AIが仕事を奪う? それとも進化に追いつけない人間の問題か?
アーティストやクリエイターが長い時間をかけて手掛けてきた創造的な作品を、AIはわずか数秒で生み出せるようになった。
人間のデータを基に創造されたAI作品は、真偽を見破ることが難しくなり、動画や作品の信頼性を損なう可能性がある。
このような状況に対して「好きではない」と公言したのは、フィンランドのサイバーセキュリティ専門家、ミッコ・ヒッポネンさんだ。
彼はAIについて「非常にエキサイティングで、少し怖い」と表現した。
「『芸術は人間によってのみ創造されるものだ』と私たちは考えていました。知性や創造性は肉体からしか生まれないと信じていたのです。私たちは肉体ですし、あなたも肉体です。そのため、知性や創造性、芸術を生み出す能力は人間にしかないと信じていました。しかし、それは間違いでした」
「私はこの変化を特に好ましく思っていません。近い将来、地球上で最高の詩人は人間ではなくなるかもしれません。AIが作った詩のほうが『優れていて、感動し、より意味がある』と誰もが同意する時代がくるでしょう。私は好ましいとは思いませんが、これはいずれ起こることです。そして、すでにその兆候は見え始めています」
創造物と収益の配分に関する疑問
AIが関与した創造物の収益は、どのように配分されるべきだろうか?
例えば、自動運転車が事故を起こしたとき、責任は誰にあるのかを問われるように、AIの創造物でも著作権や収益の分配、問題が発生した際の責任の所在を明確にする必要がある。
ヒッポネンさんは、このように述べた。
AI革命の影響と仕事の未来
「自分の仕事はAIには奪われない」と考えるのは甘い、とヒッポネンさんは警告した。
オスロ・ビジネス・フォーラムでの講演で、彼はこの問題について次のように語った。この催しは、ノルウェーで毎年開催されており、産業界のエリートたちが最新の知見を求めて参加する場だ。
イベントでは、参加者がどの程度AIを仕事に取り入れているかのアンケートが行われた。
- 「毎日使用する」……37%
- 「毎週使用する」……34%
- 「毎月使用する」……17%
- 「決して使わない」……8%
- 「毎時間使用する」……5%
この結果について、ヒッポネンさんは「教養の高い人の集まりなので、想像していた通り」としつつも、これに安心すべきではないと警告した。
仕事を失わないためのヒッポネンさんのアドバイス
- AIに依存せず、人間らしい対応ができる専門家になること
- AIの結果を鵜呑みにしないこと
- 常に自分で検証し、判断力を鍛えること
→ AIが生成した情報の真偽を必ず自分で再確認し、信頼できると判断した場合にのみ、仕事に活用する。自分の目で正しさを見極める知見を維持する。
AI革命を正しく理解するために
「AI革命のような大きな変化に直面するたび、私たちはその変化のスピードを過大評価し、その影響力を過小評価しがちです」と、「新しい時代において、まずはAIを積極的に使ってみることが大切」だとヒッポネンさんは述べた。
執筆後記
著作権はどうなるのか?
問題が発生した時の責任は誰にあるのか?
AIに個人情報や企業情報を安易に入力する危険性はいかなるものか?
北欧の専門家たちがAIについて語るとき、AI倫理にまつわる時間は長い。
「使わない」ことを推進しているのでもなく、ネガティブになっているのでもなく、時代の流れとして「使うことは推進する」が、同時に共存している倫理問題やリスクについて「意識的であれ」「見て見ないふりをするな」「情報の真偽の再確認をせよ」と警報を鳴らす傾向が強い。
日本と同じように、ノルウェーにも「AIで仕事を失うのでは」と感じている人はいる。北欧諸国で開催される様々なビジネスイベントで、AI関連のテーマが多いのは、時代についていこうとする「焦り」と、自分の企業や職の未来はどうなるのかという「不安」の反映でもある。
ヒッポネンさんが言ったように、「どうなんだろう」という「もやもや」を抱きながら、「まずは使ってみて」自分のスキルや働き方を変えていく柔軟性は、今は何よりも求められている時代なのかもしれない。