王者・伊藤雅雪は“厄介な挑戦者”を圧倒できるか WBO世界スーパーフェザー級タイトル戦直前プレヴュー
5月25日
フロリダ州キシミー オセオラ・ヘリテージ・パーク
WBO世界スーパーフェザー級タイトル戦
王者
伊藤雅雪(横浜光/28歳/25勝(13KO)1敗1分)
対
挑戦者
ジャメル・ヘリング(アメリカ/33歳/19勝(10KO)2敗)
2度目の防衛戦であり、”ビッグファイトの前哨戦”
「ここまでの調整は本当に僕の中で今回、今までで一番良いと思えるくらい良い練習もできたし、体重の作り方もすごい良かった。まったく問題ないと思います」
24日にオーランドのホテルで行われた前日計量後、伊藤はいつも通りに爽やかな笑顔でそう述べた。本人の言葉通り、実際に仕上がりは良さそう。ESPNで全米生中継されるステージで、実力が発揮できる状態であるのは間違いないだろう。
計量の際にはWBC同級王者ミゲール・ベルチェルト(メキシコ)が壇上に登場するシーンもあった。27歳のメキシカンは今夜の試合後もリングに上がり、勝者と何らかの形で絡むつもりではないか。
「まだ統一戦の正式に交渉をスタートしたわけじゃない。まずは今回の試合がどうなるかを見てみよう。ただ、この興行に関わっている誰もがビッグファイトを望んでいることは間違いない」
ボブ・アラム・プロモーターはそう述べており、トップランクが近未来の統一戦に向けたシナリオを描いていることは間違いない。
アメリカでの大舞台を望む伊藤にとっても願ったり叶ったり。そのことに水を向けると、「(統一戦の機運が高まっていることは)もう嬉しいだけですね。これがしたくてアメリカで戦っているんで」と笑顔だった。
トップランクとの第1戦は、世界タイトル2度目の防衛戦であり、”ビッグファイトの前哨戦”であるといっても過言ではない。
プロモーション活動は挑戦者推し?
もっとも、今戦を前にして、トップランク/ESPNは伊藤だけを強烈にプッシュしているというわけではない。
ファイトウィークに入り、ESPNの解説者を務めるマイク・クリーゲルが2009年に実娘をSIDSで亡くしたヘリングのライフストーリーを掲載。試合当日にはソーシャルメディア上にマーカス・ブラウン、ラシーン・ウォーレン、クラレッサ・シールズ、ホゼ・ラミレス(すべてアメリカ)といった現役ボクサーたちからのヘリングへの応援メッセージを投稿するなど、主催者側はどちらかといえば挑戦者のプロモーションに重きを置いている印象すらある。
もともとヘリングはマリーン出身のロンドン五輪代表というユニークな背景から、米東海岸では存在感のある選手。メモリアルデイ週末の世界初挑戦、試合当日は亡くなった娘さんの10歳の誕生日というドラマもあり、ESPNが目をかけるのも当然ではある。
すでに2敗を喫しているヘリングは米国内でも“元プロスペクト”と見られてきたが、一方で長身サウスポーは伊藤にとってやり易いタイプではないと指摘する声も聴こえて来る。ライト級から下げてきたヘリングに対し、昨年7月のクリストファー・ディアス(プエルトリコ)戦のような明白なサイズアドバンテージは伊藤側にない。王者が効果的に距離を掴めなかった場合、アップライトで構える挑戦者の左パンチが少なからず機能する可能性は確かにあるのだろう。
相手の母国で強烈アピールできるか
プエルトリカンの多いキシミーは、ニューヨーク出身のヘリングにとって “地元”とは言い切れない。それでも当日の会場はやはりアメリカ人の挑戦者寄りか。ヘリングが好スタートを切った場合、アリーナ、 ESPNの放送席は新王者誕生を期待するような雰囲気となりそうではある。
そんな必ずしも容易ではない状況下で、総合力で上回る伊藤は力を出し切れるか。ミドルレンジ〜クロスレンジの有利な距離に身を置き、得意の右カウンターをヒットするシーンを演出できるか。心強いのは、伊藤は昨年7月に同じキシミーで、完全アウェーの条件でプエルトリカンのロペスを下した経験があること。それもあってか、王者は確実に充実感と自信を感じさせている。
「KOを狙っていきます。倒す姿勢を見せて、みんなに喜んでもらえる試合をするべきだと思います」
試合前日にそういった言葉を残せるのは、すべての準備をやってきたという裏付けがあるからだろう。
ここではあえて不安要素も幾つか挙げてきたが、予想するならやはり攻撃のバリエーションと時の勢いで勝る王者優位は動くまい。ヘリングには経験と地の理ががあったとしても、アマキャリアなしでここまで辿りついた伊藤には豊富な伸びしろという魅力もある。パワーとともに戴冠後の成長度を見せつけ、中盤あたりで明白に主導権を奪うのではないか。
タイプ的に厄介で、ESPNのプッシュも受けた相手に勝てば、評価、知名度もさらに上がるはず。そういった意味で、去年のディアス戦が“ホップ”なら、ヘリング戦は“ステップ”の舞台。遠からず訪れるであろう“ジャンプ(=統一戦)”の機会に向けて、伊藤は難敵を印象的な形で倒せる逞しさを誇示しておきたいところだ。