焼け野原になり金メダル失ったオリンピック選手も。米LAの山火事
カリフォルニア州ロサンゼルス近郊で山火事が同時多発している。現在も鎮火しておらず、暴風と極度の乾燥により火災は依然として急速に拡大している。広範囲にわたって周辺住民に避難勧告が出されている。
山火事の発生場所
複数の山火事が発生している。BBCによると2つの地域(ウッドリー、オリバス)の火災が鎮火したものの、依然として5つの地域(パリセーズ、イートン、ハースト、リディア、サンセット)で火災が発生している。
現時点では、イートン(Eaton)火災で少なくとも5人の死者が確認されている。
今後も残り火の状況や風向きなどにより、火災の状況は変更する可能性がある。
被災者には複数の著名人も
被災者は一般の住民に加え、パリス・ヒルトン氏など複数の著名人も所有する邸宅をこの山火事で失ったと伝えられている。ヒルトンさんは思い出深い自身の邸宅が焼失するのをテレビの生中継で観てショックを受けた心情を自身のSNSで明かした。彼女は家族と共に別の場所からテレビ中継で確認したという。ヒルトンさんのように避難のための滞在場所がほかにもある人はまだラッキーだろう。多くの人はセカンドハウスのような避難先がないのだから。
山火事により家や物を失った人の中には、元競泳選手のゲイリー・ホール・ジュニア(Gary Hall Jr.)氏(50)も含まれる。
オリンピックにも出場したホール・ジュニア選手は1996年のアトランタ大会、2000年のシドニー大会、2004年のアテネ大会の水泳競技で5つの金メダル、3つの銀メダル、2つの銅メダルを獲得した。だがUSAトゥデイなど複数のメディアが伝えるところによると、彼が仕事の拠点にしていた住まいと共にメダルなどほぼすべての物を火災で失ったという。
オリンピック選手であればおそらく命や家族の次に大切であろう勲章を一つも持ち出すことができなかったエピソードは、この山火事の発生があまりにも突然で、いかに火の回りが早かったかを物語っている。この火災でかけがえのない物を失ったのはホール・ジュニア氏だけではない。火の手がすぐそこまで迫り着の身着のままで避難した人は、写真アルバムも失ったと語っている。彼らの行動が遅かったからとかそういうことではなしに、命を守るため一刻を争う緊急事態に住民が直面していたのだろう。
筆者の知人のそのまた知人もこの山火事で自宅が全焼した。瓦礫と灰と化した火災跡地には何も残らなかったという。土地柄もコミュニティも気に入っていたが、この現状を目の当たりにするのは耐え難く、メンタルヘルスを保つためにしばらく住み慣れた場所を離れ、他州の親戚の家に身を寄せることを考えているという。
筆者が目にしたマウイ島の山火事の跡
大規模な山火事と言えば、2023年8月にハワイのマウイ島で発生したものが記憶に新しい。火災の発生から2ヵ月が経ったころ、私は現地を取材した。
この火災で、ラハイナという屈指の観光地および住宅街のすべてがなくなった。街全体を見渡せる小高い丘があったのでそこに立つと、目の前に広がった光景はまるで爆弾でも落とされたかのような焼け野原だった。それを目にし筆者は愕然とした。同時に山火事の恐ろしさを心から痛感した。
この時の山火事は乾燥、強風、電力設備の損傷などさまざまな要因が重なり、甚大な被害をもたらしたと言われている。被災地では2ヵ月が経過しても大規模火災による有毒ガスや瓦礫に残る有害物質を避けるため、被災地へ入ることは制限されていた。
自宅を失った被災者には地元のホテルの客室が避難先として提供された。しかしペットはホテルに連れて行くことが許されなかったため、焼け跡地に残されたペットに餌をあげるために毎日戻っている住民もいた。
彼らとの話から、火災ですべてを失うという経験者しかわからないやりきれない思いが伝わってきた。金持ちでもそうでなくても関係ない。その人の経済事情がどうであれ、持ち物が焼失するのは心を抉られる出来事なのだから。
このLAでの山火事について、今後も予断を許さない状況だ。とにかくまずは火災が鎮火することを祈る。そして火災ですべてを失った人が必要な支援や物資を手にし、心の回復のために適切なケアやサポートを受けられるようにと願うばかりだ。
(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止