だいち3号チームと一体で進めた原因究明 H3試験機1号機、3月6日再打ち上げへ
2023年3月3日、JAXAは2月17日に第1段電気系システムのトラブルのため直前で打ち上げを停止したH3試験機1号機の新たな打ち上げ日を予備期間内の3月6日午前10時37分55秒に設定したと発表した。2週間にわたる原因調査の結果、第1段エンジンを制御するユニットの中で発生した意図しない電源断は、ロケット機体と地上の制御システムをつなぐネットワークを切断する手順の中で発生したノイズの一種が原因であることがわかったという。H3プロジェクトチームは、手順を見直してノイズを抑える方式に変更する対策を行い、当初の予備期間内である3月10日までの打ち上げ実施を目指す。
【3月4日更新】
気象条件により、打ち上げは2023年3月7日午前10時37分55秒~10時44分15秒に延期された。
3月3日午後、H3プロジェクトチームの岡田匡史プロジェクトマネージャは次のように説明した。
2月17日以降、これまで関連する機器単体、機器の組み合わせ試験、ソフトウェアのコードのレビュー、回路の精査などを行いFTA(故障の木解析)をによって原因を絞り込んでいった。結果、LE-9エンジンが2基のLE-9エンジンが立ち上がり、推力90%相当に達する「フライトロックイン」状態となった直後に、機体と地上設備との「電気的離脱」が行われる際、地上との通信・電源ライン遮断時の過渡的な電位変動が影響し機体制御コントローラ(V-CON1)が誤作動したものと推定した。
「電気的離脱」とは、ロケットのリフトオフ時に機体底部と地上とをつなぐネットワークのケーブルが物理的に外れる「アンビリカル離脱」の前に、電気的にスイッチをオフにする動作のこと。機体と地上設備との間は通信・電源の5本の線が通るケーブルで結ばれており、5本を同じタイミングでオフにしたところノイズが発生しV-CON1はこれを誤って「コマンド」として検知してしまった。検知したコマンドに従って機体内部の電池とエンジンを制御する機器とをつなぐ電源供給ラインのスイッチをオフにしてしまったため、V-CON1のソフトウェアが電圧の異常と判断しフライトのシーケンスを止めたというもの。
このトラブルに対処するため、これまで地上設備からの通信・電源ラインを一括で遮断していたところを、ミリ秒単位の一定の時間差で遮断するよう変更し、遮断時の過渡的な電位変動を抑制した。検証試験を行い、対策の有効性を確認している。
H3試験機1号機はこれまで電気系システムを含めさまざまな試験を重ねてきたが、2022年11月に行われた主エンジンを機体に搭載しての燃焼試験などの際には、電気系地上システムは「万が一の際に安全にロケットを止める」ための生命線として機能していた。そのため、地上の電気系システムは「むしろ外れないように」(岡田プロジェクトマネージャ)してきたといい、全て統合された状態で地上の電気系システムを切り離した2月17日、この事象が発生したとみられる。
解析でトラブルの原因に網をかけるところまでは比較的早くできた、という岡田プロジェクトマネージャだが、シミュレーションで問題の事象を再現してトラブルの「尻尾をつかむ」には苦戦し、自信を持って「これなら行ける」という感触を得たのは3月1日、2日ごろだという。真っ暗な闇の中にいるような感覚も味わったといい、「The darkest hour is just before the dawn.(夜明け前が最も暗い)」ということわざで心境を語った。
原因調査には、搭載される地球観測衛星「だいち3号(ALOS-3)」のチームが協力した。ロケットにとって衛星はいわば「お客さん」だが、ALOS-3チームの匂坂雅一プロジェクトマネージャは岡田プロジェクトマネージャと密に連絡を取り合ったほか、巨大な電気系システムとも言える衛星側のエンジニアたちが積極的な協力を申し出、一体となって専門ならではの助言をしたという。過去にはプロジェクト中止と再開、設計変更や2度にわたるH3の打ち上げ延期など紆余曲折を経てきたALOS-3だが、今度こそと奮闘するH3チームに衛星/ロケットの垣根を超えて参加する様子がうかがえる。
今後も天候の急変による延期の可能性はあるものの、H3試験機1号機は厳しい試練を乗り越えようとしている。3月6日の朝には朗報を、そして「だいち3号」の宇宙デビューの一報を届けたい。