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「シュトーレン」に続くブームの予感!クリスマスに欠かせない焼き菓子とは?

平岩理緒スイーツジャーナリスト
シュトーレンに続き注目のクリスマス菓子「パネットーネ」画像提供・プリンチ(R)

クリスマスの伝統菓子「シュトーレン」が日本でブームになった理由とは?

ドイツのクリスマス菓子「シュトーレン」は日本でもかなり浸透した(画像提供・京王プラザホテル)
ドイツのクリスマス菓子「シュトーレン」は日本でもかなり浸透した(画像提供・京王プラザホテル)

「シュトーレン(シュトレン)」は、ドイツ語で「Stollen」。ドイツ東部のドレスデン発祥と言われるクリスマス菓子だ。酵母などを使った発酵生地に、お酒に漬け込んだドライフルーツやナッツ類、スパイスなどを混ぜて焼き上げる。表面に溶かしたバターの上澄みを染み込ませ、砂糖で覆うことで日保ちが長くなる。その真っ白な姿が、聖母に抱かれる幼子イエス・キリストの“おくるみ”を模していると言われる。

ヨーロッパではクリスマスの4週間前からの時期を「Advent(アドベント)」と呼び、イエス・キリストの降誕を待ち望む期間となる。シュトーレンはそんな時期に薄くスライスしながら少しずつ味わうお菓子で、自家用はもちろん、この季節の贈り物としても欠かせない。

日本でも数年前より、百貨店が「シュトーレン」の販売強化をしたり、全国紙の新聞が人気店のシュトーレンの食べ比べ評価記事を掲載したりと、多くの消費者の目に触れる機会が増えていった。

クリスマスケーキであれば数日間しか販売できないが、焼き菓子であれば、クリスマスギフトとして1ヶ月程度は充分に販売できる。日保ちも長いため、食品ロスの問題を回避できるメリットもある。

「シュトーレン」はドイツ菓子なので、フランス菓子を学んだパティシエは「作ったことが無い」ということも意外と多い。しかし、現在のパティシエ業界は、ボーダーレス、グローバル化の時代。フランス菓子を学んだパティシエも、他国の菓子でいいと思ったものがあれば、採り入れるケースが多い。更に言えば、シュトーレンはドイツ国境に近いフランスのアルザス地方でも作られるので、フランス菓子専門店で扱っても違和感はない。また、発酵生地のためパン専門店でも作りやすく、扱う店が続々と増えた。その結果、一部の都市圏のみのトレンドにとどまらず、「クリスマスにはシュトーレン」という習慣が、日本全国でもかなり浸透してきたのである。

2019年、「パネットーネ」が注目される理由とは?

2019年オープンの「LESS by Gabriele Riva & Kanako Sakakura」は「パネットーネ」を看板商品とする(筆者撮影)
2019年オープンの「LESS by Gabriele Riva & Kanako Sakakura」は「パネットーネ」を看板商品とする(筆者撮影)

一方、「パネットーネ(又はパネトーネ イタリア語:Panettone)」は、ミラノ発祥と言われ、イタリアのクリスマス時期に欠かせない伝統菓子だ。名前の由来には諸説あり、昔、アントーニオというミラノのパン職人が考案したパンということから、アントーニオの愛称を取った“トーニのパン”という意味の「パーネ・ディ・トーニ (pane di toni)」が転じたといった言い伝えもある。

本場では「パネットーネ種」と呼ばれる独自の発酵種を練り込み、レーズンやオレンジピールといったドライフルーツを刻んだものを混ぜて焼き上げる。イタリアでは、クリスマスはもちろん、12月中に「お歳暮」のように贈り合うものだ。

日本でも、クリスマス時期になると、イタリアの老舗ブランドの物が輸入販売され大手スーパーや百貨店で販売されたり、多国籍の利用客を迎えるホテルのペストリーショップやベーカリーで販売されたりと、この5-6年で少しずつ浸透してきた。

2019年9月、目黒区三田にオープンした菓子店「LESS by Gabriele Riva & Kanako Sakakura」は、ミラノの菓子店に生まれ各国で腕を磨いたRivaシェフによるスペシャリテのパネットーネを看板商品とする。クリスマスだけでなく、通年でパネットーネを楽しんでほしいと、定番の味と柑橘ピールを多めに配合した2タイプを揃える。ホールサイズだけでなく、試食にもぴったりな1/4カットサイズの販売もあり、クリスマスの限定味も予約販売する。

店の厨房には、イタリアの菓子店ではメジャーな、パネットーネの生地をこねるのにも最適な動きをする特別なミキサーが導入されている。このミキサーを国内で開発製造した機械メーカー「株式会社ツジ・キカイ」の代表取締役社長・山根証氏曰く、イタリア製のミキサーを複数見た上で、研究と試作を重ねて完成させたという。実は、お菓子のブームの裏側には、このような機械メーカーの隠れた努力もある。たとえば、バウムクーヘンのブームの陰にも、日本の機械メーカーが優れた機能を持つバウムクーヘン専用のオーブンを開発、販売してきた背景があった。「パネットーネ」もまた、日本の高い技術力に支えられて、今後も製造する店が増えていきそうだ。

ヨーロッパ発の菓子が日本でブームとなる鍵は?

