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「103万円の壁」「政治とカネ」問題より補正予算成立を優先か。バラマキ政治が日本をさらに衰退させる!

山田順作家、ジャーナリスト
旧来の自民党政治を踏襲するだけなのか?(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

■臨時国会で決まるのは補正予算ぐらいか

 12月28日から、臨時国会が始まる。

 29日の石破茂首相の所信表明演説を皮切りに、12月2~4日に衆参両院の代表質問が行われ、その後は、予算委員会が開かれて諸問題が議論・審議される(ことになっている)。

 

 先の衆議院選挙後の初の本格国会だけに、現在の日本の最大の政治課題である「政治とカネ」問題が争点になるはずだが、いつの間にか「年収103万円の壁」にすり替わってしまった感がある。現状では、「政治とカネ」問題で決まるのは、自民が譲歩した「政策活動費」の廃止ぐらいである。

  

 歳費(給与)とは別に国会議員に毎月100万円支給される「調査研究広報滞在費」(旧文書通信交通滞在費)は、温存される。そして、本丸とされる「企業・団体献金」の禁止は、スルーとなるのが決定的だ。

 

 となると、間違いなく決まるのは、非課税世帯に給付金3万円などが柱の補正予算。すでに国民民主は「年収103万円の壁」の“引き上げを議論する”明記だけで与党に取り込まれたので、問題はない。しかも、今回の補正予算の規模は約13兆9000億円ととうの昔に決まっている。

■目玉は「住民税非課税世帯に3万円を給付」

 石破茂氏が首相になったので、少しは変わるかと思われたが、自民党のバラマキ政治は少しも変わらない。石破首相は、選挙前から、経済対策として2023年度補正予算を上回る規模の補正予算を組むと公言してきた。

 今回の補正予算の概要は、物価高対策として住民税非課税世帯に3万円を給付。子育て世帯には子ども1人当たり2万円を加算する。エネルギー価格高騰に対応するため、来年1~3月の電気・ガス代を支援。今年の12月末で終了予定だったガソリン補助金は減額しつつ年明け以降も継続するというもの。

 これは、どこからどう見てもバラマキである。

 すでに政府は、2023年の経済対策で、物価高対策として住民税非課税世帯に10万円、18歳以下の児童1人当たり5万円の給付を行なっている。これと同じことを、またしてもやると言うのだ。

■政府与党寄りの読売新聞まで厳しく批判

 この補正予算に、いつもなら自民支持、与党よりの論調の読売新聞も「社説」(11月23日)で、厳しく批判した。

 まず、《政策効果を吟味せず、規模ありきで歳出を膨らませたと言わざるを得ない。日本の成長力を高める施策にこそ、資金を重点的に投じるべきだ》と始まり、事細かく批判している。以下、そのポイントを抜粋・引用する。

 

《予算規模が膨らんだのは、石破首相が、先の衆院選の期間中に内容の吟味がないまま、前年度を上回る規模にすると言及したことが大きい。

 その結果、必要な施策を精査して積み上げたものではなく、はじめから規模ありきで、バラマキ型の補正予算案となった。》

 

《巨額な支出に見合う効果が乏しく、惰性で続けている施策の典型が、住民税の非課税世帯への3万円の給付金だろう。コロナ禍以降、この種の給付金は何度も繰り返され、昨年秋の対策でも7万円の給付金が盛り込まれた。

 住民税の非課税世帯は、65歳以上の世帯が大半を占め、金融資産が多い高齢者にも恩恵が及ぶ。むしろ現役世代への支援を手厚くすべきだとの声も根強い。》

 

 《電気・ガス代への補助金制度を、来年1月から3月まで再開し、年内を期限としていたガソリン補助金を延長することも問題だ。

 こうした補助制度には既に、総額11兆円を超える予算が充てられた。財政を圧迫するだけではなく脱炭素の流れにも逆行しよう。》

「住民税非課税世帯」の多くは高齢者世帯

 読売の社説は、SNSに投稿されている「いちばん嫌いな言葉は住民税非課税世帯」「低賃金、低所得で納税している人間は報われず、本当におかしい」「税金納めているのがバカらしい。マジで!」「給付金なんてやらずに消費税を減税すればいいだろう」「非課税世帯へのバラマキはできるのに『103 万円の壁』にはなぜ財源がないというのか」などという怨嗟の声を代弁したと言える。

 読売社説にもあるように、住民税の「非課税世帯」というのは、その多くが高齢者世帯である。よって、これをすべて「貧困層」とするには無理がある。なぜなら、所得はなくとも、金融資産が豊富な世帯もあるからだ。

 ところが、政府は「住民税非課税世帯=低所得層」という前提で物事を進めている。そのほうが選別する手間が省けるからだろう。また、住民税非課税世帯というのは、家族の誰の所得も課税ラインに達しないということで、いちがいに貧困世帯とは言えない。

