JR福知山線脱線事故から8年。「安全文化」を作るために
事故から8年。今も遺族の心は癒されません。負傷者のの半数は、今も心身の不調に苦しんでいます(福知山線脱線8年、負傷者の半数なお心身不調読売新聞)。今もPTSDに苦しんでいる人もいます(福知山線事故でPTSD時事通信)。
JR福知山線脱線事故
2005年4月25日午前9時18分、JR福知山線(宝塚線)の塚口-尼崎間のカーブで、宝塚発同志社前行き上り快速列車(7両編成)の1~5両めが脱線、1、2両めが線路わきのマンションに衝突。106名が死亡し、562名が負傷。JR史上最悪の事故。
福知山線脱線事故の直接原因
運転士の運転ミス。速度超過。減速しないまま時速116キロでカーブに突入。本来は、40秒前からブレーキをかける場所でした。
事故直前の運転士の心理
脱線事故現場前の伊丹駅で、運転士は70メートルのオーバーラン(正しい停車位置を越える運転ミス)を行っています。列車にはここで約1分30秒ほどの遅れがでます。運転士は、このままであれば再び「日勤教育」(ミスを犯した者への懲罰的研修)が科せられると恐れたのでしょう。運転士は車掌に、社内電話で「まけてくれへんか」と頼んでみます。
車掌が運転士と話そうとしたとき、乗客が「遅れの説明をしろ」と車掌に迫ります。車掌は、運転士との会話をやめ、車内放送を行い、その後、総合司令所に連絡します。「8メートルのオーバーラン、一分半の遅れ」。
運転士は、おそらく車掌と総合司令所との会話に耳を傾けていたと思われます。総合司令所は、車掌の言葉の一部が聞き取れず、聞き返します。運転士はさらに車掌との会話に神経をとがらしていたでしょう。これが、40秒間の出来事です。最後に運転士はブレーキをかけますが、列車は猛スピードで脱線し、マンションに激突しました。JR福知山線脱線事故調査委員会報告書を読んで:空白の40秒に何が起きたか
事故の背景原因
- ATS:自動列車停止装置の不設置。
- 余裕のない過密ダイヤ。
- 懲罰的な日勤教育。
ヒューマンエラー
直接的には、運転士の運転ミス、ヒューマンエラーですが、その背景となるJR西日本の組織的問題も指摘されています。ヒューマンエラーは、人間のミスですけれども、人間を原因として責めて終わるのではなく、様々な事柄の結果として人間のミスが起こると考え、事故防止を目指す考え方です。JR福知山線脱線事故から学ぶヒューマンエラーの心理
PTSD
PTSD:心的外傷後ストレス障害の研究によると、100年前の列車事故時にPTSDが見られるようです。今も昔も列車事故は悲惨です。場所の事故とは異なります。自分のケガだけではなく、その地獄のような悲惨な状況がPTSDを作り出します。ただし、100年前は保険金目当ての仮病と考えられたようです。JR福知山線脱線事故から学ぶPTSDの心理
組織の安全文化
お客第一、スピード第一ではなく、安全第一が必要です。この「安全文化」を組織の中に作り上げなくてはなりません。ミスを防ぐ工夫、ルール違反をせず、報告・学習・正義・柔軟性のある態度を養わなくてはなりません。
その一つの方法として、イギリスでは「組織罰」に関する法律が作られています。現在の日本でも、刑法は個人を裁くものであり、福知山線脱線事故でも、組織の問題は指摘されつつ、組織自体を裁く事はできませんでした。
組織罰の制度を作ったイギリスでは、事故予防対策が進み、事故が30%減少しました。ただし、行きすぎてしまえば、組織内がギスギスし、かえってヒューマンエラーが発生しやすくなる恐れもあります(NHK『クローズアップ現代』2013.4.24放送「“企業の罪”は問えるのか」)。
私たちの安全文化
事故を防ぐためには、経済の発展も必要です。利益が上がらなければ、ATSも設置できません。人間は、ミスを犯します。しかし、機械のトラブルをカバーし、事故を防ぐのも人間です。事故を犯した個人や組織は責任を問われて当然です。しかし、単に責めること、侮辱するだけでは、かえって事故を増加させることもあるでしょう。
一時の感情に流されず、冷静な対処が必要です。しかし同時に、被害者や被害者遺族らによる熱い思いが、私たちの心に響き、国を動かすこともあります。
「文化」は、短期間にはできないでしょうし、一部の人だけでは作れないでしょう。乗客自身も、「安全第一」と考える必要があります。安全文化を創り上げる責任は、私たちみんなにあるのではないでしょうか。
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JR福知山線脱線事故から学ぶヒューマンエラー・心の傷の心理学:こころの散歩道
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