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Withコロナ時代の安全なセックスとは?

忽那賢志感染症専門医
(写真:ロイター/アフロ)

コロナはセックスで感染する?

現時点では、新型コロナウイルスがセックスで感染することは証明されていません。

中国から精液から新型コロナウイルスが検出されたという報告はありますが、これはPCR検査でウイルスの遺伝子が見つかっただけであり、ウイルス培養された(=ウイルスに増殖能力がある)わけではないため、セックスでコロナが感染することを意味しません。

一方で、唾液便中から新型コロナウイルスが検出されていること、舌にはACE2受容体が多数発現していることからは、キスやオーラル・アナル・セックスによって感染しうると考えられます。

したがって、生殖器同士の接触そのものというよりは、その周辺にある行為が感染に繋がり得るという意味で、コロナにも配慮したセックスが模索されています。

国内のコロナ禍での性生活の変化は?

さて、このコロナ禍で日本における性生活はどのように変化したのでしょうか?

実はこの記事をお読みくださったTENGA関係者の方から月刊TENGA(という雑誌があることも寡聞にして知りませんでした)の「コロナと性生活」特集におけるアンケート調査の結果をご紹介くださいました。

20代〜50代の男女960人に調査した、大変貴重な日本国内におけるコロナ禍の性生活のデータです。

コロナ禍での性生活の変化の有無(月刊TENGA 第28号より)
コロナ禍での性生活の変化の有無(月刊TENGA 第28号より)

平時と比べて性生活に変化があったと答えた人が、緊急事態宣言が出された4月には24.1%もいたとのことです。

新型コロナの流行とともに変化があったと答えた方が増え、流行が落ち着いた5月に低下しています。

コロナ禍でのセックス回数の変化(月刊TENGA 第28号より)
コロナ禍でのセックス回数の変化(月刊TENGA 第28号より)

実際のセックスの回数の変化ですが、こちらについては二極化が進んでいます。

「月20〜30回」のグループは倍増していますが、一方で「月1〜9回」のグループは全体的に減少し、また「月0回」のグループは増加しています。

これは新型コロナの流行によって、外出がしにくくなり自宅にいる時間が長くなったことから、同居しているパートナーがいる人は回数が増加し、同居しているパートナーがいない人はなかなか会いづらくなり回数が減ったのではないかと推測されます。

性生活の変化の具体内容(月刊TENGA 第28号より)
性生活の変化の具体内容(月刊TENGA 第28号より)

最後に、性生活の変化の具体的な内容についてですが、緊急事態宣言中には「セックスレスが改善した」という人も「セックスレスになった」という人もどちらも増えています。

これは前述の理由によるものではないかと考えられます。

しかし、緊急事態宣言が解除された5月には「セックスレスになった」人が減少し元に戻りつつある一方で、「セックスレスが改善した」人はその後も増加しており、コロナ禍での数少ない良い効果と言えるのかもしれません。

Withコロナ時代の安全なセックスとは

さて、コロナ禍での性生活の実態が掴めたところで、セックスによってコロナに感染しないためにはどうすれば良いのでしょうか。

いくつか参考となる資料をご紹介いたします。

例えば、コロナが蔓延したニューヨーク市では、保健局から「安全なセックスとコロナ(Safer Sex and COVID-19)」というガイダンスが出ています。

また5大医学誌と言われるAnnals of Internal Medicineにも「コロナ時代の性の健康(Sexual Health in the SARS-CoV-2 Era)」というタイトルの総説が発表されています。

カナダの産婦人科学会は「危険な時代の恋人たち ~セックスとCOVID-19(Lovers in a Dangerous Time: Sex and COVID-19)」という映画のタイトルのようなガイダンスを発表しています。

内容としてはどれもほぼ同じことを言っていますので、ここではそれらのエッセンスについてご紹介致します。

さて、これらのガイダンスの中で「安全なセックス」として最も推奨度が高いのは何だと思われますでしょうか?

