「良いくどい人」は終わるまでくどくど言うが、「悪いくどい人」は終わってからくどくど言う
世の中には「くどい人」がいます。何度も何度も同じことを執拗に言い続ける人。そういう人を「くどい人」と言います。しかし「くどい人」イコール「嫌な人」というわけではありません。「良いくどい人」と「悪いくどい人」がいるからです。
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。持ち味は「くどい」ことです。
頭ではわかっているのだけれども、なかなか行動に移せないことは誰にでもあります。「知っていること:ノウイング(knowing)」「行っていること:ドゥイング(doing)」に差があることを、「ノウイング・ドゥイング・ギャップ」と呼びます。私どもの支援先企業にも、「ノウイング・ドゥイング・ギャップ」の状態の人がたくさんいます。私はそういう方に、淡々と同じことを執拗に言い続けます。
「先日、言いましたとおり期限通り、資料を提出してください」
「あ、はい。ごめんなさい。すぐにやります」
「先日、言ったとおり、期限内に、資料を提出してください」
「わかってますよ。すぐにやります」
「先日、言ったとおり、期限内に、資料を提出してくれませんか」
「わかってますって。……そんなにこの資料って大事なんですか?」
「期限内に、資料を提出することは最初に全員でコミットした事柄です」
「先日、言ったとおり、期限内に、資料を提出してください」
「わ、わかりました……」
さすがに、4回も5回も同じことを言う前に、相手が根負けするのが普通です。相手は大人ですから3回ぐらい言えば、たいていは聞いてもらえるものです。大切なことは淡々と言い続けること。
「どうして期限内に提出しないんですか? 何かできない理由でもあるんですか?」
「前も言ったじゃないですか。これで3回目ですよ」
……などと感情的になってはいけません。感情的になってしまうと「もう何を言ってもダメですね。勝手にしてください」と捨て台詞を言うなどして、相手が変わることを諦めてしまうからです。これは本当の思いやりとは言えません。コツは、感情ゼロにしてロボットのようにずっと言い続けるのです。私は部下に対しても同じように言います。
「エレベーターを乗り降りする順番がおかしいよ。順番はわかってるよね?」
「この前推薦した本読んだ? 読んだほうがいいよ」
1年でも2年でも、淡々と言い続けます。決して、
「いい加減、エレベーターを乗り降りする順番ぐらい覚えたらどうだ? ビジネスマナーぐらい勉強しなさい。お客様の前で恥ずかしいだろう」
「どうして私が勧めた本を読まないんだ? 勧めてからもう半年以上たってるだろう? 私が推薦した本だから読まないのか? ええ? どういうつもりなんだ?」
などと感情的にはなりません。相手が「やる」と言ったことであれば、事情が変わらない限り淡々と繰り返せばいいのです。特別な技術など要りません。反対に、終わってしまったことを、くどくど言うのはよくありません。
「わかってたんだよ。今回の商談はうまくいかないって。あえて私は何も言わなかったけど、あんなことやってたらお客様から評価されないのは当然だ。なぜこうなったのか、君はわかってるのか? 最初から経緯を説明したまえ。だいたい、あんな提案書を作ってるからダメなんだよ……」
上司が部下に対してだけではありません。家庭の中でもよくあることです。
「ご飯を食べるのに、どうしてそんなに時間がかかってるの? 言ってみなさい。どうしてそんなに時間がかかったの? お父さん、聞いてよ。1時間前からずっと言ってるのに、この子、全然私の話を聞いてないのよ。誰に似たのかしら。本当にいやんなっちゃう。明日もこんなに時間がかかるんだったら、もう何も食べさせませんからね! いい? わかった? わかったか、ってお母さんは聞いてるの。返事ぐらいしなさいよ。さっきだってずっとテレビばかり観てたじゃないの。そんなにお母さんが作ったこのコロッケが美味しくないの……?」
終わったことをくどくど言うと、お互いの健康上よくありません。周囲の空気も悪くします。
目的を果たすまでは、諦めることなく、執念をもって「くどくど」いきましょう。しかし終わってしまってからは「さばさば」しましょう。また同じことがあれば、終わるまで「くどくど」やればいいからです。
「良いくどい人」をめざし、「悪いくどい人」にならないようにしたいものですね。