女性患者への「わいせつ」容疑で医師逮捕 医療行為といえるか、捜査の焦点は?
神戸市内の病院に入院していた女性患者に対し、病室でその下半身を触るなどしたとして、医師の男が逮捕された。「ガイドラインにのっとって内診を行っただけで、わいせつ目的ではない」と供述し、容疑を否認しているという。
どのような状況だった?
報道によれば、次のような事案だ。
「兵庫県警葺合署は5日、不同意性交の疑いで…内科医の男(34)…を逮捕」「男は女性が入院していた病棟の担当」「当時、病室にいたのは女性だけ」「女性の家族が同署に相談し、発覚」「男は昨年9月から自宅待機」(神戸新聞NEXT)
「診察と偽って患者にわいせつな行為をしたとして…不同意性交の疑いで逮捕」「病院は『捜査に全面協力する』とコメント」(MBS NEWS)
「昨年9月10日午前9時10~20分ごろ…病室で、入院中の20代の女性患者が拒否したにもかかわらず、下半身を触るなどした疑い」(朝日新聞 DIGITAL)
これらの記事では「不同意性交の疑い」とされているが、「性交」すなわち医師がその男性器を女性患者の陰部に挿入することが正当な医療行為といえないことなど明らかだ。一方で下半身を触るなどしたとされているものの、「不同意わいせつの疑い」ではない。
この医師が「内診を行っただけ」と主張しているところからすると、正確には指や器具を陰部に挿入した「不同意性交『等』の疑い」による逮捕ということだろう。それらの行為も刑法の「性交等」に含まれるからだ。現に「不同意性交等の疑い」と報じているメディアもある。
約10分間にわたって触るなどしたとされているが、こうした1対1の事件だと「触っていない」と弁解し、客観証拠の乏しさから立証に難航するケースも多い。しかし、この医師は「内診」を行ったと認めているので、少なくとも触ったこと自体については争いがなさそうだ。
捜査の焦点は?
とはいえ、この医師は「わいせつ目的」、すなわち行為の性的意図を否認している。改正前の刑法の強制わいせつ事件に関するものではあるが、この点については最高裁の判例がある。
すなわち、医師による入院患者に対する病室内での事件である上、その弁解の内容をも踏まえると、事件の成否を検討するにあたっては、性的意図の有無を考慮する必要がある。行為そのものが持つ性的性質が不明確で、行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ、性的な意味があるかどうかが評価し難いケースということになるからだ。
ただ、大前提として、そもそも正当な医療行為だったと言えなければ、単に内診に名を借りた性犯罪にすぎず、その行為自体からわいせつ目的もあったと認定される。そうすると、捜査の焦点となるのは、次のような事実の解明にほかならない。
・そもそも、どのような病気やケガで入院していた女性だったのか?
・具体的にどのような症状があり、これまでいかなる治療が行われてきたのか?
・このとき、この女性の下半身を触ったり、指などを挿入したりする必要があったのか?
・なぜ処置室などではなく、病室内で内診を行っているのか?
・なぜ内科医が下半身を触るなどの内診に及んでいるのか?
・なぜ医師1人で女性患者に対応しているのか?
・この医師はこの女性の主治医だったのか?
・カルテにはどのように記載されているのか?
・女性に対する説明内容や拒絶の有無、その状況はどうだったのか?
・この医師のいう「ガイドライン」とはいかなる内容だったのか?
事件や被害届の提出から半年を経ての逮捕なので、警察としてもこれらの点について慎重に裏付けを進めてきたものと思われる。医療と「わいせつ」の線引が問題となるケースだけに、ほかに同様の被害を訴えている女性患者がいるのか否かを含め、今後の捜査の展開が注目される。(了)