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中国でふるわない「スター・ウォーズ」。「ローグ・ワン」は成功への糸口となるか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「ローグ・ワン」に出演するドニー・イェンは今週ハリウッドの手形の仲間入りをした(写真:ロイター/アフロ)

「スター・ウォーズ」シリーズ最新作「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」の公開まで、1週間弱となった。ワールドプレミアを米西海岸時間明日に控えるハリウッドでは、またもや訪れる「スター・ウォーズ」旋風の受け入れ態勢が整っている。

11月末段階での調査結果によると、公開初週末の北米興行成績は1億3,000万ドルから1億5,000万ドルあたりになりそうな見込み。ハリソン・フォード、キャリー・フィッシャー、マーク・ハミルら懐かしいキャストが久々に登場したエピソード7「フォースの覚醒」の2億4,800万ドルに比べるとだいぶ劣るが、クリスマス用の買い物で忙しい12月半ばは、通常、人があまり映画館に行かない時期。「フォースの覚醒」の前に公開初週末の史上最高記録をもっていたのは、「ホビット 思いがけない冒険」(2012)の8,400万ドルだった。

本当の勝負は、人々が休暇に入るその次の週以降にある。1月1日まで(アメリカでは1月2日はどの会社も通常営業である)毎日が週末のようになるこの時期は、ハリウッドにとって最大の稼ぎどき。この時期には、オスカー狙いの秀作からコメディ、家族向け映画まで多数の新作が公開されるが、「フォースの覚醒」は3週連続で1位に君臨し、「アバター」(2009)を抜く9億3,600万ドルを稼ぎ、北米映画興収において史上最大ヒット映画となった。

しかし、世界で2番目の映画市場である中国では、ずいぶん事情が違う。

映画館建築ラッシュが続いてきた中国では、近年、ハリウッド映画の興行成績が急上昇してきたが、「フォースの覚醒」は公開2週目に72%も数字が落ち、中国のアニメに首位を奪われた。国内興収は1億2,400万ドル。ハリウッド映画において、史上14位である(ちなみにトップ3は『ワイルド・スピード SKY MISSION』の3億9,000万ドル、『トランスフォーマー/ロストエイジ』の3億2,000万ドル、『ズートピア』の2億3,500万ドル)。2週目に大幅ダウンしたのは、中国のアニメにスクリーンを割り当てたこともあったようだが、上映中にいびきが聞こえたとの報道もある。いずれにしても、世界興収で「アバター」「タイタニック」を抜けず3位に終わったことに、中国での不振が大きく関与しているのは間違いない。

最大の原因は、1977年に始まった「スター・ウォーズ」が、中国人にとってあまり馴染みがないことと考えられている。エピソード4から6までの3作は、中国では劇場未公開。2005年のエピソード3「シスの復讐」も、売上はたった1,100万ドルだった。

ルーカス・フィルムを買収したディズニーはその状況を十分認識しており、「フォースの覚醒」公開前には、ストームトローパーに万里の長城を上らせたり、中国のジャスティン・ビーバーと呼ばれる人気歌手ルハンをキャンペーンに起用するなど、大々的なマーケティングを展開している。公開の5、6ヶ月前には、中国の会社と提携して過去全6作をVODリリースすることもした。それでも、がっかりの結果に終わったわけだ。

しかし、「ローグ・ワン」には、大きな利点がある。「ローグ・ワン」は、「スター・ウォーズ」のユニバース内の話ではあるものの、独立した映画で、これまでの映画をまったく見ていなくても入っていけるようになっている。ルーカス・フィルムのトップ、キャスリーン・ケネディは、今作を、「『スター・ウォーズ』映画の中で、唯一、始まり、真ん中、終わりがある映画。『スター・ウォーズ』を追いかけてこなかった人や、『スター・ウォーズ』をよく知らない土地に住む人たちにとって、今作はこのシリーズへの入り口になると思う」と語っている。それでも、エピソード4「新たなる希望」に出てくるデス・スターの設計図にまつわる話なので、今作を気に入った人は、それがどうつながるのかに興味をもち、過去の映画を見ようと思うかもしれない。そうやって追いついた人たちが、来年12月、エピソード8が公開される時に劇場にやってきてくれればというのが、スタジオの狙いだろう。

「ローグ・ワン」には、香港のドニー・イェンと中国のチアン・ウェンという、中国で知名度のある俳優ふたりが出演する。アメリカではほとんど無名のイェンは、今週、ハリウッドのチャイニーズ・シアター前に手形を刻み、ウォーク・オブ・フェームの星に参加させてもらうという光栄を得た。このニュースは大きく報道されている。また、今週公開された中国向けの予告編では、イェンがもう少し出てくるよう、微妙に編集が変えられている。それでも、今の中国人の観客には、「興行成績狙いでハリウッドは無理にでも中国俳優を出してくるのだ」という冷めた見方をする人も少なくないらしく、これらの努力がどこまで数字に反映するかは不明だ。

中国がなくてもこの映画は十分儲かるだろうし、実際のところ、「フォースの覚醒」は、韓国、ベトナム、インドでもそれほどふるわなかった。中国の映画市場の成長度は、今年なかばから、減速を見せてもいる。それでも、成長の余地、人口の多さ、今後どう転ぶかわからないという状況が、ハリウッドの目を中国に向けさせるのだ。「ローグ・ワン」の中国公開日は、旧正月前の来年1月6日に予定されている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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