Yahoo!ニュース

【高校野球】東北・伊藤千浩ら40人で宮城県選抜結成! 8月4日に石巻市民球場で大学生と交流試合

高橋昌江フリーライター
宮城県は選抜チームを作り、将来を見据えた活動をスタートさせた

 宮城の3年生球児の夏はまだ終わっていない――。

 仙台育英が2大会ぶり29回目の甲子園出場を決めた宮城大会決勝から2日後の29日、名取市民球場で選抜チーム(高校3年生ピックアップチーム)のセレクションが開かれた。県内から55人が参加し、40人を選出。20人1チームの2チームを組み、8月4日(木)に石巻市民球場で仙台六大学1・2年生選抜チームと東北福祉大1・2年生チームと試合を行う。

※宮城県選抜、仙台六大学1・2年生選抜、東北福祉大1・2年生の各メンバーは最後に掲載しています。

■日本ウェルネス宮城・早坂が持ち味発揮

 セレクション会場となった名取市民球場には、再び、自校のユニホームに袖を通した3年生たちが集まった。宮城県では南部、中部、東部、北部の4地区に分け、春と秋は地区の予選を突破したチームで県大会が行われる。集まったのは、各地区から一次選考された選手たち。当初は約70人から40人を選ぶ予定だったが、新型コロナの影響で辞退する選手が多数おり、この日、参加できたのは55人だった。

 セレクションは、地区対決の試合で行われた。第1試合は北部対東部。合同シートノックの後、プレーボールがかかった。

1試合目は北部対東部。試合がない南部と中部の選手は塁審やボールボーイなどで補助
1試合目は北部対東部。試合がない南部と中部の選手は塁審やボールボーイなどで補助

 東部の先発は早坂海思。2020年に開校し、創部された日本ウェルネス宮城の1期生として3年間、鍛錬してきた右腕だ。23日の準々決勝で仙台育英に0-4で敗れて引退。「その後はあまり練習できていなかったので不安もありました」と言うが、鋭いスライダーは“現役”だった。1回を二ゴロ、見逃し三振、空振り三振でピシャリ。2回は先頭の眞木佳唯斗(利府)に左越え二塁打を許したものの、その後は右飛、三ゴロ、空振り三振と危なげない投球を披露した。「無死二塁から抑えられたのでよかった。スライダーでコーナーを突くことができ、自分の持ち味をしっかり出せたんじゃないかなと思います」とうなずき、この回でマウンドを降りた。

日本ウェルネス宮城・早坂。スライダーの精度が高い
日本ウェルネス宮城・早坂。スライダーの精度が高い

 先制したのは北部。4回、2死一、二塁で打席に入った藤田京(富谷)は「大きいのは狙わず、シャープに振ろうと思った」と走者をかえすことだけを意識し、左翼線に2点適時二塁打を放った。新型コロナの流行が始まり、高校野球のスタートは2ヶ月遅れたが、代替大会だった1年夏からスタメンマスクをかぶってきた。その1年夏に1回戦で3ラン、2回戦で2ランを放っており、今夏も2回戦で仙台市民球場の左翼席にアーチを描いている。捕手としては北部地区の5投手をリード。「受けたことがないピッチャーなので、いろいろと考えて精神的に疲れましたが、いいピッチャーばかりだったのでリードしていて楽しかったです」と笑顔を見せた。

富谷・藤田(打席)。レフト線に二塁打を放ち、2死から出塁した走者2人をかえした
富谷・藤田(打席)。レフト線に二塁打を放ち、2死から出塁した走者2人をかえした

 5回表の守備から出場した平山仙之助(塩釜)は練習を重ねてきた内角球にうまくバットを出し、1打席目に中安、2打席目に2死一塁から左中間に適時二塁打を放ってアピールした。「県の中から選ばれた人たちと野球ができることに感謝しながら、精一杯、自分の最大限の力を出せるように頑張ろうと思いました」。大学生との試合に向け、「いろんなことを吸収したいなと思います」と意欲を見せた。

