コロナ禍での行動制限の緩和 2つの不確定要素
2021年9月9日に政府は行動制限緩和の考え方について示しました。
このような将来的な展望に関する議論は重要ですが、ワクチンの効果や変異株の出現など不確定要素もあり慎重に進めていく必要があります。
政府が示した行動制限緩和の概要
今回、政府が示した行動制限緩和の考え方の概要は以下の通りです。
・ワクチン接種または検査を要件とする
・飲食店:営業時間、酒類提供、人数制限の緩和
・イベント:人数制限の緩和や撤廃
・人の移動:県をまたぐ移動の容認
・学校:大学等の部活動、課外活動の容認
開始時期については「ほとんどの希望者にワクチンが行き渡る頃から」という分科会の見解を踏襲しています。
新型コロナの流行が始まって1年半、先行きが見えない中で不安な気持ちで日々を過ごしている国民に、こうした将来的な展望を示すことは重要だと思います。
私は7月に職場を異動したのですが送別会はオンラインで行われ、また異動先での歓迎会に至っては開かれる気配もなく、「そろそろ飲み会したいよなあ・・・」と毎日思っています。
一方で、一気に行動制限を緩和することには注意が必要です。
この行動制限緩和を進めていく中で、2つの不確定要素が問題になると考えられます。
それは、ワクチンの効果と新たな変異株の出現です。
ワクチンの感染予防効果は経時的に落ちる
mRNAワクチンを接種した後、免疫の指標となる中和抗体は経時的に低下していくと考えられており、例えばモデルナのmRNAワクチンでは2回目の接種後4週くらいをピークに漸減していくことが報告されています。
また、この中和抗体が低下するとブレイクスルー感染(ワクチン接種者での感染)しやすくなることも徐々に分かってきており、ワクチン接種後も時間が経つと感染予防効果が低下するようです。
ミネソタ州の住民を対象に行われた査読前の臨床研究でも、2021年1月から7月までの長期の予防効果について検討されています。
ミネソタ州では2021年1月時点ではアルファ株が、7月時点ではデルタ株が主流でしたが、1月から7月にかけてモデルナワクチンでは感染予防効果が86%から76%に、ファイザーワクチンでは76%から42%に低下しました。
これらの研究の問題点として、ワクチンによる感染予防効果が低下している時期はデルタ株が広がっている時期でもあることから「経時的に効果が落ちる」のか「デルタ株によって効果が落ちる」のか、あるいはその両方なのかが見えにくいところにあります。
ワクチン接種後の中和抗体の推移や、デルタ株に対するワクチンの効果に関する様々な報告からは、どちらもワクチン効果低下に影響しているものと考えられます。
日本よりもワクチン接種を先行して開始した海外でのこうした状況からは、ワクチン接種をしている人は、重症化予防効果は保たれているものの、感染予防効果は今後経時的に低下してくるという状況が日本でもますます顕著になると考えられます。
今回の行動制限緩和の考え方では「ワクチン接種または検査を要件とする」という方針が基本になっていますが、ワクチン接種は感染していないことを担保するものではなく、「検査陰性」とは別のものであることに注意が必要です。
つまり、ワクチン接種を完了していても周囲に感染を広げることはあるため、特に流行している時期には再度人数制限を行うなど柔軟な対応が求められます。
現在海外で行われ始めているブースター接種によって感染予防効果が回復することが分かってくれば、ブースター接種を完了した人ではこうした行動制限緩和は十分な根拠となり得ると考えます。
新たな変異株によって状況が変わることも
ワクチン接種で新型コロナは収束するのではないか、という希望的観測はデルタ株の出現によって大きく後退を余儀なくされました。
デルタ株の拡大によって集団免疫の達成は困難という見方も出てきており、新型コロナ対策のロードマップを軌道修正せざるを得ない状況になっています。
このように、新たな変異株の出現とその影響は予測が困難であり、最大の不確定要素と考えられます。
アルファ株やデルタ株などの変異株はもともと海外から持ち込まれたものですが、日本政府は海外からの入国者の待機期間を10日に短縮することを検討しており、新たな変異株が持ち込まれる可能性は高くなります。
このように、行動制限緩和の議論は重要ですが、不確定要素もあります。
国内でのワクチン接種率、海外での状況、ブースター接種の効果などを見極めつつ、慎重かつ柔軟に進めていく必要があると考えられます。