イタリアから日本に進出した「プリンチ(R)」では、1人分サイズの「ミニパネトーネ」を販売する(筆者撮影)
イタリアから日本に進出した「プリンチ(R)」では、1人分サイズの「ミニパネトーネ」を販売する(筆者撮影)

実は2019年、イタリアから日本に初上陸したベーカリーでも、オープン時からこの菓子を販売し、多くの人の目に触れる機会となった。それが、2月末に東京・中目黒にオープンし話題を呼んだ「STARBUCKS RESERVE(R) ROASTERY TOKYO(スターバックス リザーブ(R) ロースタリー 東京)」内に1号店が出来た「プリンチ(R)(Princi(R))」だ。「プリンチ(R)」は1980年代にイタリア・ミラノにオープンし、創業者ロッコ・プリンチ氏の手掛ける店舗がミラノとロンドンにあるほか、シアトル、上海、ミラノ、ニューヨーク、そして現在は東京都内に3店舗と、世界各地に出店している。

イタリアのパネットーネは多人数で分けられる大きなサイズが一般的だが、「プリンチ(R)」では、1人分サイズの「ミニパネトーネ」を販売。伝統的な味わいの「クラッシコ」と、イタリアらしくレモンピール入りの「リモーネ」があり、カップケーキのような感覚で気軽に楽しめる。お洒落な紙箱入りのギフトパッケージもあり、ちょっとした手土産にも向く。

「プリンチ(R)」の「ホリデー パネトーネ」は、イタリアのクリスマスのように皆で楽しめるビッグサイズ(画像提供・プリンチ(R))
「プリンチ(R)」の「ホリデー パネトーネ」は、イタリアのクリスマスのように皆で楽しめるビッグサイズ(画像提供・プリンチ(R))

クリスマス時期には、通常販売品の約9倍の大きさというビッグサイズの「ホリデー パネトーネ」として、期間限定で販売。1人や店内でも楽しめるよう、スライスでも提供するという。

イタリアの老舗カフェ「カフェ コヴァ ミラノ」の「パネットーネ・トラディショナルレシピ」(画像提供・カフェ コヴァ ミラノ)
イタリアの老舗カフェ「カフェ コヴァ ミラノ」の「パネットーネ・トラディショナルレシピ」(画像提供・カフェ コヴァ ミラノ)

2019年11月1日に大型商業施設「渋谷スクランブルスクエア」がオープンしたが、その4階に開業した「カフェ コヴァ ミラノ」は、1817年にイタリアのミラノに創業。現在、本店を含め世界20を超える店舗を展開する老舗カフェだ。

こちらのスペシャリテである「パネットーネ・トラディショナルレシピ」は、創業当初から受け継がれる門外不出のレシピで作られるもの。日本でもホールサイズで通年販売する。

「カフェ コヴァ ミラノ」店内でイートインできるスライスされた「パネットーネ」(筆者撮影)
「カフェ コヴァ ミラノ」店内でイートインできるスライスされた「パネットーネ」(筆者撮影)

店内イートインメニューとして、スライスしたパネットーネに2種類のソースを添えて提供される。この分量ならば1人でもトライしやすい。特有のしっとりとやわらかい質感に、レーズンやオレンジの爽やかな香りと食感がアクセント。カスタード味のアングレーズソースとチョコレートソースをからめて味わう、日本ではこれまでに無かった楽しみ方が新鮮だ。

日本の場合、「シュトーレン」も、本場ドイツで作られる物に比べるとサイズは小さめだ。さらに、お試し用に「1枚スライス売り」をする店も少なくない。「パネットーネ」も同様で、日本で浸透させるには、1人で気軽に楽しめるポーションやサイズの提案が望ましい。そういう店が増えてきた現在、今後、より多くの人に知られる機会が増えていくだろう。

まだ「パネットーネ」を食べたことが無いという方は、ぜひこの機会に召し上がってみてほしい。

スイーツジャーナリスト

マーケティング会社勤務を経て、製菓学校で菓子の基礎を学び、スイーツジャーナリストとして独立。月200種類以上の和洋菓子を食べ歩き、各種媒体で発信。商品開発コンサルティング、イベント企画や司会、製菓学校講師、コンテスト審査、スイーツによる地方活性化支援など幅広く活動。スイーツ情報サイト「幸せのケーキ共和国」主宰。「All About」スイーツガイド、「おとりよせネット」達人、日経新聞のランキング選者等も務める。著書『東京最高のパティスリー』(ぴあ)、『まんぷく東京レアもの絶品スイーツ』(KADOKAWA)、監修『厳選スイーツ手帖』『厳選ショコラ手帖』(共に世界文化社)等。

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