東芝不正問題から考える服従行動と組織の心理学:プレッシャーに負けず幸福に発展するために
強い罰やプレッシャーは、かえって不正行為を生む!? 満場一意の組織はいずれつぶれる!?
■東芝不適切会計 「経営トップら組織的な関与」「上司に逆らえぬ企業風土」
多くの国民から信頼されてきた東芝の残念なニュースです。東芝日曜劇場のテレビドラマ「半沢直樹」や「ルーズヴェルト・ゲーム」の主人公は、企業の不正と勇敢に戦ってきたのに。
さて、今回のニュースを、心理学の基礎研究から考察し、人間の心理と組織のあり方について考えたいと思います。何が問題であり、どうすれば、幸せな発展を続けることができるのでしょうか。
■厳しいチャレンジと強いプレッシャー:罰の心理学
調査委は、売上高や利益などの目標で「厳しいチャレンジ」(ノルマ)を課し、強いプレッシャーをかけたと指摘しています。罰で脅せば、人は動きます。しかし心理学的に言えば、、罰は何をしてはいけないかは教えても、何をすべきかは教えません。
目標が達成できないと厳しい罰を受けると思えば、人は罰を避けるために必死の努力をします。その結果、売り上げが伸びることも短期的にはあるでしょう。しかし、このときの人の働く目的は、「罰を受けないこと」です。
そうなってしまえば、会社全体の利益ではなく、自分の部門だけのノルマ達成を考えてしまいます。さらに悪化すれば、他部門の足を引っ張る発想をする人も出ますし、不正を働いてでも罰を避けようとします。
福知山線脱線事故においても、「日勤教育」という厳しい罰を避けたいと考えた運転士は、自分のミスをごまかそうとし、その結果大事故を起こしてしまいました。
非行少年の研究でも、彼らは悪いことをして罰を受けないようにしようとは思っているのですが、だからバレないようにしようと思ってしまうことがわかっています。
罰が必要なこともあります。しかし罰を避けることだけが行動の目的になってしまうと、人は道を誤るのです。
■上司の意向に逆らえない:服従行動の心理学
上司に逆らわず指示に従うのは、社会心理学的に言えば「服従行動」の一つです。人はどこの国の人でも、上からの圧力には弱いものです。
上司(上官)に命令されると、人は不正行為であることに目をつぶり、会社(国)のためになすべき行為と自分を納得させ指示通りに動きます。あるいは、自分には責任がない悪いのは上司(上官)だと考えることで、良心の呵責(かしゃく)から逃れようとします。
一人ひとりが、きちんと不正行為だと自覚すべきなのですが、これはなかなか難しいことです。このような心理は、日本もアメリカも変わらないのですが、和と上下関係を重んじる日本は、服従行動が起きる組織を作りやすいでしょう。そのようなまとまりの良い組織は、順調なときには、業績を上げると思います。しかし、方向が狂うと修正が難しくなってしまいます。
人は服従しやすいものです。だから、服従行動がでやすい組織、環境を作らないことが大切です。疑問や反対意見を言いやすい環境を作らなくてはなりません。それは、不正を防ぐためだけではありません。組織心理学の研究によれば、満場一致でことが決まる組織はいずれ衰退します。
■幸福と発展のために
たとえば、社長にとって目の上のたんこぶ的な人がいます。いつも、疑問をはさんできたりします。もちろん、一致団結は必要です。しかし、どんな有能な社長も一人だけで会社を背負い続けられません。別の観点からの見方が必要なのです。
反対意見を言う人に混乱させられは困りますが、反対意見が言えるような環境は、組織の発展のためには必要です。
NHKの「プロジェクトX〜挑戦者たち〜」(主題歌は「地上の星」)では、そんなはみ出し者たちが活躍します。企画を出したけれども、社長に反対された。でも、こっそり開発を続け、ついに社長にも認めてもらい、大きな仕事を成し遂げたといった話がたくさん出てきました。
自分の意見が言えることは、一人ひとりの心の健康ややる気を高めるだけではなく、健全な会社組織や国作りにも大切なことです。
堺屋太一氏の『組織の盛衰』を読むと、前年比何パーセントアップといった目標だけでは、会社組織の持続可能な発展はないとあります。大切なのは、働くことの社会的意義と喜びを感じることです。
社員が生き生きと働くことは、個人のためであり、会社のためであり、私たちみんなのためなのです。