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藤井聡太王位(19)先手番相掛かりで序盤から緊迫感あふれる進行に 王位戦第5局1日目開始

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

「定刻になりました。藤井王位の先手番で始めてください」

 立会人の深浦康市九段が合図をして、両対局者は「お願いします」と一礼しました。

 8月24日9時。徳島県徳島市・渭水苑においてお~いお茶杯第62期王位戦七番勝負第5局▲藤井聡太王位(19歳)-△豊島将之竜王(31歳)戦が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 副立会人の武市三郎七段(67歳)は地元徳島市出身。現役時にはプロではほとんど見られない筋違い角戦法を多く用いるなど、独創的な棋風で知られました。

 対局室は上座側が赤地、下座側が青地の座布団であることが目をひきます。

 8時48分頃、豊島挑戦者が入室。青い座布団の方に座りました。

 続いて49分頃、藤井王位入室。床の間を背にして、赤い座布団の方に座りました。

 藤井王位は除菌シートで念入りに両手を拭いたあと、駒箱に手を伸ばします。

 両対局者ともに大橋流で駒を並べ終えたあと、藤井王位は「お~いお茶」のペットボトルの蓋を開け、グラスに冷たいお茶を注ぎました。

 対局が始まったあと、藤井王位はグラスを口にしてお茶を飲み、飛車先の歩を突きます。

 藤井王位先手番の第1局は相掛かり。第3局は角換わり。そして第5局。藤井王位は相掛かりを選びました。同じ相手と対戦し続ける中、戦法のローテーションも重要な戦略となります。

 9手目。藤井王位は盤面左端、9筋の歩を突きます。なにげない一手のようですが、ここには近年急速に強くなってきたディープラーニング系のソフトの影響が識者からは指摘されています。

 23手目、藤井王位は2筋の飛を大きく7筋に回しながら歩を取ります。一昔前ならびっくりするような順ですが、ソフト研究が進んできてからはよく見られる進行になっています。

「ああー! ▲8七歩じゃなかった!」

 27手目。藤井王位は角頭に歩を打たず、角筋を開いた手を見て、ABEMA解説の谷合廣紀四段が声をあげました。相手から角頭に歩を垂らされる怖いところ。しかしわずか4分の消費であるところから、もちろん対策は用意していることがわかります。

 30手目。豊島挑戦者は歩を垂らして動いていきます。藤井王位は得した歩を相手の飛車先に打ち返して対応。序盤から緊迫感あふれる局面が現れました。

 40手目。豊島挑戦者は居玉の頭に金を上がって、自陣を整えます。ここまでの消費時間は藤井9分、豊島54分。ここで藤井王位の手が止まり、長考に入った気配です。時刻は11時を過ぎました。

 王位戦七番勝負の持ち時間は各8時間の2日制。1日目は昼食休憩をはさみ、18時に手番の側が次の手を封じて指し掛けとなります。

対戦続く両者

 両対局者はつい2日前、叡王戦五番勝負第4局で対戦。豊島叡王が勝ってカド番をしのぎました。

 19歳1か月、史上最年少での「藤井三冠」の誕生はいったん阻止された格好です。

 王位戦でも、豊島挑戦者はカド番の立場です。(相撲界と違って、将棋界では防衛する側、挑戦する側を問わず、どちらかがあと1敗で番勝負敗退となる状況を『カド番』と呼びます)

 王位戦、叡王戦合わせての、いわゆる「ダブルタイトル戦」はここまで藤井5勝、豊島3勝。「十二番勝負」もいよいよ終盤で、本局は両者今年度9回目の対戦です。

 竜王戦では現在、藤井王位が永瀬拓矢王座と挑決三番勝負を戦っています。第1局を勝った藤井王位は、あと1勝で豊島竜王への挑戦権を獲得。すると両者今年度3回目のタイトル戦での対決で、通計すれば「十九番勝負」となります。年度内の同一対戦記録は23局。もしかしたら、その数字に近いものになるかもしれません。

 藤井王位はこれまで280局戦って235勝45敗(勝率0.839)という恐ろしい成績を残しています。

 280局のうちの15局が豊島戦。成績は6勝9敗です。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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