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朝ドラ「なつぞら」舞台に、生きづらさを抱えた人が働く農場がある

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
JAL、「なつぞら」特別塗装機を披露(写真:つのだよしお/アフロ)

朝ドラ「なつぞら」の舞台である北海道・十勝に、障害や引きこもりなど生きづらさを抱える多様な人たちが働く農場があります。共に暮らしながら農業や畜産業にあたり、そこで作るチーズは国際的に評価されています。筆者が現場を訪ねた際の様子をレポートします。

●子牛や羊ものんびり

札幌市から特急で2時間ほど。北海道の真ん中に位置する新得町は、東京都のおよそ半分の広い土地に、3万頭以上の牛がいるという。JR新得駅からタクシーですぐのところに、農事組合法人「共働学舎新得農場」がある。

敷地を進むと、羊がのんびりしていた。牧舎の前には子牛もいて、なつぞらの世界だ。

かわいらしい建物は「ミンタル」というカフェで、農場で作った野菜や、チーズが売られている。いただいたアイスミルクティーは、優しい味。「ラクレット」というチーズは、自然のうまみが凝縮されていた。

●持っている力で自活

代表の宮嶋望さんに話を聞いた。もとは宮嶋さんの父が、1974年に長野県で心身にハンディを持つ人と生活する「共働学舎」を始めた。父は私立学校で教師をしていたが、目が不自由になって退職後、「身体や精神障害のある子は、入学できなかった。心身に不安がある子どもたちにこそ、真の教育が必要。将来の伸びしろに期待するよりも、持っている力で生きられる場所を」と考えたそうだ。学舎は、「自労自活」を目標にしている。

子牛の姿も なかのかおり撮影
子牛の姿も なかのかおり撮影

●電気ない状態から牧場立ち上げ

宮嶋さんはアメリカで酪農を学び、1978年にウイスコンシン大学を卒業した。「規模と効率を求めるアメリカのやり方はしない」と誓った。ちょうど新得町長から、「30ヘクタールの土地を無償で貸与したい」と話があり、4番目の共働学舎を新得で始めた。知人の子に障害があって相談され、「働いて、食べていける場所」が必要だと思っていた。

立ち上げは6人で、水道も電気もない状態から、新しい牧場を作り上げた。沢から水道を引き、ダムの工事現場から古いプレハブをもらって、住宅や牛舎を作った。寄付を得て、スタッフの生活費を保障した。

●生活の場・働く場生み出す

最初に引きこもりだった人、少年院から出た人、障害のある人が入った。70年代に学生運動が終わって、運動にかかわった人たちも集まった。統合失調症、躁鬱病、学習障害、アスペルガーを抱える人、ホームレス、DV被害者など、社会適応や施設の受け入れが難しい人たちと一緒に、生活する場と働く場を作り出してきた。

筆者が訪問した時間は、働く姿は見られなかったが、今は0歳から90代のボランティアまで、およそ70人がいるという。ボランティアのほか、パートで仕事をしている人など、働き方はいろいろだ。午前3時半から畑仕事や牛の世話をして、食事作りをする。メンバーの家族も、移り住んできて手伝っている。

●「問題ある・なし」の境目はない

その中で、「この人は問題がある、ない」といった境目はない。3分の2ぐらいの人は、住み込みだ。20年ほど前、何人かでお金を出して一戸建てを建てた。1階が障害者年金を受給するオーナーの部屋で、宮嶋さんはその上に住んでいるという。

当初は経済的な自立はできず、寄付金を分配した。生活費には使わず、生産設備に投資した。今は、福祉からの助成は一切受けず、生活に必要な経費は自分たちでまかなっている。労働契約はなく、それぞれに月1万5千円から6万円の生活支援費を渡す。

羊ものんびり なかのかおり撮影
羊ものんびり なかのかおり撮影

●出荷できない乳をチーズに

現在の土地は100ヘクタールを超え、バイオダイナミック農法(オーストリア出身の思想家・シュタイナーが提唱した有機農法)で野菜を作り、経産牛60頭から搾られた乳でチーズ作りをする。

初期は6頭の牛を放牧しながら、分娩・搾乳をしていた。農協の正会員になる前は、搾った生乳が出荷できず、毎日、数十キロの乳を処理していた。むだにしたくなかったため、バターやチーズに加工し、自家用にしていた。

この時の思いから、1984年に新得町の特産物加工研究センターの運営・管理を任されることにつながり、91年まで製造技術の研究とマーケティングをしてチーズ作りを探った。

●災害時も立ち上がれる実力

1992年に完成したチーズ工房で製造を始め、98年にオールジャパンのコンテストで最高賞を受け、販売も軌道に乗り、おいしさで知られるようになった。2004年には欧州の大会でグランプリを受賞。売り上げが伸び出した。

牛の飼育からチーズ作りまで、同じ土地でできる利点を生かして、農場全体の売り上げは年2億円を超えた。

口蹄疫が流行したり、東日本大震災が起きたり、売り上げが落ちた時にも、質の高いチーズ作りの仕組みができていたため立ち上がれたという。

(続く)

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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