キャラクターの著作物性に関する判決が続きます:「木枯し紋次郎」事件
ドラクエのキャラクター名の著作物性に関する判決(解説動画)に続き、キャラクターの著作物性に関する判決文が公開されています。故笹沢左保原作の時代劇小説に基づく「木枯らし紋次郎」というキャラクターに関する著作権侵害訴訟です。
「木枯らし紋次郎」は今の若い人にどれくらい知られているでしょうか?「あっしには関わりのないことでござんす」が有名なせりふになっているニヒルな渡世人のキャラクター(いつも長楊枝を咥えているのが特徴)です。1972年から始まったテレビシリーズは大ヒットし、その後、何回か映像化されています。
著作権法の大原則は「表現を保護するがアイデアは保護しない」です。絵やせりふなどの具体的表現だけではなくその背後にあるアイデアや設定まで著作権法で保護し、摸倣は許されないとしてしまったら表現の自由が大きく阻害されてしまいますよね。ニヒルな渡世人を主人公にした時代劇は(笹沢左保氏の著作権が切れる)2073年まで勝手に使えない、ドカベンの岩鬼が常に葉っぱを咥えているのは紋次郎が常に長楊枝を咥えていることの著作権侵害であるなんてことになったら大変です。
とは言え、どこからどこまでがアイデアで、どこからどこまでが表現なのかは微妙な線引きであることも多く、裁判で争われるケースも結構あります。
今回のケースの背景情報は以下のとおりです。
原告は笹沢左保氏の著作権を相続した妻およびその著作管理を委託された法人です。被告は食品製造販売を行っている法人です。被告は、昭和47年というかなり昔から「紋次郎いか」という商品等にタイトル画像の図柄を付けて販売していました。これに対して、原告が、著作権侵害および不正競争防止法で権利行使したという流れです。約1億5000万円という結構な金額の損害賠償が請求されています。
昭和47年はまさに「木枯し紋次郎」のテレビドラマが放映開始された年であり、被告商品が「木枯し紋次郎」ブームに乗っかったものであるのは明らかでしょう。しかし、これだけでは原告の権利が侵害されたということはできません。結果的には原告の請求はすべて棄却されました。以下に解説していきます。
まず、著作権法についてです。台詞回し、または、挿絵、漫画、テレビ放送などの類似した画像が使用されていれば著作権侵害の可能性が出てきますが、原告は、「①通常より大きい三度笠を目深にかぶり、②通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包み、③口に長い竹の楊枝をくわえ、④長脇差を携えた渡世人」というキャラクター全般の著作物性を主張しました。
これに対して、裁判所は、そもそもどの文章表現や画像の著作権が侵害されたのかを主張していないので主張自体が失当としています。そして、仮に、たとえば、原告がテレビ放映の特定の画像に基づいて類似性を主張したとしても、上記①から④の共通部分は「ありふれた事実をありふれた記述で江戸時代の渡世人をいうものにすぎず、創作的表現に該当しない」と念押しして著作権侵害の可能性を否定しています。
次に不正競争防止法です。不正競争防止法による権利行使が認められるためには、「"商品等表示"に該当すること AND 周知であること AND 類似・同一であること AND 消費者が誤認混同していること」、あるいは、「"商品等表示"に該当すること AND 著名(周知よりもさらに有名度が高い)であること AND 類似・同一であること」という条件が必要になります。裁判所はそもそも上記①~④は「商品等表示」に該当せず、「紋次郎」という文字についても原告の「商品等表示」とは認められないとし、さらに念押しで周知性・著名性もないとして不正競争の該当性を否定しました。また、さらにさらに念押しで被告商品(「紋次郎いか」等)がかなり前に商標登録を受けており、商標の継続的使用により業務上の信用を蓄積していることから誤認行動も生じるおそれは認められないとしました。
全体的に、裁判官は、原告の主張を全面否定するだけでなく、念押しして「仮にこう攻めてきてもそれでも認められないぞ」といった議論も展開しており、原告の請求を認めない強い意思を感じます。まあ、テレビで大ブームだった頃ならまだしも(その頃は不正競争防止法はなかったですが)、それから50年経って言われてもという感はあります。