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子供のアトピーにデュピルマブが効果的?ドイツの大規模調査で判明【海外事例】

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

最新の生物学的製剤デュピルマブが、小児アトピー性皮膚炎の症状を大幅に改善することが、ドイツの大規模な調査で明らかになりました。

アトピー性皮膚炎は、慢性的な皮膚の炎症を特徴とする疾患で、かゆみや皮膚の乾燥、湿疹などの症状が現れます。特に子供に多く見られ、患者さんやご家族のQOL(生活の質)を大きく低下させる原因となっています。

従来の治療法では十分な効果が得られない中等症から重症のアトピー性皮膚炎に対し、デュピルマブは新たな選択肢として期待されています。デュピルマブは、炎症を引き起こす特定のタンパク質をブロックする働きを持つ注射薬です。

【デュピルマブ治療による小児アトピー性皮膚炎の症状改善効果】

ドイツのTREATkidsレジストリは、314人の中等症から重症の小児アトピー性皮膚炎患者を対象に調査を実施。このうち87人がデュピルマブ治療を受け、59人について3ヶ月後と6ヶ月後の経過が追跡されました。

その結果、デュピルマブ治療により、アトピー性皮膚炎の重症度を表すEASIスコアが大幅に低下。EASI-75(75%以上の症状改善)を達成した患者の割合は、3ヶ月後で58.8%、6ヶ月後で62.9%に上りました。これは治験の結果よりもやや高い数値です。

さらに、かゆみの指標であるPP-NRSも3ヶ月後に55.3%、6ヶ月後に57.6%減少。QOLを示す(C)DLQIも59.7%から62.3%改善し、治療開始から3ヶ月以内に84.4%の患者が4ポイント以上のQOL改善を体験していました。

【デュピルマブの高い安全性プロファイル】

デュピルマブ治療を受けた小児患者のうち、有害事象が報告されたのはわずか4人でした。3人に結膜炎、1人にまぶたの炎症(眼瞼炎)が見られ、眼瞼炎の患者では治療が中止されました。顔面の湿疹も1人に報告されています。全体として、デュピルマブの安全性プロファイルは高く、忍容性も良好であると言えるでしょう。

【皮膚バリア機能の改善と炎症メディエーターの減少】

14人の患者から採取した皮膚サンプルを分析したところ、デュピルマブ治療により皮膚バリア機能に関わるタンパク質の発現が正常化し、炎症を促進するメディエーターが減少していることが分かりました。

中でもフィブロネクチン(細胞接着や細菌の侵入に関与)、IL-8(好中球の遊走や活性化に関与)、S100A9(重症度と相関)の低下が顕著でした。これらの結果から、デュピルマブが皮膚炎症を多角的に抑制し、皮膚バリアを改善する働きを持つことが示唆されます。

以上のように、デュピルマブは小児アトピー性皮膚炎に対する有望な治療選択肢であると言えます。重症の患者さんの症状を和らげ、QOLを高める効果が期待できます。ただし、現時点ではまだ十分なデータの蓄積がなく、長期的な有効性と安全性については今後のさらなる検証が必要です。

参考文献:

Stölzl, D., Sander, N., Siegels, D., et al. (2024). Clinical and molecular response to dupilumab treatment in pediatric atopic dermatitis: Results of the German TREATkids registry. Allergy, 00, 1-4. https://doi.org/10.1111/all.16147

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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