海外で優秀人材を定着化させる人材マネジメント 〜ベトナム企業の取材からわかったこと〜 連載(4)
連載第4回となる今回は、リーダーシップとフォロワーシップの話をしたいと思います。
筆者は200社以上の組織人事改革を支援してきましたが、どのような組織であっても、フォローワーシップの大切さをいつも感じています。フォロワーシップというのは、フォロワーが力を発揮する状態を実現することを言います。また、フォロワーとはリーダーを支える人のことを言います。一般に「有能なリーダーのもとには、機能しているフォロワーがいる」と言われます。筆者は、様々な企業をみてきましたが、リーダーがフォロワーをつくっているのではなく、フォロワーがリーダーをつくっていると考えています。つまり、先ほどの言葉を入れ替えて、「有能なフォロワーのもとには、機能するリーダーがいる」と言った方が実態に近いと考えています。
<リーダーシップチームはリーダーとフォロワーが一緒につくる>
皆さんは、TEDというウェブサイト(http://ted.com)を観たことがあるでしょうか?世界中の著名な方々の講演が無料で閲覧できるこちらのサイトで、常に上位にランクインする講演として、デレク・シヴァーズの「社会運動はどうやって起こすか」(http://www.ted.com/talks/derek_sivers_how_to_start_a_movement?language=ja)という映像があります。この映像ではフォロワーシップの本質が語られています。まずはじめに公園で裸で踊っている男性の映像が流されます。そして、始めは1人で踊っている男性でしたが、その男性の脇に1人の男性が寄ってきて同じように踊り始めます。すると、2人目、3人目と徐々に数が増えていき、踊る人の数が7、8名を超えてくると、周囲にいる誰もが踊りに参加しはじめる。結果として、公園にいる多くの方が最初の男性と同じように踊ってしまうという映像です。ここで、デレク・シヴァーズが解説をします。「リーダーシップというのは過大に評価されている。このケースで言えば、最初にリーダーと同じように踊ろうと決意して近寄って踊った人。つまり、フォロワーの方が重要な役割を担っている」。つまり、リーダーが1人で踊っている段階では、それはただの変わり者ですが、そこにフォロワーがくると、周囲はフォロワーの行動を真似し始める。1人の異端者の行動に、最初のフォロワーがつくことで、それは、組織になりチームになるということです。デレク・シヴァーズは、次のようにも解説します。「リーダーにとって大切なのは、フォロワーを対等に扱うこと」。つまり、リーダーとフォロワーの間には、上下関係ではなく、お互いに役割分担があり、リーダーとフォロワーを合わせてはじめて「リーダーシップチーム」ができるということです。一般に、リーダーシップはリーダー本人の能力や行動が組織に影響してできるものと思われがちですが、実際には、リーダーシップというのはリーダーとフォロワーが一緒につくるものなのだということです。
<創造的フォロワーを大切にする>
それでは、企業組織において、リーダーシップチームとして機能するフォロワーというのは、どのような人のことを言うのでしょうか?まずは下記の図表をご覧ください。
【図表1】フォロワーの4タイプ
リーダーがリーダーシップを発揮するために、大切にしたいフォロワーは「創造的フォロワー」です。「創造的フォロワー」は、「批判的行動」も「貢献的行動」もいずれの行動も実施できるフォロワーです。リーダーの実施する行動に対して、リーダーが気づかない視点を与えてくれると同時に、リーダーが目指しているビジョンに貢献しようとする意識が高い人材です。リーダーは、「創造的フォロワー」を対等に扱い、助言を求めながら協力をしてもらう行動をとることで、強い「リーダーシップチーム」がそこにできあがります。
<フォロワーシップを高めるために必要なことは?>
フォロワーシップを高めて、リーダーシップチームをつくりあげるために、若手社員に対して、リーダーシップとフォロワーシップの両方の大切さを伝える教育研修を実施することも有効です。特に、上司も部下も両方存在するような、中間管理職のときに、リーダーシップとフォロワーシップの両方の概念を伝えながら、自分自身の行動を振返らせることは、組織マネジメントを高めるために非常に有効です。例えば、下図のような一日研修を実施してみるのも、強いリーダーシップチームをつくるために意義のある取り組みとなるでしょう。
【図表2】リーダーシップとフォロワーシップを学ぶ一日研修の事例
<リーダーとフォロワーの逆転>
組織運営上、フォロワーシップの考え方はとても重要です。一般に、リーダーシップはリーダーが発揮する能力、フォロワーシップはフォロワーが発揮する能力というように考えがちですが、これまで述べてきたフォロワーシップの発揮されたチームでは、リーダーとフォロワーの逆転現象が起こってきます。
これは、リーダーシップ理論において「サーバントリーダーシップ」という概念で説明されるリーダーシップの一形態ですが、現代の経営環境では、このような考え方が、リーダーシップ理論の主流になってきつつあります。
リーダーとフォロワーが逆転した環境では、組織のトップは「サーバント(奉仕する人)」になります。つまり、現場の社員がリーダーシップをとり、組織のトップはフォロワーシップをとるという組織運営になるということです。現場の社員は、自らビジョンを示して、周囲のモチベーションに灯をともし、人を巻き込んで業務を遂行します。現場の1人ひとりの社員がリーダーシップを持って動くようになると、一方で、組織のトップはフォロワーシップを発揮する役割に転換していきます。一人ひとりのリーダーシップ行動を支えるための環境づくり、助言・指導、後方支援が組織トップの仕事になるのです。
<サーバントリーダーは何を実施すべきか?>
サーバントリーダーが実施すべきことは、従業員1人ひとりのエンゲージメント向上です。エンゲージメントとは、「所属組織に対して、献身、活力、没頭する気持ちを持つこと」を言います。エンゲージメントを高めるために必要な要素として、8つ要素があります。それは、自社の活動にどれだけ共感しているかを示す「組織共感」。自社の社会的な認知度にどれだけ誇りをもっているかを示す「社会的認知度」。自身の役割や仕事内容にどれだけ満足しているかを示す「業務役割」。業務を通じて成長できるかを示す「成長」。職場の人との関わりに対する満足度の高さを示す「人間関係」。IT環境や福利厚生など職場の居心地の良さを示す「職場環境」。公正に評価されているかを示す「評価」。賃金や賞与の水準への満足度を示す「報酬」。以上の8つの要素を高めていくことが重要です。
リーダーは、従業員がどの要素に満足をしているかを把握して、まさにサーバント(奉仕する人)の位置づけで、従業員のエンゲージメントを高めていく行動が求められています。
(つづく)