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薄毛のリスクを高める?経口避妊薬と遺伝子の意外な関係

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【前頭部線維化脱毛症とは?症状と特徴】

前頭部線維化脱毛症(FFA)は、比較的新しく認識された脱毛症の一種です。主に閉経後の女性に多く見られ、前頭部や眉毛の毛が徐々に失われていくのが特徴です。

FFAは1994年に初めて報告されて以来、その発症数が増加し続けています。症状としては、前頭部の生え際が後退し、眉毛が薄くなることがあります。また、頭皮に炎症や瘢痕(はんこん)が見られることもあります。

この脱毛症は一度発症すると元に戻ることは難しく、早期発見・早期治療が重要です。

【遺伝子と環境要因の相互作用:FFAのリスク因子】

最近の研究で、FFAの発症には遺伝的要因と環境要因の両方が関わっていることがわかってきました。特に注目されているのが、CYP1B1という遺伝子と経口避妊薬の使用歴との関係です。

CYP1B1遺伝子は、体内でホルモンを代謝する酵素の一種をコードしています。この遺伝子には、FFAのリスクを高める可能性のある変異が存在することが分かっています。

一方、経口避妊薬は合成エストロゲンやプロゲステロンを含む薬剤で、多くの女性が避妊や月経調節のために使用しています。

今回の研究では、CYP1B1遺伝子の特定の変異(c.1358A>G, p.Asn453Ser)と経口避妊薬使用歴の組み合わせが、FFAのリスクを高める可能性があることが示されました。

【研究結果:経口避妊薬使用者でFFAリスクが上昇】

イギリスの研究チームが行った調査では、489人のFFA患者と34,254人の対照群を比較しました。その結果、CYP1B1遺伝子のリスク変異を持つ人の中で、経口避妊薬使用歴がある人は、FFA発症リスクが1.9倍に上昇することが分かりました。

一方、経口避妊薬使用歴がない人では、このリスク変異の影響は見られませんでした。つまり、遺伝子変異と経口避妊薬使用の組み合わせが、FFAのリスクを高める可能性があるのです。

これらの結果は、FFAの発症メカニズムの解明に新たな光を当てるものです。ホルモンバランスの乱れや外部からのホルモン摂取が、遺伝的素因と相まってFFAのリスクを高める可能性が示唆されました。

ただし、この研究にはいくつかの限界があります。例えば、経口避妊薬使用の詳細(種類や使用期間など)が考慮されていないことや、イギリスの白人女性のみを対象としていることなどです。今後は、より詳細な経口避妊薬使用情報や、異なる人種・地域での調査が必要となるでしょう。

また、この研究結果は、経口避妊薬の使用を否定するものではありません。経口避妊薬には避妊や月経困難症の改善など、多くの利点があります。ただし、FFAのリスクが高い方(家族歴がある方など)は、経口避妊薬の使用について医師と相談することをお勧めします。

FFAは比較的新しい疾患であり、まだ分かっていないことも多くあります。今回の研究結果は、FFAの発症メカニズムの解明に向けた重要な一歩ですが、さらなる研究が必要です。

参考文献:

1. Rayinda T, et al. Gene-Environment Interaction Between CYP1B1 and Oral Contraception on Frontal Fibrosing Alopecia. JAMA Dermatol. 2024. doi:10.1001/jamadermatol.2024.1315

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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