ニューヨーク市のガイダンスでは「最も安全なあなたのセックスのパートナーはあなた自身だ!」と太字で書かれており「マスターベーション(自慰)にはコロナ感染のリスクがない!(ドヤァ)」と書かれています。

「そんなんみんな知っとるわ!」って気もしますが、確かに真理ではありますよね。

またAnnals of Internal Medicineの総説ではマスターベーションと並んで「禁欲も安全だよ☆」と書かれており、それってそもそもセックスではないのではないかと思いたくなりますが、感染のリスクが低いという意味では確かにそうでしょう。

マスターベーションと禁欲以外にも、コロナの感染リスクの低い行為として「電話やビデオチャット、デジタルプラットフォームを介したセックス」も推奨されています。

すでにこれを一足早く実践されている芸人の方もいらっしゃるようで、大変素晴らしいと思います。

ちなみにですが、Annals of 〜のガイダンスには「会話やビデオのスクリーンショットや性的強要の危険性について注意を払うべきである(Patients should be counseled on the risk for screenshots of conversations or videos and sexual extortion)」とのコメントがあり、不幸な事故を起こさないためにも、こうした諸問題についても注意を払う必要があります。

ということで、ここまではマスターベーション、禁欲、電話やビデオチャットという感染リスクの低い方法をご紹介しましたが、「確かに安全かもしれないけど・・・それってそもそもセックスなん?」と思われた方も多いのではないかと思います。

ニューヨーク市のガイダンスでは「マスターベーションの次に安全なのは、同居するパートナーとのセックスである(The next safest partner is someone you live with.)」としており、これは現実性のある推奨と言えます。

セックスのパートナーを限定することでコロナの拡散を防ぐことができ、また不特定多数とのセックスはコロナに感染するリスクが高くなるため避けるよう推奨しています。これはコロナだけでなく他の性感染症の予防にも言えることですね。

また「発熱や咳など症状のあるパートナーとはセックスを控えるべき」とも推奨されています。このあたりは「熱があるときは仕事を休む」と同じく、Withコロナ時代には比較的受け入れられやすい考え方ではないでしょうか。

セックスの際に注意すべきことは?

特定のパートナー、特に同居のパートナーであれば比較的安全ということでしたが、セックスの内容についてもニューヨーク市のガイダンスではいくつか推奨が出されています。

・セックスの前後ではよく手洗いをしましょう

・オーラル・アナル・セックス(Rimming)は避けましょう

・コンドームを使用しましょう

・キスは感染のリスクが高く避けるべきであり、マスクを着用しましょう

・体位を工夫して顔と顔が近づかないようにしましょう

(ニューヨーク市保健局「安全なセックスとコロナ(Safer Sex and COVID-19)」より)

手洗いをする、オーラル・アナル・セックスを避ける、コンドームを使用する、くらいまではほとんどの方が実践可能と思いますが、セックス中にマスクを着ける、顔と顔を近づけない、などはハードルが高いように思われます。

もちろんこのようにすれば感染のリスクは下がるのですが、現実的にはなかなか難しいと感じる方も多いのではないでしょうか(特に抵抗ないという方は実践していただいて良いと思います)。

現実的な落とし所、ボトムラインとしては、

・セックスの相手を限定する、特に同居者が望ましい

・熱や咳などコロナが疑われるパートナーとはセックスを避ける

・セックスの前後ではよく手洗いをする

といったあたりが、感染のリスクを下げつつ比較的安全にセックスできる方法かと思います。

また無症状の感染者からも感染しうるため、たとえパートナーに症状がなくても、周囲の流行状況に合わせて流行期にはセックスを控えるなどの配慮も大事かと思います。

最後に、コロナだけでなく他にも気を付けないといけないセックスで感染する感染症(性感染症)はたくさんあります。

HIV、淋菌、クラミジア、梅毒、B型肝炎などです。

特に不特定のパートナーとのセックスはこうした性感染症のリスクにもなります。

自分が感染しない、そしてパートナーに感染させないためにも、コンドームの使用を徹底し、特にリスクの高い人は定期的なスクリーニング検査を心がけましょう。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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