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高校生レーサー、名取鉄平がスーパーFJ日本一に!ホンダF1へのルートを駆け上がる17歳。

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
スーパーFJ日本一決定戦のトップ争い【写真:Y.Yoneshige】

12月9日、10日の2日間、冬の冷え込みが厳しくなった鈴鹿サーキット(三重県)ではフォーミュラカーレース「スーパーFJ日本一決定戦」が開催され、参加者の中で最年少17歳の名取鉄平(なとり・てっぺい/山梨県出身)が優勝して日本一に。高校2年生のレーシングドライバーが4輪レースのデビューイヤーでビッグタイトルを獲得した。

スーパーFJ日本一決定戦で優勝した名取鉄平、17歳。【写真:Y.Yoneshige】
スーパーFJ日本一決定戦で優勝した名取鉄平、17歳。【写真:Y.Yoneshige】

激しいトップ争いを制して名取鉄平が優勝

名取が参戦した「スーパーFJ」はF1を頂点とするフォーミュラカーレースのヒエラルキーの中で最もベーシッックな位置にある入門フォーミュラカーレース。2017年の「スーパーFJ日本一決定戦」には全国で開催されるシリーズ戦の上位ランカーを中心に42人ものドライバーが集まり、決勝レース(第2レグ)には40台のマシンがグリッドに並んだ。中には還暦オーバーの大ベテランも参戦するが、優勝争いを展開するのはほとんどが10代から20代の勢いある若手ドライバー。この日本一決定戦には若手レーシングドライバーの登竜門レース的な意味合いがある。

スーパーFJ日本一決定戦スターティンググリッドでの名取
スーパーFJ日本一決定戦スターティンググリッドでの名取

名取は今年、鈴鹿市のガレージ「M2エンジニアリング」からスーパーFJ鈴鹿選手権に参戦。しかしながら、レーシングカートの全日本カート選手権にも参戦(こちらはプロとして)していたため、日程が重なって欠場を余儀なくされるレースがあり、当初からシリーズチャンピオンは狙わず、この日本一決定戦で勝利することを目標にしていた。

フォーミュラカーレースデビュー年の集大成とも言える「スーパーFJ日本一決定戦」は12月9日(土)から鈴鹿で始まったが、予選から名取は精彩を欠く。予選レース(第1レグ)では優勝を飾れず、2位。結局3番グリッドから決勝レース(第2レグ)をスタートすることになった。いつもの速さが出せないジレンマに陥る中、名取はシリーズ戦で度々ミスをしていたスタートダッシュに見事成功し、2番手に浮上してレースを進めた。その後、セーフティカーが入り、首位の小倉翔太との差が縮まり、レース再開後の4周目に小倉をパスしてトップ浮上。その後は今週末速さが光った小倉に何度も並ばれるが、名取は僅か0.2秒の差で優勝。今年締めくくりのレースで、その勝負強さを見せつけた。

決勝レースの激しいトップ争い【写真:Y.Yoneshige】
決勝レースの激しいトップ争い【写真:Y.Yoneshige】

「トップの小倉選手がミスをしたことで、うかがっていたチャンスが巡ってきました。第1コーナーでのオーバーテイクが勝利に繋がって良かったです」

と冷静にレースを振り返る名取。とても17歳とは思えない落ち着きがある反面、飾ることのないごく普通の高校生らしい初々しい雰囲気も印象的だ。

名取鉄平 【写真:Y.Yoneshige】
名取鉄平 【写真:Y.Yoneshige】

F1を目指すルートに乗る17歳

ビッグタイトルを勝ち取った17歳の名取だが、実は今回のレースの前にもう一つの大一番に挑んでいた。今年、インディ500で優勝した佐藤琢磨をはじめとするトップドライバーを数多く輩出している「鈴鹿サーキットレーシングスクール・フォーミュラ(SRS-F)」のスカラシップ選考会に名取は挑戦した。

鈴鹿サーキットレーシングスクール・フォーミュラ(SRS-F)
鈴鹿サーキットレーシングスクール・フォーミュラ(SRS-F)

同スクールの優秀者だけが参加できるスカラシップ選考会は例年、2人のドライバーがスカラシップに選ばれ、ホンダの育成ドライバーとして「FIA-F4」への参戦枠が与えられるのがセオリーになっている。そんな中、今年スカラシップに選ばれたのは名取鉄平、ただ一人だけだったのだ。F1にパワーユニットを供給するホンダのスカラシップは日本人選手がF1への昇格チャンスを掴める、最も現実的なルートである。名取はその王道ルートに選ばれた。

