいなと思って、そのままにしました。

――ハーフと思われがちな人生ではあるでしょうけど。

吉田 初めましての方には、基本的に「ハーフ?」と質問されます(笑)。顔もハーフっぽいみたいで、英語を話せると期待を持たれて「ごめんなさい」という(笑)。

――そういう説明を毎回するのが、面倒だったりはしません?

吉田 面倒と思ったことはないです。自分の中では、それが当たり前になっているので。

医療ものや刑事もののドラマが好きでした

――吉田さんは乃木坂46の3期生としてアイドルになった時点で、演技にも興味あったんですか?

吉田 ドラマでいろいろな女優さんを見てきて、客観的に「すごいな」と思ったりはしましたけど、(3期生の初公演の)『3人のプリンシパル』で、いざ自分がお芝居をするとなったときは、「ん?」みたいな感じでした。もともと「歌いたい。踊りたい」というのが一番で、お芝居は自分のやりたいことではなかったです。

――『3人のプリンシパル』の時点では、戸惑いがあったと。

吉田 お仕事だからやるけど……みたいな感覚が、どこかにありました。ドラマを観ていて、「この世界に自分が入ったら」と想像するのは好きでしたけど、本当にお芝居でやると全然違っていて。でも、その後も舞台をやらせていただいて、だんだん楽しいと思うようになった感じです。

――自分で観ていたのは、どんなドラマですか?

吉田 医療ものや刑事ものです。『医龍』、『ドクターX』、『相棒』、『科捜研の女』とか。

――中高生がよく観る恋愛ものではなくて?

吉田 そうですね。昔から、ちょっと渋めのドラマが好きでした(笑)。今も平日の午後に再放送されている『科捜研の女』を、1人で観たりしています。

演じ方を自分で考えられるのが楽しくて

――お芝居の楽しさを知ったのは、何かの作品がきっかけだったんですか?

吉田 3年前にやらせていただいた『ゲームしませんか?』という舞台です。現場に他のメンバーがいないお仕事が初めてで、最初は知らない方ばかりだったから、自分でどうにかするしかなくて。でも、経験豊富な先輩方にいろいろ教えてもらって、面白いと思うようになりました。

――お芝居のどんなことが面白いと?

吉田 演じ方は何通りもあって、そこが難しい部分でもありますけど、自分でどうするか考えられるのが楽しいと感じました。

――映画やドラマと違う、舞台ならではの面白みもありますか?

吉田 2時間、3時間のお話を生で演じるので、同じお芝居を何度もできなくて。だからこそ、急にアドリブを他の出演者さんが仕掛けてきたり、逆に私から仕掛けたり、アドリブでちょっとした遊びができるのが素敵だなと思います。

――自分からアドリブを入れることもあるんですか?

吉田 他の方に「これ言ってみなよ」と言われて、「じゃあ」とやったりはしますね。

――生の舞台で失敗したことはないですか?

吉田 あります。2人の人の名前を呼ばないといけないのに、同じ名前を2回言ってしまったり、名前を間違えたり。でも、そこで気にしてはいられないので、とりあえず続けて、終わってから反省しました。

――乃木坂46でライブをやっているから、生の緊張感はそこまでないですか?

吉田 いえ、ライブと舞台だと雰囲気が全然違います。ライブは自由にやらせていただけますけど、舞台は作品のキャラクターとして出るから緊張します。幕が開く直前は心臓ドキドキで、出たらやるしかない感じです。

ティッシュを手放せないほど涙がバーッと

『フルーツバスケット』の原作は、高屋奈月が『花とゆめ』で1998年から連載。2007年にはギネスブックで「最も売れた少女マンガ」に認定された。唯一の家族だった母親を亡くした高校生の本田透は家事の腕を買われ、学校の王子様的存在の草摩由希の一家と住むことに。草摩家は何百年も前から、ある“呪い”に縛られていて、透も彼らの運命に巻き込まれていく。

――『フルーツバスケット』の原作は大ヒットした少女マンガですが、吉田さんはマンガやアニメは観るほうですか?

吉田 アニメはたまに観ますけど、マンガはあまり読みません。アニメも弟と観ていたので、男の子が好きそうなアクション系ばかりで、少女マンガ系は『フルーツバスケット』がほぼ初めて、ちゃんと触れた作品でした。

――この舞台が決まってから知ったんですね。原作にはどんな印象がありました?

吉田 面白かったですし、ティッシュが手放せないくらい、涙がバーッと出てきて。愛があって、温かい作品だなと思いました。考えさせられるシーンもありますね。

――ヒロインの本田透のことは、演じるうえではどう思いました?

