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がん患者の皮膚トラブルに要注意!乾癬の発症や悪化を引き起こす治療薬と対処法

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

皆さんは、がんと乾癬に関連性があることをご存知でしょうか?一見、無関係に思える二つの疾患ですが、実は密接な関わりがあるのです。近年、がん治療は目覚ましい進歩を遂げ、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新薬が次々と開発されています。これらの薬剤は、がん細胞の増殖を抑制し、生存期間の延長に大きく貢献しています。

しかし、その一方で、これらの治療薬が皮膚に予期せぬ影響を及ぼすことが明らかになってきました。中でも注目されているのが、乾癬の発症や悪化との関連性です。乾癬は、免疫システムの異常によって引き起こされる慢性の皮膚疾患で、皮膚に赤い斑点ができ、銀白色の鱗屑(りんせつ)が生じるのが特徴です。

本記事では、最新のがん治療薬が乾癬に与える影響について、皮膚科専門医の視点から解説したいと思います。

【がん治療薬と乾癬の発症メカニズム】

がんと乾癬は、一見関係のない疾患に思えますが、実は共通の発症メカニズムを持っています。両者ともに、細胞の異常増殖と免疫系の異常が関与しているのです。がん細胞は、正常な細胞の増殖制御機構が破綻し、無秩序に増殖を続けます。一方、乾癬では、免疫細胞であるT細胞が過剰に活性化され、炎症性サイトカインを大量に放出することで、表皮細胞の増殖が促進されます。

近年開発された分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わるシグナル伝達経路を阻害することで、がんの進行を抑える働きがあります。しかし、皮膚の正常な細胞にも同様の経路が存在するため、分子標的薬が皮膚に作用すると、乾癬の発症や悪化を引き起こす可能性があるのです。

例えば、上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬は、乾癬の病変部で発現が亢進しているEGFRを阻害することで、表皮細胞の増殖を抑制し、乾癬の改善に寄与すると考えられています。実際、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬であるエルロチニブやゲフィチニブで乾癬が劇的に改善した症例が報告されています。

一方で、EGFR阻害薬が乾癬を悪化させたという報告もあり、作用機序は複雑であることが示唆されます。EGFR阻害薬が下流のシグナル伝達を阻害することで、別の細胞増殖経路が代償的に亢進し、乾癬が誘発された可能性があります。

免疫チェックポイント阻害薬も、乾癬との関連が注目されています。この薬剤は、がん細胞が免疫系から逃れるために利用する免疫チェックポイント分子(PD-1やCTLA-4など)を阻害することで、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにします。しかし、過剰な免疫活性化は、自己免疫疾患である乾癬の発症リスクを高めると考えられています。

【がん治療中の乾癬への対処法】

がん治療中に乾癬が発症または悪化した場合、どのように対処すべきでしょうか?まず重要なのは、担当医に相談することです。がん治療を優先しつつ、乾癬に対する適切な治療を行う必要があります。

多くの場合、ステロイド外用薬やビタミンD3外用薬などの局所療法で乾癬の症状をコントロールできます。重症例では、光線療法(UVB療法)やメトトレキサートなどの全身療法を併用することもあります。ただし、免疫抑制作用のある全身療法は、がん治療に影響を与える可能性があるため、慎重に検討する必要があります。

重要なのは、がん治療を中断せずに乾癬をコントロールすることです。EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による乾癬の多くは、休薬せずに外用療法で対処可能であったと報告されています。一方、免疫チェックポイント阻害薬では、約13~23%の患者で最終的に投与中止が必要になったとされています。

乾癬の治療には、皮膚科医との連携が欠かせません。がん治療医と皮膚科医が密接に連絡を取り合い、患者さんに最適な治療方針を立てることが重要です。

【新薬開発の可能性と課題】

がん治療薬と乾癬の関連性は、新たな治療法開発の可能性を示唆しています。例えば、がんの増殖に関わるシグナル伝達経路を標的とした分子標的薬が、乾癬の治療にも応用できるかもしれません。実際、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬は、難治性乾癬に対する新たな選択肢として期待されています。

また、乾癬の発症メカニズムを解明することで、がんの免疫療法に活かせる知見が得られる可能性もあります。乾癬では、T細胞の過剰な活性化が病態の中心的な役割を果たしています。この機序を詳細に解析することで、がん免疫療法の効果を高める手がかりが得られるかもしれません。

ただし、課題も残されています。がん治療薬が乾癬に与える影響は個人差が大きく、予測が難しいのが現状です。また、免疫チェックポイント阻害薬による乾癬では、ステロイドの全身投与ががん治療の効果を減弱させる可能性が指摘されており、慎重な投与判断が求められます。

今後、がんと乾癬の関連性に関する研究が進展し、両者の特性を踏まえた新薬開発が進むことを期待したいと思います。

【参考文献】

Dermatol Ther (Heidelb). 2024 Jun 22. doi: 10.1007/s13555-024-01198-w.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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