私たちは地獄行きの急行列車「アベノミクス号」に乗っている
首相自らが「この道しかない」と言って継続中のアベノミクス。「今年はその真価が問われる年」とメディアは言うが、もう結果は明らかだろう。つまり、アベノミクスはムードだけの“実質”が伴わない“改革”であり、私たちは「地獄行きの急行列車」に乗っているのと同じだ。
そもそも、金融・財政政策だけでは、経済は回復しない。すでにあらゆる数値がこのことを示しているのに、メディアはいつまで「ムード報道」を続けるのだろうか?
以下、アベノミクスの正体を見るために、ドルベース(ドルで見なければ実質はわからない)で、各種数値を捉え直してみた。
■ドル円交換レート
各年の(年平均)(12月平均)を示す。
2011年(年平均)79.80円 (12月平均) 77.85円
2012年(年平均)79.79円 (12月平均) 83.57円
2013年(年平均)97.59円 (12月平均)103.51円
2014年(年平均)105.94円(12月平均)119.31円
*アベノミクスが始まる前から円安は始まっており、この4年間で円はドルに対して約50%も下落した。つまり、日本円の価値は大幅に下がった。このままいくと、円は国際通貨の中で「最弱の通貨」になりかねない。メディアが常套句で使う「円は安全資産」というのはウソだ。
■株価
日経平均の各年12月の大納会終値とその日のドルと円の交換レート、ドルに換算した株価を示す。
2011年 8455円 76.94円 約110ドル
2012年 1万0395円 86.01円 約121ドル
2013年 1万6291円 105.15円 約155ドル
2014年 1万7451円 119.46円 約146ドル
*アベノミクスが始まった2012年12月、日経平均は1万0395円だったが、丸2年後の2014年12月は1万7451円となり、株価はなんと約7000円も上がった。しかし、ドル換算で見ると、2012年12月は約121ドルで2014年12月は約146ドルだから、わずか25ドル上がったにすぎない。
また、2014年の1年間だけを見ると、株価は円では1000円以上上がったが、ドルでは約9ドル下落している。アベノミクスで株価は上がり、日本経済は回復したと言われたが、ドルで見るとそうなってはいない。株価は、経済回復のバロメーターたりえていない。
■日本の名目GDPの推移
SNA(国民経済計算マニュアル)に基づき円とドルベースで示す。
2011年 473.9兆円 5万9385億ドル
2012年 474.4兆円 5万9456億ドル
2013年 483.1兆円 4万9207億ドル
2014年 488.6兆円 4万7698億ドル(IMF推計)
※円ベースではほぼ横ばいだが、ドルベースでは大幅に目減りしている。とくに円安が進んだ2013年は、約1兆ドルも吹き飛んだ。
■1人当たり名目GDP
SNA(国民経済計算マニュアル)に基づきドルベースで示す。
2011年 4万6175ドル
2012年 4万6531ドル
2013年 3万8644ドル
2014年 3万7539ドル(IMFの推定値)
※昨年末、内閣府が発表した2013年度の日本の1人当たりGDPは3万8644ドルで、OECD加盟国の中では19位。前年は13位。1人当たりのGDPが減少すると、最終的には社会保障の水準も低下する。2000年までは1人当たりのGDPが主要国中1位2位だったから、いまの日本は主要国の中でも「貧しい国」になったと言える。
■企業の経常利益の推移
資本金10億円以上の大企業の経常利益(財務省の「法人企業統計」)を示す。( )内は各年をドルで換算したもの。
2011年 約23.9兆円 (約2995億ドル)
2012年 約25.9兆円 (約3246億ドル)
2013年 約34.8兆円 (約3566億ドル)
2014年----
*2013年度に「資本金10億円以上の大企業」は経常利益を前年比で約10兆円、約34%も上昇させた。しかし、ドルベースで見ると、ほとんど横ばいだ。企業業績の改善といっても、それは円に換算したときの為替益だけの話で、企業の収益力が上がったわけではない。
だから、リフレ派が望んだ業績が上がれば給料が上がる。設備投資が増えるは起こっていない。
しかも、「資本金1000万円未満の中小・零細企業」は、2013年度に平均マイナス2%の減益となっている。為替の恩恵を受けられないので、円ベースでもマイナスになった。
■トヨタの売上高の推移
ここ4年間の3月年度決算より。
2011年3月 18兆9940億円(約2163億ドル)
2012年3月 18兆5840億円(約2329億ドル)
2013年3月 22兆0640億円(約2765億ドル)
2014年3月 25兆6920億円(約2632億ドル)