吉田 透くんから自然と出る温かさややさしさを、お芝居の中で意識しすぎないで、私自身から自然と出るように表現していきたい、というのはありました。

――吉田さん自身からも、そういうやさしさは出ているのでは? 以前、同期の阪口珠美さんがブログで、吉田さんのことを「本当はお釈迦さまなんじゃないかと思っています」と書いていました。

吉田 ありましたね。お釈迦さまと言われたのは初めてで(笑)、ありがたかったです。阪口に何かをしてあげたわけではないですけど、そう思ってくれるなら、余計にやさしくしたくなります(笑)。

――透は十二支に入れなかった猫をかわいそうと言ってますが、吉田さんも猫好きで。

吉田 ずっと猫と一緒にいる人生なので(笑)。お休みの日も、基本的には猫優先です。

(C)高屋奈月・白泉社/舞台「フルーツバスケット」製作委員会2022
(C)高屋奈月・白泉社/舞台「フルーツバスケット」製作委員会2022

誰にでもやさしくて芯が強い子だなと

――今回の舞台でやるかは別にして、原作で温かさを感じたのはどの辺ですか?

吉田 自分に語り掛けてくれているような感覚がありました。今欲しい言葉がちょこちょこ出てきて。

――たとえば?

吉田 自分の良いところって、自分では気づかなかったりするけど、周りの人たちには見えている。そういうことを透くんが、おにぎりにたとえて話している場面があるんです。「おにぎりの具は自分の背中に付いているから見えないだけで、他の人からはちゃんと見えているよ」って。私も自分の良さは今もわかりませんけど、さっきの阪口みたいなことを言われると、すごく嬉しくて「そういうことなのかな」と思ったりします。

――「考えさせられるシーン」というのは、どんなところですか?

吉田 人間関係というか、誰かの正義が別の誰かの悪になったり、自分の幸せの下に誰かの不幸があったり。そういうところは考えさせられましたし、難しいなと思いました。

――そんな中で、透は何とも良い子ですよね。

吉田 「この子は何でこんな感性を持っているんだろう?」と思いました。草摩家にかけられた呪いのことを聞いて、どうにかしてあげたいとか、なかなか思えないじゃないですか。どうなるかわからないし、面倒な部分もきっとあるのに、それでも一緒に呪いを解こうとする。誰にでもやさしい言葉を掛けてあげて、弱さもありながら芯が強い子ですよね。

初めての泣く演技に気持ちを100%注げるように

――「このシーンはどう演じれば?」と思うようなところもありました?

吉田 本田透がこの作品の中で生きているから言える言葉だとか、感情が動いているんだとか、客観的にしかわからなくて。それを自分の中にどう落ち着かせるかが、ひとつの課題のような感じですね。

――今回の舞台では、泣いたり涙ぐむシーンも多めのようですね。

吉田 自分がマンガを読んで泣いたのと同じシーンを、私が演じて観る方の心に寄り添えたり、感情移入して泣いてもらえたら嬉しいですけど、できるかな(笑)? 今まで泣く演技をしたことがないので、100%気持ちを注げるように頑張りたいです。

――吉田さん自身、普段は泣くことはあります?

吉田 めちゃくちゃ涙もろいです。すぐ泣いちゃいます。

――たとえば、どんなことで?

吉田 自分で「何で?」と思ったのが、おばあちゃんをバイクの後ろに乗せて、お出掛けするCMで泣いちゃいました(笑)。

――AmazonのCMですね。

吉田 15秒とか30秒の間に「おばあちゃん想いだな」とか「おばあちゃんは昔おじいちゃんと一緒に乗ったみたいで楽しかっただろうな」とか、いろいろ考えてワーッとなっちゃって(笑)。

――それくらい感情が波打つなら、演技でも泣けるのでは?

吉田 そうかもしれません。でも、役でなく素で泣かないようにしないと(笑)。

――透の丁寧な話し方は自然にできそうですか?

吉田 どうですかね? 私は普段、何も意識せず、思ったことをペラペラしゃべっているから、まとまりがないんですよね。透くんみたいに、わかりやすく伝えたいです。

自分には男の子っぽい部分があって

――普段は乃木坂46で活動していますが、今回の舞台は男性キャストが多いですね。

吉田 ここまで女性キャストが少ないのは初めての環境で、馴染めるか不安はあります。(メインキャストの)4人でビジュアル撮影をしたときも、紫呉役の安里(勇哉)さんが話を振ってくれて、やっと会話できるくらいだったので。本番までに打ち解けられたらいいなと思います。

――草摩家の人たちはそれぞれ抱えているものがあって、共感するキャラクターもいますか?

吉田 共感は節々にある感じです。誰かを羨ましいと思う気持ちだったり。

――吉田さんのアイドル人生でも、悩むことがあったりはしますか?

吉田 乃木坂46というグループの(清楚な)イメージはあると思いますけど、私は性格や言葉にわりと男の子っぽい部分があって。それが出ちゃって、指摘されることがあります。そういうとき、素の私はアイドルに向いてないのかなと思ったりします。

――そこまでのことではない気もしますが、それだけアイドルとしてのあり方に気を配っているんですね。乗り越えないといけないと思っていることもありますか?

