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トランプに負けるな!NYタイムズ デジタル購読者が激増

木村正人在英国際ジャーナリスト
トランプに「廃刊にしろ」と罵られたNYタイムズ紙の本社(写真:ロイター/アフロ)

大統領になってますます傲慢になってきたトランプ米大統領から「購読者が減り続けている」「廃刊にしろ」とこき下ろされた米紙ニューヨーク・タイムズが電子版の購読者を大きく伸ばしています。

トランプは「でたらめニュースをまき散らしている」と批判するNYタイムズ紙ですが、無料でインターネット上に氾濫する「とんでもニュース」ばかりを読んでいるとトランプのような人を大統領に選んでしまうと読者もようやく気付き始めたようです。

自分にとって都合の悪い報道が出るとトランプが記者会見やツイッターで当該メディアを口汚く罵るのは大統領になってからもまったく変わりません。シリア難民などの入国を禁止する大統領令に署名した直後に始まったトランプのNYタイムズ紙とワシントン・ポスト紙たたきを振り返っておきましょう。

NYタイムズ紙は社説でトランプの大統領令を「臆病で危険」と批判しました。

1月28日

「経営が苦しいNYタイムズ紙は最初の最初から私に関して間違った報道を続けている。私が共和党の大統領予備選に敗れるだろうと報じ、次は下院選に敗れると報道した。でたらめニュースだ」

「NYタイムズ紙やワシントン・ポスト紙の私に関する報道は間違いと怒りに満ちている。だからこそNYタイムズ紙は実際、減り続けている購読者と読者に謝った」

「最初の最初から私のことを間違って報じているのに、改めようともしない。これからも決して改めないだろう。不誠実だ」

1月29日

「適性と確信を持った誰かが、でたらめニュースを垂れ流し経営が傾いているNYタイムズ紙を買収し、経営を建て直すか、威厳をもって廃刊にすべきだ」

トランプの支持者たちはおそらくNYタイムズ紙やワシントン・ポスト紙の報道より、トランプ自身のツイートを熱心にフォローしているのでしょう。

NYタイムズ紙はトランプが罵るように「経営不振のでたらめニュース」かと言えば決してそうではありません。

NYタイムズ紙のアーサー・ザルツバーガー会長とマーク・トンプソン最高経営責任者(CEO)は2月2日、「購読者がマイルストーン(一里塚)の300万人を突破した」と発表しました。昨年11月にニュースサイトのユニークユーザーは2億2千万人に達したそうです。

オカネを払ってニュースを読んでくれる購読者が増えないことには上質な報道を続けるのが難しくなってきます。昨年の第4四半期、電子版の購読者27万6千人の純増を記録、これは2013年と14年の2年間に増えた合計より多いそうです。

16年にはトータルで電子版の購読者が差し引きして51万4千人も増え、185万人に到達したそうです。これに合わせて電子版の広告収入も第4四半期、対前年同期に比べて11%も伸びました。紙の購読者も11年以来、初めて増え、電子版と紙の購読者は計300万人を超えました。

しかしNYタイムズ紙の経営はトランプが言うように非常に厳しいのは間違いありません。16年の純利益は前年の6320万ドルから2910万ドルに54%も落ちました。レガシーメディア(紙)からデジタルメディアへの移行は経営面では縮小均衡を達成できるかどうかが焦点になっており、収入は2%減って16億ドルになっています。

日本の新聞社に28年身を置いた筆者としてはNYタイムズ紙にはトランプの暴言ツイートに負けないよう頑張ってほしいと思います。それには購読者の支援が必要です。経営が苦しくなると報道の質がどんどん低下する悪循環に陥ってしまうからです。

アーランガーNYTロンドン支局長(ブリュッセルで筆者撮影)
アーランガーNYTロンドン支局長(ブリュッセルで筆者撮影)

NYタイムズ紙のスティーブン・アーランガー・ロンドン支局長は2月24日、ブリュッセルで開かれた会合でこう話しました。

「シリア内戦や紛争地、大事な事柄の取材はもちろんタダではできません。トランプの大統領選勝利でNYタイムズ紙電子版の購読者は増えました。私たち記者の仕事が大切だと信じてくれる人々がまだ、こんなにいるのです。すごく勇気づけられました」

「トランプ大統領のホワイトハウス、国務省、議会と私たちは精力的に取材していく必要があります。ポスト・トルース(真実後)の時代に慄いているだけではなく、私たち報道機関はもっと透明性を増し、謙虚にニュースに反応し、読者に向き合っていかなければなりません」

民主主義を健全に機能させるためには、有権者の「知る権利」に報道機関がしっかり応える必要があります。

貧富の格差が開き、自由と民主主義、市場主義、そして未来への懐疑がまき散らされています。国家社会主義という名のファシズムと軍国主義、共産主義に絡めとられ、世界大戦に発展した20世紀前半に状況は似てきているように感じます。アーランガー支局長が言うように、報道の真価が今ほど試されているときはありません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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