半沢直樹はなぜ土下座しても落ち込まないのか。:自己決定感と健康の心理学
■半沢直樹、土下座
人気絶頂のTBS日曜劇場ドラマ『半沢直樹』。先週第7話は、ラスト近くの土下座のシーンが最高視聴率で、34.2%。
さて今週は、主人公半沢直樹が土下座をしたままで、「悪役」の大和田常務が、「颯爽(さっそう)と」去って行くシーンから始まりました。先週見たときは、ずいぶん悔しそうに土下座しているように見えましたが、今日(9月8日第8話)では、半沢直樹はさばさばとして言います。
「これで担当を続けられるなら土下座など安いものです」。
屈辱的な土下座を父の敵(かたき)大和田に要求されて従ったのに、なぜ半沢直樹は堂々としていられたのでしょう。
■土下座で傷つくとき、傷つかないとき:自己決定の心理
以前、あるドラマで見ました。
ファミレスに横暴な客がやって来ます。アルバイトのウエイトレスさんにいちゃもんをつけ、カンカンにに怒って怒鳴っています。
「土下座しろ! 土下座して謝れ!」
ウエイトレスの若い女の子は、目に涙をためて震えています。
そこに、かっこいい店長登場。
「君は下がっていなさい」とウエイトレスさんを後ろに下げ、そして怒鳴る客に向かって、
「ここは私があい変わりまして」と、土下座をします。
さて、もしも怒鳴られて命令されるまま、このウエイトレスさんが土下座していたらどうでしょう。もう、心はぼろぼろ、体もよれよれ。泣きながら自宅に帰り、もうウエイトレスなんかできないと店を辞めるでしょう。
さて、土下座の何が辛いのでしょう。ヒザや腰の痛みでしょうか。そうではありません。同じことは店長もしました。けれど、店長の心身はぼろぼろになったりしませんでした。
ウエイトレスさんは、客に土下座させられようとしていました。彼女一人では、どうしようもありません。他に選択肢がありません。悪人に支配され、屈服させられた行為です。これは、心が傷つくのも当然です。
しかし同じ行為でも、店長の土下座は、「自己決定」したものでした。「ここは、店長としてアルバイトを守らなければならない、他のお客様にもこれ以上迷惑をかけられない、ここで土下座するのが店長としての僕の役割だ」。そのように自分で判断した結果だったのです。
■心の健康と自己決定
以前、アメリカ軍で実施されたことです。人里離れたレーダー基地での勤務は、ストレスのたまるものでした。心身の調子をくずす人が続出しました。そこで、軍はレーダー基地に隊員が自由に使える自動車を置きました。
実際は、任務を放棄して町に出ることなどできません。重大な命令違反で、軍法会議です。でも、同じ命令を受けてレーダー基地にいるにしても、どうしようもなくて働くのと、自分で選んで働くのでは、心身が受けるダメージが全く違うのです。
■自分が人生の主役になるために
自己決定感を奪われた「やらされ感」は、学校でも職場でも大敵です。心理学の研究によれば、同じ行動でも自己決定感がないと疲れるし、ストレスがたまることがわかっています。自分自身で決定し、選び取とっていると感じるられることが、心の健康につながり、成績アップ、業績アップにつながるのです。
半沢直樹は、最初土下座するときは実は屈辱的だったかもしれません。でも、起き上がる前に自分の行動に対する考え方を変えたのかもしれません。
「これで担当を続けられるなら土下座など安いものです」。
半沢直樹はセルフコントロールのできる人間ですから、これは自分で選び取った行動だ、大事の前の小事だと、考えようとしたのかもしれません。
人間の行動の動機や感情は、複雑です。自分でもよくわかりません。行動した後で、その行動の解釈を変えるだけでも、感情が変わり、心身の健康具合が変わります。
子どもでも大人でも、自己決定「感」が大事なのです。
そして、選び取った意味のある行動は、見る人が見ればわかります。土下座する店長の姿を柱の陰から見ていたウエイトレスさんは、店長に恋をします。
以前、トヨタマークXのCMにもありました。取引先に行った部長(佐藤浩市)と部下のOL。本当は悪くないのに、課長は頭を下げ続けます。帰りの車の中で、OLさんは、不機嫌そうに言います。
「今日の部長は誤りすぎだと思います。・・・でも、かっこよかったです」。
半沢直樹も、かっこ良かったですよね。そして先週の土下座を受け今週第8話では「倍返し」。再来週第10話の半沢直樹最終回に向かって、仲間と一緒に「10倍返し!」です。
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