「ワンピース」の24時間全話ライブ配信の衝撃から考える、誰もがテレビ局になれる時代
テレビアニメ「ONE PIECE」が放送開始から25周年を迎え、これまでのテレビアニメの常識では考えられないような企画を実施されているのをご存じでしょうか?
その企画の名前は「ANYTIME ONE PIECE」。
直訳すると「いつでもワンピース」と言えば良いでしょうか。
なんと、テレビアニメ「ONE PIECE」の全話を、25周年のこれから1年間、24時間365日、YouTubeチャンネルでライブ配信するというのです。
既にライブ配信は10月29日からはじまっており、11月2日夜に「エニエス・ロビー編」に突入。
同時視聴者数は配信開始から日を追うごとに増加をつづけており、11月3日の記事執筆時点でなんと17万人を超えています。
これはある意味で、ワンピース専門テレビ局が、YouTube上に開局していることになります。
間違いなくテレビアニメの歴史に、新しい1ページを書き込む取り組みと言えるでしょう。
テレビアニメ視聴の常識の変化
従来テレビアニメというのは、基本的にはテレビで放送されているときに視聴するもので、見逃したら再放送の機会でも無い限り、二度と見ることができないものでした。
それがNetflixのような動画配信サービスの普及により、有料の動画配信サービスに加入すれば、いつでも好きなタイミングでアニメが見れるようになります。
この変化を最大限に活用したのが2019年〜2020年にかけて生まれたアニメ「鬼滅の刃」の大ヒットだったと言えるでしょう。
参考:『鬼滅の刃』はアニメ流通のパラダイム・シフトを起こした。いまアニメ業界に起きている変化とは?
その後、2021年には今度はアニメ「ONE PIECE」がYouTubeで130話まで毎週5話ずつを無料配信という実験を始め、これが今回の「ANYTIME ONE PIECE」につながるテレビアニメの本格的なYouTube活用につながることになります。
参考:アニメ「ONE PIECE」、YouTubeで130話まで無料配信。毎週5話ずつ
こうした実験により、「ONE PIECE」公式YouTubeチャンネルは、着実にYouTube活用のノウハウや可能性を蓄積。
大ヒットした映画「ONE PIECE FILM RED」においても、YouTubeを最大限活用し、ウタのライブ配信を実施したり、ウタとルフィの幼少時代を描く映画連動エピソードを無料公開することで、映画のヒットに貢献していました。
参考:記録更新続出の映画「ワンピース」に学ぶ、大ヒットの背景にある緻密なハイブリッド戦略
そして、今回の「ANYTIME ONE PIECE」により、テレビアニメ「ONE PIECE」によるYouTube活用は、全く新しい1ページを開いたことになります。
「ONE PIECE」の小さなテレビ局としての可能性
もちろん、視聴者の利便性で言えば、有料の動画配信サービスで1話ずつ観る方が、24時間全話配信よりも高いと言えます。
何しろテレビアニメの「ONE PIECE」は既に1000話を超えていますから、1話から全話配信するまでに、そもそも20日くらいかかるそうです。
当然ながら、24時間全話配信で、全話を眠らずに視聴できる人などいないわけです。
原作者の尾田先生もSNS上に「企画がイカレてる!!」と驚きのコメントを寄せているほど。
一方で、「ANYTIME ONE PIECE」企画の凄いのは、アニメの24時間ライブ配信でも、YouTubeで無料配信することで17万人以上の同時視聴者を集めることができると証明してしまった点です。
もちろん、今後の同時視聴者数がどのように推移するかは分かりませんが、少なくともテレビアニメ「ONE PIECE」には、毎日10万人以上の視聴者を集め続けることができる、小さなテレビ局としての可能性があることが証明されたことになります。
今回のテレビアニメ配信中に放映しているコマーシャルは、あくまで「ONE PIECE」の25周年を記念して作成された「#ひとつなぎの150秒」を使っているようですが、当然ここを広告主に販売することも可能なわけです。
従来、「ONE PIECE」のようなコンテンツホルダーは、テレビ局に放映枠をもらい、その放映枠を通じて視聴者にみてもらうというのが基本手段だったわけです。
それが、YouTubeのような無料で利用可能なライブ配信プラットフォームが普及したことにより、コンテンツ事業者自身が小さなテレビ局になれる時代になったことが明確に証明されつつあると言えます。
YouTubeの進化が加速する変化
YouTubeの発表によると、YouTubeの国内における月間ユーザー数は7120万人。
幅広い層での利用が進み、いわゆるコネクテッドテレビと呼ばれるYouTubeを表示できるテレビ端末での利用も3800万人を超えていると言います。
もはや、必ずしもYouTubeで配信するからパソコンやスマホで視聴するとは限らないわけで、YouTube自体もテレビの1つのチャンネルとして機能しはじめていることになります。
もちろん、同時視聴16万人というのは、テレビの地上波の視聴人数で考えれば決して大きな数字ではありません。
ただ、YouTubeでの同時視聴記録で言えば、手越祐也さんの引退後のライブ配信における132万人や、TOBEに平野紫耀さんと神宮寺勇太さんが加入を決めた際のライブ配信における102万人など、もっと大きな記録も多数存在します。
テレビの放送枠に限りがあることを考えると、YouTubeなどのライブ配信プラットフォームを活用して自ら小さなテレビ局を開くことができる可能性を感じる人は少なくないでしょう。
今回のテレビアニメ「ONE PIECE」の挑戦をきっかけに、今後も様々なコンテンツホルダーや事務所が、YouTubeを活用した新しいライブ配信の挑戦を行っていくことは間違いなさそうです。
まずは、「ANYTIME ONE PIECE」の今年1年間の全話無料配信が、どのような記録を残すのか注目したいと思います。