吉田 私は自分からしゃべれるタイプではないので、お仕事でも話を聞く側になることが多くて。ファンの方に「もっと前に出て、しゃべってほしい」と言われたりもするので、私なりにもう少し積極的に頑張れたらと思っています。

誰かのために生きようと行動できるのがすごいなと

――透は亡くなったお母さんに言われたことを大切にしていますが、吉田さんはポリシーにしていることはありますか?

吉田 マイナスなことはなるべく考えないようにしたり、誰かの悪口を言わないようにしています。もちろん普通に生きていたら「ちょっとなあ……」と思うこともありますけど、口には出しません。出したら、どんどん自分の性格が悪くなっちゃう気がするので。それより、困っている人がいたら、やさしくしてあげたい。誰もイヤな気持ちにならないで済むなら、一番いいなと思います。

――『フルーツバスケット』では“生きる理由”みたいな話も出てきます。そういうことを吉田さんも考えたりはします?

吉田 私が今アイドルとして生きる理由は、応援してくれる方への恩返しを形として届けることです。自分個人としては、家族のために生きるところがあるかもしれません。

――吉田さんにとっても、お母さんの存在は大きいですか?

吉田 はい。私は「仕事のことをあまり言わないで」と話してありますけど、テレビや雑誌に出ると、淡々とした文章で感想を伝えてくれます。それがすごく嬉しくて、もっと頑張りたいと活力になります。

――そういうお話を聞くにつけても、やっぱり透への共感は大きいのでは?

吉田 そうかもしれません。透くんは誰かのために生きようとして、それを実行できているんですよね。考えているだけでなく、ちゃんと行動に移せているのがすごいなと思います。

他のメンバーと違う入口から知ってもらえたら

――吉田さんは乃木坂46の3期生では最年長メンバーですが、今後のアイドル活動にはどんな展望がありますか?

吉田 乃木坂46に入ったときから、3期生では最年長だから「年上らしくしなきゃ。年下の子たちをケアしなきゃ」と思っていましたけど、最近はあまりそういうのを意識しなくなりました。最年長でも、私が同期の梅(梅澤美波)や久保(史緒里)みたいにまとめようとしたら、たぶん空回っちゃうので。無理はしすぎず、できるところからケアしたいです。

――成し遂げたいこともありますか?

吉田 乃木坂46でやっているうちは、みんなと違うところから見てもらえるようになりたい、というのはあります。

――個人での活動で?

吉田 そうです。テレビやライブやモデルとは別の入口を見つけたいんです。

――昔でいうと、伊藤かりんさんの将棋みたいな?

吉田 そうですね。「この子、アイドルなのに、こういうことやっているんだ」というところから、自分を知ってもらいたくて。

――具体的には、どういうジャンルでそうなろうと?

吉田 私はゲームが好きで、普段ゲーム配信の動画を観ていて、いろいろ知っていくこともあるんです。そういうふうに、ゲーム好きの方にもっと乃木坂46を知ってもらいたいんです。単に自分がゲームをやりたいという、私欲も混ざっていますけど(笑)。

――最近はどんなゲームをやっているんですか?

吉田 『Apex(Legends)』です。時間があればあるだけやっちゃいます(笑)。

お芝居の引き出しを増やして無敵になります!

――ゆくゆくは女優を目指す、というわけではないですか?

吉田 今はまだ、最終目標が定まってなくて。やれることは全部やりたいです。

――差し当たり『フルーツバスケット』に関しては、どんな準備をして臨みますか?

吉田 去年この舞台に出ることが決まってから、月に1~2回、お芝居の先生とのレッスンの時間を作っていただいています。その中で、今の自分に足りないことがいっぱいあるので、本番までに少しずつなくしていけたらと。

――現状、どんなことが足りないんですか?

吉田 感情の乗せ方やキャラクターの心情の捉え方のパターンが、自分の中で少なくて。そういう引き出しを稽古でどんどん増やして、お芝居に厚みを持たせたいと思っています。

――公演が終わる頃には、引き出しがだいぶ増えてそうですね。

吉田 もう無敵状態になっています(笑)!

撮影/松下茜

Profile

吉田綾乃クリスティー(よしだ・あやの・くりすてぃー)

1995年9月6日生まれ、大分県出身。

2016年に「乃木坂46第3期生オーディション」に合格。2019年に舞台『ゲームしませんか?』、2020年に映画『三大怪獣グルメ』に出演。3月4日より上演の舞台『フルーツバスケット』で主演。

舞台『フルーツバスケット』

3月4日~13日/日本橋三井ホール

出演/吉田綾乃クリスティー、北川尚弥、橋本祥平、安里勇哉ほか

(C)高屋奈月・白泉社/舞台「フルーツバスケット」製作委員会2022
(C)高屋奈月・白泉社/舞台「フルーツバスケット」製作委員会2022

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

斉藤貴志の最近の記事