塩釜・平山(右)。途中から出場し、2安打を放った
塩釜・平山(右)。途中から出場し、2安打を放った

◎北部対東部

北部 000 300 000 = 3

東部 000 100 100 = 2

■仙台高専名取・鈴木「後輩たちに経験を伝えたい」

 2試合目の南部対中部は初回から動いた。1番・信濃更平(角田)が中安で出塁し、2番・佐藤光洋(柴田)の内野安打で無死一、二塁。そこから二死となったが、5番・菅野結生(柴田)がレフト前に弾き返し、二走・信濃が生還した。柴田の2年生4番として出場した昨春センバツで初回に先制打、7回に同点打を放っている勝負強さを発揮。3打席目には2死から右中間を破る痛烈な打球を飛ばした。「ピッチャーが投げる球を打つのは久しぶりで大丈夫かな? と思ったんですけど、積極的に振りにいきました」。今夏は1回戦で仙台育英と当たり、4-6で敗戦。菅野自身は無安打に抑えられた。力を出しきれずに引退となったが、3週間後のこのセレクションでは実力通りの打撃センスを見せて合格。進学を希望しており、「仙台六大学のレベルは高いので、大学生のスピードや配球を体感できるのは次につながると思います。いいところを吸収しながら、チームのために何ができるかを考えてやっていきたいです」と意気込んだ。

柴田・菅野(打席)。夏の悔しさをバットに込めて本領発揮
柴田・菅野(打席)。夏の悔しさをバットに込めて本領発揮

 「当たりは悪かったんですけど、いいところに飛んでホッとしました」と、試合後に安堵したのが仙台高専名取の捕手、鈴木悠人。1打席目にセカンドの右を抜ける右前打を放つと、4打席目の2死一、三塁では三遊間を破る左前適時打で存在感を示した。捕手としては、「どのピッチャーも初めて受けるので不安なところはありましたが、みんないいピッチャーだったので安心してリードできました」と5投手の球を受けた。中でも仙台城南左腕・池田陸の名前を挙げ、「変化球もよかったですし、コースへの投げ分けもすごかったです」と印象を語った。現在は9月の全国高専大会に向けて練習中。大学生との交流戦は「高専大会も控えているので、活かしていきたいです。また、後輩たちと練習する機会もあるので、経験を伝えていけたらなと思っています」と話した。

仙台高専名取・鈴木(右)。「すごく緊張した」というが、攻守にきっちりアピール
仙台高専名取・鈴木(右)。「すごく緊張した」というが、攻守にきっちりアピール

 188センチ、87キロの体格でも目立つが、その場にいるだけで存在が際立っていたのが東北の伊藤千浩。試合には4番・DHでの出場だったため、守備から戻る選手をベンチ前で元気に出迎えた。バットでは、1打席目は四球、2打席目は右飛に倒れたが、1死二塁の3打席目で中前に抜けるタイムリー。中堅手が本塁に送球する間に二塁に到達すると、ベース上で笑顔を見せた。「『チャンスで回ってきたら打つ』とベンチで言っていたので、1本出てホッとした気持ちでした」。8回表に左翼の守備に就き、9回はマウンドへ。ストレートで空振り三振を奪うと、次打者を三ゴロに打ち取ってあっという間に2死。最後はフルカウントからカーブを振らせて、難なくマウンドを降りた。「1イニングに集中して投げることができたのですごく楽しくて、いいピッチングができたかなと思います」と笑顔。プロ志望届を提出する意向で、大学生との対戦は「自分がどれくらいやれるのかを知ることができるいい機会」と捉えている。

東北・伊藤。「小、中学校の仲間や知り合いがいてすごく楽しかった」。
東北・伊藤。「小、中学校の仲間や知り合いがいてすごく楽しかった」。

 中部の投手では、左腕・川下月弥(宮城工)がカーブを有効に使って好投。「変えた握りで試してみた」というツーシームで右打者から空振り三振も奪った。四球を1つ出したものの、安打は許さず、最後もストレートで空振り三振。3、4回をきっちり投げた川下の後、5回のマウンドに上がったのは宮城大会初の決勝進出を戦った聖和学園のエース・阿部航大。いずれも内野ゴロを打たせ、わずか7球で3つのアウトを取ってみせた。

宮城工・川下
宮城工・川下

聖和学園・阿部
聖和学園・阿部

◎南部対中部

南部 110 000 010 = 3

中部 000 000 100 = 1

セレクションに参加した選手たち。感じたことをチームに持ち帰り、同級生や後輩に還元してほしい
セレクションに参加した選手たち。感じたことをチームに持ち帰り、同級生や後輩に還元してほしい

■小原監督「全員を選びたい」

 2試合目終了後、片付けやグラウンド整備、クールダウンをしている間に選手選考が行われた。約45分、小原仁史監督(泉松陵高副部長)を中心に話し合われ、40人がピックアップされた。発表を前に「2試合とも、非常に締まった見応えのあるゲームでした」と称えた小原監督。「全員を入れたいのですが、今回は40人ということで選ばせてもらいました。残念ながら選考から外れた選手もいますが、ここに来ている時点で将来性豊かな選手。何かが劣っていたわけではありません」と伝え、40人の名前を呼んだ。