*トヨタは日本一の優良企業であり、日本経済全体の牽引車でもある。リーマンショックで落ち込んだものの、ここ2年間、売り上げを伸ばし、営業利益も2年連続で過去最高を更新している、しかし、国内販売の低迷を北米などの海外販売と円安による為替差益で補った結果だ。
日本の国内市場は、軽自動車しか売れなくなっている。
■民間給与の推移
国税庁「民間給与実態統計調査」から、ここ4年間の推移を示す。( )内はドル換算。
2011年 平均年収409万円(約5万1253ドル)
2012年 平均年収408万円(約5万1134ドル)
2013年 平均年収414万円(約4万2422ドル)
2014年-----
*民間給与というのは、正社員・非正規社員も含めて民間企業に勤める人に昨年1年間に支給された給与の平均。2013年度は、正規は474万円、非正規は167万円である。
2012年と2013年を比較すると、円では7万円アップしているが、ドルではなんと9000ドルほども下落。日本人の給料は、国際的に見て急激に下がっている。
また、厚生労働省の最新の『毎月勤労統計調査』(2014年12月調査)によれば、全労働者平均の実質賃金は16カ月連続で減少。10月の実質賃金はマイナス2.8%。
■家計貯蓄率
内閣府発表の「家計貯蓄率」の推移は次の通り。
2011年 +2,20%
2012年 +1.02%
2013年 −1.30%
2014年----
*内閣府が2014年12月25日に発表したところによると、2013年度の国民経済計算確報で、所得のうちどれだけ貯金に回したかを示す家計貯蓄率はマイナス1.3%。貯蓄率がマイナスになるのは、ほぼ同じ条件で統計を比べられる1955年度以降初めてのこと。
また、2014年「家計の金融行動に関する世論調査」(金融広報中央委員会)では、金融資産を保有していない世帯は38.9%と4割に迫っている。つまり、いまの給料では貯蓄ができない人が急増している。
■消費者物価指数
ここ4年間の消費者物価指数の年平均(基準年=100)の推移を示す。
2011年 99.73
2012年 99.69
2013年 100.04
2014年 102.70
*2014年11月の消費者物価は2.7%上昇(前年同月比)で、これは18カ月連続。アベノミクスでは、消費税の増税もあって、デフレからインフレに転換した。しかし、実質賃金が上がらないなかでのインフレは生活を圧迫する。
今後、給料が上がらなければ、デフレのほうがまだマシだったことになる。
■長期金利の推移
新発10年国債流通利回りの末値(日銀)は、次の通り。
2011年 1.147%
2012年 0.860%
2013年 0.721%
2014年 0.658%
*新発10年国債利回りは、2015年 1月8日終値で0.285%を記録し、史上最低。しかし、この異常な低金利は、異次元緩和で日銀が国債を買い占め、実質的に国債市場がなくなってしまったから。
しかし、この異常低金利で円安がさらに進むと、キャピタルフライトが起こる。仮に国債利回りが0.5%で、円が5%下落すると、海外投資家のリターンは▲4.5%になるから、円はさらに売られ、日本の資産はバーゲンセール状態になる。
■普通預金金利の推移
メガバンクの普通預金金利の平均は、ここ4年間ほぼ変わっていない。
2011年 0.02%
2012年 0.02%
2013年 0.02%
2014年 0.02%
*金利0.02%で、100万円を1年間預けると利息は200円にしかならない。しかも、ATMでお金を下ろすと、1回およそ100~200円の手数料を取られる。しかも、円安と実質賃金の低下が続いているので、銀行にお金を預けていると、どんどん目減りする。それなのに、日本人は忍耐強く貯金をしている。
アベノミクスはインフレを起こし、同時に金利を低く抑えることで実質金利を低下させれば、企業の設備投資を刺激するとしてきた。しかし、個人マネーはどんどん目減りしている。
■日本の根本問題はデフレではない
このように見てくると、現在の日本の不況、経済衰退をアベノミクスのような政策で止めることは不可能ということがハッキリする。日本の根本問題はデフレなどではなく、「人口減・少子高齢化」「国内産業の競争力喪失」「グローバル経済に不適合」「金融鎖国」というような構造的なことだからだ。
これは、第3の矢で解決していくしかないが、いまだにその矢は飛んでいない。つまり、アベノミクスがあろうとなかろうと、私たちはこの衰退を受け入れるしかないのだ。だから、そこに目を向けず、人工的なインフレで解決しようなどというのは、頭がお花畑である。
縮小する経済に合わせて、すべてをダウンサイズ(政府も民間も)するのが最善の方法だ。国家予算が史上最高などというのは本当にサイテーであって、これ以上のバラマキを止め、一刻も早く“小さい政府”になってもらわないと、私たちは助からない。