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アジアに広がる工業型現代畜産  カンボジアとベトナムでみる現実

大野和興ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長
プノンペン近郊の工業団地に進出した中国の畜産資本「新希望」

アジアに広がる工業型現代畜産カンボジアとベトナムでみる現実

穀物を大量に消費し、近代的な畜舎でまるで自動車を作るようにニワトリたブタを飼う現代畜産。1960年代、日本に持ち込まれた工業型現代畜産は70年代に入って韓国に移入され、80年代にはタイで大きく展開する。そしてその流れは、今や新興経済国の仲間入り寸前となっているベトナム、まだその段階には至っていないカンボジアへと移っている。昨年2月、カンボジアからベトナムへ流れる大河メコン川を船旅で下った。カンボジアの村でみた風景は、庭先や畑で自由に動き回る地鳥とひよこたち、鼻で土を掘る地豚、といった昔ながらのものだった。だが、将来の変貌を予感させる動きも確実に存在した。

地鳥と地豚の国に配合飼料工場が

カンボジアの首都プノンペンの周辺には開発中も含め工業団地がいくつも展開しており、外国からの投資による工場がすでに動いていた。農産物関係で目についたのは韓国企業のキャッサバ原料のバイオエタノ-ル工場、それに隣接して大型精米工場と製粉工場。そうした企業のひとつに日本の商社双日(株)と中国の新希望農牧集団有限公司の出資でつくられた配合飼料工場で、すでに操業を始めている。

新希望集団は1982年に創業を開始した中国最大のアグリビジネスで、飼料、畜産を主体とした農牧事業、食品、化学品、金融業、不動産開発事業等まで中国国内で展開、配合飼料の取扱量では中国第一位で10%のシェアを占めている大企業だ。家禽の 処理羽数も中国で14%のシェアをもつトップ企業。

プノンペン近郊の飼料工場は2011年から操業を始めてういた。生産量は当面年間10万トン、将来は20万トンを計画しているという。原料はキャッサバ、トウモロコシなどは国産を使用、大豆粕、菜種粕などはベトナムの港を経由して入ってくる輸入原料を使っている。しかし、メインのトウモロコシは生産量が増えると輸入に切り替えざるを得なくなるだろうと思われる。双日は飼料生産・供給を軸に畜産物の生産から食品加工まで一貫した体制を作り上げたい意向のようであった。

◆世界の飼料・穀物資本がひしめくベトナム

メコン川を下りベトナムに入ると、両岸に広がるのどかな田園風景は、次第にいかにも経済成長の時代に入ったなと思わせるもの変わっていった。ホーチミン市で双日と日本の配合い飼料会社である協同飼料が設立した双日協同飼料(株)を訪ねた。カンボジアでは中国企業を手を組んだ双日だが、ここでは日本の飼料会社と提携しているのである。同社はベトナムを将来の有望な市場を見ており、特に頭数で日本の三倍いるブタに注目しているという話だった。カンボジアと違って飼料原料はすべて輸入に頼っている。市場としての成熟度は日本の1960年代後半から70年代、タイの20年前くらいという見方を示しれくれた。

これから有望なマーケットであるというのは世界共通の認識のようで、ベトナムには双日・協同飼料だけでなく世界の飼料資本・アグリビジネスがひしめき合っているようだった。飼料工場だけを見ても、世界最大手の穀物商社カーギル、タイの多国籍アグリビジネスCP、フランスのプロコンポ、中国の新希望、韓国のCJなどが勢ぞろいし、生産量も念20万トンの双日協同よりひとまわりもふたまわりも大きい規模を誇っている。

ベトナムもまた農村に入ると多くは庭先畜産の域を出ていない。こうしたカンボジア、ベトナムの農家がたどる道がいまから目に見えるようだ。多国籍アグリビジネスによって工業型の加工畜産に囲い込まれ、多くの農家が淘汰されは日本の道を歩み出している。

ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

1940年、愛媛県生まれ。四国山地のまっただ中で育ち、村歩きを仕事として日本とアジアの村を歩く。村の視座からの発信を心掛けてきた。著書に『農と食の政治経済学』(緑風出版)、『百姓の義ームラを守る・ムラを超える』(社会評論社)、『日本の農業を考える』(岩波書店)、『食大乱の時代』(七つ森書館)、『百姓が時代を創る』(七つ森書館)『農と食の戦後史ー敗戦からポスト・コロナまで』(緑風出版)ほか多数。ドキュメンタリー映像監督作品『出稼ぎの時代から』。独立系ニュースサイト日刊ベリタ編集長、NPO法人日本消費消費者連盟顧問 国際有機農業映画祭運営委員会。

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