メンバー発表をする小原監督。利府がセンバツ4強入りした時の監督だ
メンバー発表をする小原監督。利府がセンバツ4強入りした時の監督だ

 投手は右投げ、左投げ、サイドハンドなど特徴も踏まえ、内角に投げ切れるかといったポイントをチェックして選出。野手は守備力や打力はもちろん、「脚力のある選手を入れたいと思った」と足も見極めていたという。選手にも伝えた通り、選考は難航。小原監督は「さっきも言った通り、本当はみんなを入れたいくらいですよ」と、改めて口にした。能力や結果、チームを編成する上でのバランスなど、さまざまな要素を考慮しての決断。クールダウンの時間が妙に長くなったため、それは参加選手も感じとっているだろう。

■来月4日に大学生と試合

 本来であれば、宮城県選抜は石川県選抜と試合をする予定だった。2011年の東日本大震災以降、石川県の高校と宮城県の高校は交流を続けてきており、今年3月、互いに選抜チームを組んで宮城県で交流試合をやる案が出たという。話を進めてきたが、この“ご時世”で5月に中止が決まった。宮城県は理事会で代替案を検討し、「大学生との試合はできないか」と仙台六大学野球連盟に相談。大学側はすぐに監督会を開き、快諾した。仙台六大学野球連盟の菅本昭夫事務局長は「高校生の力をつけるためにもいいこと。大学生にとっても選ばれた自覚を持つことができ、また、大学同士の交流もできる」と話す。

 高校卒業後も野球を継続したい選手にとっては自身の力を把握するまたとない機会。迷っている選手にとっても今後を考えるきっかけになるだろう。また、3年生のこの経験が後輩たちに影響を与えることもあるかもしれない。

 宮城県高野連強化育成部の平塚誠委員長(柴田高監督)は「大学生との試合で上のランクの野球を体験してもらい、高校卒業後は大学以上のカテゴリーで活躍し、いずれは宮城県に戻って指導者など、野球振興に一役買ってほしいなと思っています」とビジョンを話す。小原監督も「今回は初めてのことでアナウンス不足なところもありましたが、今後、定着してくれば、3年生にとってはいいモチベーションになると思います。そして、将来的に宮城県の野球に何かしら還元してくれるような人材になってくれればいいなと思います。今回の単発で終わらせず、これをスタートとして続けていければいいんじゃないかと思いますね」と語った。

 試合は8月4日(木)、石巻市民球場にて。第1試合は午前10時から宮城県選抜チーム①対仙台六大学野球連盟1・2年生選抜チーム、第1試合終了45後に行われる第2試合は宮城県選抜チーム②対東北福祉大学1・2年生で、2試合が予定されている。入場は無料。

(小中学生への野球教室も企画されていたが、コロナ禍の状況から中止となった)

■宮城県選抜

監督:小原仁史(泉松陵高副部長)

責任教師:千葉厚(仙台一高監督)

コーチ:川村桂史(本吉響高監督)、平井安弘(富谷高監督)、原田一貴(角田高監督)

主将:阿波唯人(仙台商)

【投手11人】

伊藤千浩(中部・東北、利府西中)、川下月弥(中部・宮城工、中山中)、阿部航大(中部・聖和学園、矢本二中)、早坂海思(東部・日本ウェルネス宮城、仙台二中)、久保田耀仁(東部・塩釜、利府中)、日下裕翔(南部・柴田、大河原中)、池田陸(南部・仙台城南、川崎中)、佐藤暖久(南部・名取北、名取二中)、加藤裕太(北部・大崎中央、増田中)、関東健翔(北部・利府、六郷中)、三浦龍政(北部・古川学園、富谷中)

【捕手5人】

藤原楽(中部・仙台三、柳生中)、小松光成(中部・東北生活文化大高、住吉中)、佐々木琉斗(東部・東陵、古川北中)、鈴木悠人(南部・仙台高専名取、岩沼中)、藤田京(北部・富谷、大衡中)