SRS-Fを首席で卒業し、ホンダの育成ドライバーに選ばれた名取鉄平(右) 【写真:MOBILITYLAND】
SRS-Fを首席で卒業し、ホンダの育成ドライバーに選ばれた名取鉄平(右) 【写真:MOBILITYLAND】

そんな名取も昨年、大きな挫折を経験している。実は名取は昨年もスカラシップ選考会に挑戦するも、スカラシップに落選してしまっていた。16歳になる今年、ホンダの育成ドライバーとして「FIA-F4」に華々しく参戦するのを夢見ていたが無情にも彼はそのチャンスを掴めなかったのだ。

しかし、名取は2度目のチャレンジをするチャンスを与えられた。SRS-Fは過去に多くのトップドライバーを輩出しており、その選手たちのデータを豊富に持っている。1年間の成長を見極めれば、才能があるかないかは判断がつく。2度目のチャンスというのは過去に例のない特例。この才能をスポイルしてしまうのはもったいないと思わせる何かが名取に無ければ、こんな特例は起こり得ない。しかし、逆に言えば誰も経験したことがない2度目のチャンス。強烈なプレッシャーに打ち勝ち、名取はスカラシップを手中に収めたのである。

スクールのカリキュラムや模擬レースで学んだことをプライベート参戦した「スーパーFJ」のレースにぶつけるも、前述のようにスタートで度々ミスをし、勝利のチャンスを失うという空回りも続く。4輪レース1年目は決して順風満帆ではなかった。

「今年、スーパーFJに参戦したことは本当に良かったと思います。失敗をした分、たくさん学べたことがありました。スカラシップに合格できたことで嬉しい気持ちもありましたが、ホンダの一員にならせてもらうからには恥のないように、今回勝たなきゃいけないというプレッシャーも正直かなりのものでした」

と名取は今回のレースに対する気持ちを語った。

来年はFIA-F4のチャンピオンが目標

ホンダのスカラシップ獲得、入門カテゴリー「スーパーFJ」での日本一。タイトル獲得という意味では順調に目標を達成した名取。

「まだ正式には発表されていないですが、来年はFIA-F4に出ることになると思うので、1年目からチャンピオンを獲って、1年でも早くF1に近づいていきたい」

と目を輝かせる。

近年、ホンダは日本人ドライバーをF1へと昇格させるべく、再びヨーロッパへ若手ドライバーたちを送り込んでいる。F2(GP2)を戦った松下信治(まつした・のぶはる)、GP3の福住仁嶺(ふくずみ・にれい)、ユーロF3の牧野任祐(まきの・ただすけ)らの先輩がヨーロッパで武者修行を行い、F1出場に必要なスーパーライセンス獲得のためのポイントを積み重ねている。ただ、3人ともにスーパーライセンス獲得の条件をまだ満たしてはおらず、そのハードルは高く、F1へのステップアップでは1年たりとも足踏みできないのが現実だ。

来年も運転免許がない高校3年生のレーシングドライバーとして、名取は「限定ライセンス」でFIA-F4に挑戦する予定。「自分の中では1年ずつF1に近づくイメージを持って取り組んでいます」と語る17歳が狙うのはFIA-F4の王者に輝き、高校卒業と同時にヨーロッパに進出するという青写真だ。今年、名取はまだスカラシップに選ばれる前からFIA-F4にスポットでプライベート参戦し、来季に向けて準備は万端。「スーパーFJ日本一」という一生ものの登竜門タイトルを得て、早くもレースファンの心を掴んだ名取が来年どんな熱い走りを見せてくれるか楽しみだ。

表彰台の中央に立つ名取鉄平。スーパーFJ日本一に輝いたことで一気に注目を集める存在になった。【写真:Y.Yoneshige】
表彰台の中央に立つ名取鉄平。スーパーFJ日本一に輝いたことで一気に注目を集める存在になった。【写真:Y.Yoneshige】

【名取鉄平/なとり・てつぺい】

山梨県出身・17歳

2015年 SRS-Fチャレンジ卒業

2016年 SRS-Fアドバンス受講

2017年 SRS-Fスカラシップ選考会・首席卒業 / 全日本カート選手権OKクラス 3位 / スーパーFJ鈴鹿シリーズ 3位(1勝) / FIA-F4 スポット参戦 最高位6位 / スーパーFJ日本一決定戦 優勝

Twitter :@teptep_art

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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