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AIが仕事を奪う? それとも進化に追いつけない人間の問題か?

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
ミッコ・ヒッポネンが語るAI倫理 写真:Oslo Business Forum

アーティストやクリエイターが長い時間をかけて手掛けてきた創造的な作品を、AIはわずか数秒で生み出せるようになった。


人間のデータを基に創造されたAI作品は、真偽を見破ることが難しくなり、動画や作品の信頼性を損なう可能性がある。

このような状況に対して「好きではない」と公言したのは、フィンランドのサイバーセキュリティ専門家、ミッコ・ヒッポネンさんだ。


彼はAIについて「非常にエキサイティングで、少し怖い」と表現した。

「『芸術は人間によってのみ創造されるものだ』と私たちは考えていました。知性や創造性は肉体からしか生まれないと信じていたのです。私たちは肉体ですし、あなたも肉体です。そのため、知性や創造性、芸術を生み出す能力は人間にしかないと信じていました。しかし、それは間違いでした」

私はこの変化を特に好ましく思っていません。近い将来、地球上で最高の詩人は人間ではなくなるかもしれません。AIが作った詩のほうが『優れていて、感動し、より意味がある』と誰もが同意する時代がくるでしょう。私は好ましいとは思いませんが、これはいずれ起こることです。そして、すでにその兆候は見え始めています」

創造物と収益の配分に関する疑問

AIに依頼すれば、数秒でオスロ・ビジネス・フォーラムに関する音楽が作曲できることなど、事例を次々と紹介する 筆者撮影
AIに依頼すれば、数秒でオスロ・ビジネス・フォーラムに関する音楽が作曲できることなど、事例を次々と紹介する 筆者撮影

AIが関与した創造物の収益は、どのように配分されるべきだろうか?


例えば、自動運転車が事故を起こしたとき、責任は誰にあるのかを問われるように、AIの創造物でも著作権や収益の分配、問題が発生した際の責任の所在を明確にする必要がある。

ヒッポネンさんは、このように述べた。

「大きな問題は、そのお金はどこに行くべきなのか、ということです。


例えば、ヒットした音楽の印税は、文章を依頼した人に行くべきでしょうか? それともAIシステムを開発した企業に行くべきでしょうか?作品の元となった(盗まれた)データの所有者に回すべきでしょうか?


AI自身に報酬を支払うべきなのでしょうか? 銀行口座を作って、そこにお金を預けるべきでしょうか? あるいは、ビットコインで保管するべきでしょうか?

生成されたAI作品の権利は誰のものなのかという倫理的な問題もあります。同時に、すべてが盗用されたコンテンツで構築されているわけでもありません」

AI革命の影響と仕事の未来

「自分の仕事はAIには奪われない」と考えるのは甘い、とヒッポネンさんは警告した。


オスロ・ビジネス・フォーラムでの講演で、彼はこの問題について次のように語った。この催しは、ノルウェーで毎年開催されており、産業界のエリートたちが最新の知見を求めて参加する場だ。

イベントでは、参加者がどの程度AIを仕事に取り入れているかのアンケートが行われた。

  • 「毎日使用する」……37%
  • 「毎週使用する」……34%
  • 「毎月使用する」……17%
  • 「決して使わない」……8%
  • 「毎時間使用する」……5%

この結果について、ヒッポネンさんは「教養の高い人の集まりなので、想像していた通り」としつつも、これに安心すべきではないと警告した。

「私たちに利益をもたらすAI革命は、同時に損失ももたらします。今回の技術革新は、従来の産業革命と異なり、高学歴のホワイトカラー職を脅かすでしょう。


産業革命や蒸気機関の登場時には、ブルーカラーの仕事が奪われました。しかし、配管工は引き続き必要とされるでしょう。代わりに、弁護士といった職種が大幅に削減される可能性があります」

仕事を失わないためのヒッポネンさんのアドバイス

会場を歩いていたAIロボット 筆者撮影
会場を歩いていたAIロボット 筆者撮影

  • AIに依存せず、人間らしい対応ができる専門家になること
  • AIの結果を鵜呑みにしないこと
  • 常に自分で検証し、判断力を鍛えること
    → AIが生成した情報の真偽を必ず自分で再確認し、信頼できると判断した場合にのみ、仕事に活用する。自分の目で正しさを見極める知見を維持する。

AI革命を正しく理解するために

「AI革命のような大きな変化に直面するたび、私たちはその変化のスピードを過大評価し、その影響力を過小評価しがちです」と、「新しい時代において、まずはAIを積極的に使ってみることが大切」だとヒッポネンさんは述べた。

執筆後記

著作権はどうなるのか?

問題が発生した時の責任は誰にあるのか?

AIに個人情報や企業情報を安易に入力する危険性はいかなるものか?

北欧の専門家たちがAIについて語るとき、AI倫理にまつわる時間は長い。

「使わない」ことを推進しているのでもなく、ネガティブになっているのでもなく、時代の流れとして「使うことは推進する」が、同時に共存している倫理問題やリスクについて「意識的であれ」「見て見ないふりをするな」「情報の真偽の再確認をせよ」と警報を鳴らす傾向が強い。

日本と同じように、ノルウェーにも「AIで仕事を失うのでは」と感じている人はいる。北欧諸国で開催される様々なビジネスイベントで、AI関連のテーマが多いのは、時代についていこうとする「焦り」と、自分の企業や職の未来はどうなるのかという「不安」の反映でもある。

ヒッポネンさんが言ったように、「どうなんだろう」という「もやもや」を抱きながら、「まずは使ってみて」自分のスキルや働き方を変えていく柔軟性は、今は何よりも求められている時代なのかもしれない。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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