【内野手16人】

髙橋拓英(中部・聖和学園、石巻山下中)、菅野結生(南部・柴田、金津中)、眞木佳唯斗(北部・利府、将監中)、菅原直太朗(東部・佐沼、栗原南中)、阿波唯人(中部・仙台商、桜丘中)、平山仙之助(東部・塩釜、東豊中)、信濃更平(南部・角田、角田中)、髙橋佑輔(北部・利府、栗原南中)、千葉柊弥(中部・仙台三、大和中)、佐藤琳空(南部・柴田、台原中)、稲葉聡(中部・仙台一、南光台東中)、梅澤尚平(東部・佐沼、米山中)、遠藤瞬(東部・東陵、古川北中)、千葉陸(南部・柴田、石越中)、對馬温斗(南部・仙台城南、しらかし台中)、中野龍(北部・大崎中央、増田中)

【外野手8人】

岩槻翔太(中部・仙台一、富沢中)、及川峻良(中部・東北生活文化大高、館中)、菅井惇平(東部・日本ウェルネス宮城、袋原中)、佐藤光洋(南部・柴田、角田中)、駒井志生(中部・聖和学園、郡山中)、渋谷悠翔(南部・名取北、吉田中)、松田世南(南部・柴田、増田中)、石垣友希(北部・利府、多賀城二中)

【マネージャー1人】

小野日菜子(名取北)

※試合当日まで3回の練習を行い、2チームに分ける。

■仙台六大学1・2年生選抜

監督:高橋顕法(宮城教育大)

コーチ:目黒裕二(東北工大)

コーチ:内山博道(東北学院大)

【投手】

齋賢矢(東北福祉大1年、仙台商)、山名健心(仙台大1年、霞ヶ浦)、石川岳人(東北学院大2年、石巻西)、篠村大翔(宮城教育大1年、仙台一)、伊藤理壱(東北工大1年、仙台城南)

【捕手】

大橋周吾(東北大2年、八戸)、矢島規樹(仙台大1年、常磐)

【内野手】

秋田真(東北学院大2年、札幌国際情報)、芳賀慎之介(仙台大1年、聖光学院)、山口悠吾(仙台大1年、西脇工)、高部耀(東北福祉大1年、仙台西)、鈴木杜朗(東北大2年、仙台二)、佐久間永翔(東北工大1年、白石工)、檜森雄太(東北工大2年、仙台育英)、小林三邦(東北学院大2年、鶴岡東)

【外野手】

吉田達也(東北福祉大1年、日大東北)、平塚恵叶(仙台大1年、作新学院)、植木祐樹(東北大2年、長野吉田)、徳山太一(東北福祉大1年、鳥取城北)、野口武琉(宮城教育大1年、仙台一)

【主務】

佐藤拓(東北学院大1年、鶴岡東)

■東北福祉大1・2年生(※8月2日変更)

監督:大塚光二

学生コーチ:長島颯汰(4年、武蔵越生)

学生コーチ:関口爽汰(1年、盛岡大付)

【投手】

大森幹大(1年、東海大相模)、櫻井頼之介(1年、聖カタリナ)、星勇志(1年、光南)、堀越啓太(1年、花咲徳栄)、森優太(1年、八戸学院光星)

【捕手】

佐藤琉河(2年、東北)、鍛冶屋成希(1年、鹿児島城西)

【内野手】

小熊慎之介(2年、東北)、併和拓海(1年、智弁学園)、石井寛人(2年、明秀日立)、渡邊翔真(1年、盛岡大付)、木下大我(2年、明秀日立)、島袋皓平(2年、沖縄尚学)、関矢舜(1年、熊野)

【外野手】

荒木拓己(2年、日大山形)、漁府輝羽(2年、おかやま山陽)、松本優大(2年、田村)、西川侑希(2年、浜松開誠館)、山路将太郎(2年、鶴岡東)

【主務】

岩田圭一郎(2年、聖望学園)

※仙台六大学では1・2年生の選抜チームを2チーム作る予定だったが、各大学のテスト期間と重なるため、1チーム編成に。「テスト期間」を設けず、前期最後の講義で試験を実施した東北福祉大でもう1チームを作った。

(写真はすべて筆者撮影)

フリーライター

1987年3月7日生まれ。宮城県栗原市(旧若柳町)出身。大学卒業後、仙台市在住のフリーライターとなり、東北地方のベースボール型競技(野球・ソフトボール)を中心にスポーツを取材。専門誌やWebサイト、地域スポーツ誌などに寄稿している。中学、高校、大学とソフトボール部に所属。大学では2度のインカレ優勝を経験し、ベンチ外で日本一を目指す過程を体験したことが原点。大学3年から新聞部と兼部し、学生記者として取材経験も積んだ。ポジションは捕手。右投右打。

高橋昌江の最近の記事