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高コレステロール血症の治療薬であるスタチンは新型コロナの重症化を防げるのか

忽那賢志感染症専門医
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

スタチンは、高コレステロール血症に処方される薬剤です。

このスタチンが新型コロナの重症化を防ぐのではないか、という議論があり国内外で検証が行われています。

スタチンとは?

スタチンの一般名と商品名(筆者作成)
スタチンの一般名と商品名(筆者作成)

スタチンは日本人の遠藤章先生が開発した高コレステロール血症の治療薬であり、HMG-CoA還元酵素を阻害することにより、肝臓のコレステロール合成を抑制し、血液中のコレステロールを低下させる作用があります。

また、スタチンは、心筋梗塞・脳梗塞などの心血管疾患発症を予防する効果を有しており、現在スタチンは100カ国以上で販売され、約4000万人が毎日服用するという、世界で最も使用される薬の一つです。

スタチンという言葉は聞いたことがないという方も、クレストール、リバロ、リピトール、メバロチン、ローコール、リポバス、メバコールといった商品名であれば聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

日本国内でも、スタチンは最も多く処方されている薬剤の一つです。

心筋梗塞・脳梗塞といった心血管疾患、脂質異常症(高脂血症および高コレステロール血症)といった基礎疾患はいずれも新型コロナに感染した場合重症化しやすいリスク因子であることが分かっていますが、このスタチンが新型コロナの重症化を防ぐことができるのではないか、という議論があります。

スタチンは新型コロナにどう作用する?

新型コロナでは、

・過剰な炎症反応が生じることによるサイトカインストーム

・凝固異常による血栓塞栓症

などが病態として知られています。

スタチンは抗炎症作用、抗血栓作用を持つことが知られており、新型コロナの過剰な炎症や血栓形成をスタチンが抑えることで重症化を防げるのではないか、という仮説があります。

一方で、基礎研究の領域では、スタチンはACE阻害薬やARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)と同様に、長期間服用することでACE2受容体の発現量を増加させることが指摘されています。

ACE2受容体は、新型コロナウイルスがヒトの細胞に侵入する際の入り口となるため、ウイルスが侵入しやすくなり、感染しやすくなる、あるいは重症化しやすくなるのではないかという仮説もあります。

このように、スタチンの服用が新型コロナに良いように作用するのではないか、あるいは悪い方向に働くのではないか、という相反する仮説が存在しています。

スタチンと新型コロナ:実際の患者データでは

実際にスタチンを飲んでいた人が新型コロナに感染した場合、どのように働くのか、様々な研究が報告されています。

新型コロナのために入院したニューヨーク市の患者1296人のうち、スタチンを服用していなかった患者の26.5%が入院後30日以内に死亡したのに対し、スタチンを使用していた患者の14.8%が死亡した

新型コロナのために入院した466人の患者において、中〜高用量のスタチンを服用していた患者は、スタチンを服用していなかった患者に比べて、死亡するリスクが有意に減少した。

新型コロナ患者1179人を対象とした研究(査読前論文)では、入院中のスタチン使用は、新たに開始したかどうかにかかわらず、65歳以上の患者では28日死亡率の改善と関連していたが、65歳以下の患者では関連していなかった

中国湖北省で新型コロナで入院した約14,000人の患者を対象とした研究では、スタチン使用者の5.2%が死亡したのに対し、スタチン非使用者は9.4%が死亡していた。

これらの研究結果を見ると「おお!スタチンを飲んでいると死亡率が下がるんだ!スタチン飲むべし!」となりそうですが、これらの研究のほとんどは後方視的研究というエビデンスレベルの高いものではないため、これだけでスタチンが新型コロナに有効と結論づけることは難しい状況です。

さらに、スタチンは新型コロナに有効ではなかった、という研究も複数あります。

メタ解析という複数の研究をまとめて解析する手法によって行われた米国、中国などで実施された9件の研究の解析では、スタチンの使用は新型コロナで入院した患者の重症度や死亡率の低下とは関連しないと結論づけられた

デンマークの全国民の登録データを用いた研究では、新型コロナ患者において、入院の有無にかかわらず、スタチン使用者と非使用者の間で全死亡率に差がなかった

イタリア・ロンバルディア州のICUで新型コロナのため入室した約4000人の患者のデータを分析しました。入院前のスタチンの長期投与は、死亡率の上昇と関連していたが、この結果は、薬剤そのものではなく交絡因子によるものと考えられた(つまりスタチンを飲む原因となった基礎疾患によって死亡率が高くなった)

ということで、実際の患者データでもスタチンが新型コロナに有効なのかは不明ですが、少なくとも悪いように作用することはなさそうです。

そもそもスタチンを飲んでいる人は、飲んでいない人と比べると健康に気を配っている人が多く、そうした意識が死亡率に影響しているのではないかという考えもあり、これらの要因を完全に排除するためにはランダム化比較試験というエビデンスレベルの高い手法による研究が必要となります。

現時点でスタチンを飲んでる人はどうすればよいか?

写真:Paylessimages/イメージマート

現時点でスタチンを飲んでいる人は、やめる必要はなく、そのまま飲み続けましょう。

今スタチンを飲んでいない人が、新型コロナのためにスタチンを開始するための十分な根拠はまだありません。

スタチンでは横紋筋融解症、肝機能障害、蕁麻疹などの副作用が起こることがありますので、不必要にスタチンを内服することは推奨されません。

脂質異常症(高コレステロール血症・高脂血症)のある方は、内服の必要性についてかかりつけ医と相談するようにしましょう。

参考;

JAMA. Could Statins Do More Than Lower Cholesterol in Patients With COVID-19?

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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