 厚労省の「令和5年国民生活基礎調査」から、住民税非課税世帯に占める割合を世帯主の年代別に分けると、以下のようになる。

・ 29歳以下=4%

・ 30代=2.7%

・ 40代=4.1%

・ 50代=8.3%

・ 60代=16.6%

・ 70代=33.8%

・ 80歳以上=30.4%  

■コロナ禍以後、ずっと続く巨額補正予算

 住民税非課税世帯のうち、世帯主が60歳以上の世帯が8割以上を占めている。よって、この政府の給付金バラマキは、与党による高齢者の買収行為に等しい。高齢者ほど選挙に行く。経済対策と称した選挙対策ではないのか。

 バラマキによって潤うのは、高齢者世帯ばかりではない。バラマキ業務を請け負う業者には、莫大な手数料、委託料などが入ってくるから、こちらも買収されているのと同じで、バラマキ政党に票が入ることになる。

 コロナ禍のときの支援給付事業を思い出してみるといい。中小企業、飲食店向けの支援や雇用助成、「Go Toトラベル」などの消費喚起政策により、行政手続き代行会社、派遣会社、旅行会社、広告代理店などに莫大な額のカネが流れた。

 コロナ禍の2020年度には、補正予算が73兆円、2021年度も36兆円と巨額の経済対策、生活支援対策が組まれた。感染が落ち着いた2022年度になっても、補正予算29兆円が本予算に追加された。2023年もしかりである。

 首相は変わったが、毎回、「思い切った対策が必要」として、税金がバラまかれているのだ。この補正予算の出所は、いうまでもなく国債である。

■政治家と官僚がトクをして庶民は貧しくなる

 日本の政治家は、右派、左派、リベラル、保守、与野党を問わず、すべてバラマキ政策しか言わない。私たち政治家、所属政党が、窮状に陥っているあなたを助けますと言って、自分のものではないカネ(つまり税金)を勝手に分配することを公約する。そうして選挙戦を戦う。

 失業対策、企業支援、生活補助、子育て支援、教育無償化など、すべてバラマキ。「パンとサーカス」である。

 こんなバラマキばかりになると、それを獲得するための争奪戦が起こり、政治家は「口利き」で儲けられる。また、官僚は采配を振るえるうえに、業者からの接待が増える。天下り先も確保できる。

 

 こうして縁故資本主義(クローニーキャピタリズム)は強化され、資本主義が持つ競争によるダイナミズムは失われる。と同時に、自由市場も侵害される。

 本来、バラマキの恩恵に預かるのは一般国民のはずが、そうではなくなり、いくら働いても給料が上がらないという社会ができ上がる。

 バラマキは、なにも近年に始まったことではない。バブル崩壊以後、ずっと行われ、「失われた40年」を招いたのである。1990年代以降、日本政府は国債の大量発行により、1000兆円以上も負債を積み上げた。しかし、GDPは横ばいで、1人当たりのGDPはついに韓国にまで抜かれ、先進国レベルから転落した。

■バラマキを助長する「積極財政」のマヤカシ

 バラマキ政治を後押ししているのは、全政党に存在する「積極財政派」と、国民の間に蔓延する「積極財政世論」である。積極財政派は、積極財政(財政出動)により日本経済は復活すると説く。

 

 財政支出を増やせば、消費や投資が喚起され、景気は上向く。雇用創出にも繋がる。それに伴い、税収も増える。また、社会インフラ整備に予算を投じれば、国土も強靭化され、いいことずくめであると言う。だから、財源がなければ国債をどんどん発行すればいい。国債は国内で消化されている限り問題ないとまで言うのだ。

 しかも、最近では日本が成長しなかったのは、緊縮財政を続けてきたからで、その元凶は財務省であるという「ザイム真理教」がはびこっている。

 まさに、“お花畑”思考と言うしかない。積極財政論は、それ自体は経済的に間違っているとは言えない。しかし、それを国債という借金でまかなうのは間違っている。

 また、バブル崩壊後の1990年以来、日本が続けてきたのは緊縮財政ではない。バラマキのために国債を大量発行するという「放漫財政」である。

■“お花畑”の積極財政派が国民を地獄に導く

 

 さすがにもう放漫財政は続けられない。これ以上、赤字国債を発行できない。そんな瀬戸際に来ていることを、現在の超円安が示唆している。

 日本は財政規律を重視していない、無視しているということが共通認識になれば、市場の円に対する信頼は失われる。ただでさえ国家債務のGDP比が世界第2位に上る「借金大国」(第1位は破綻国家スーダン)が、国債発行による補正予算を組むというのは、さらに借金を重ねていくと言っているのと同じだからだ。

 現在、スタグフレーションに陥っている国が、これ以上、中央銀行が国債を引き受ける「財政ファイナンス」を続けていけば、どうなるだろうか? 円安に歯止めがかからなくなり、ドル円はすぐにでも200円になるだろう。もちろん、物価上昇も止まらない。

 そしてその先にあるのは、国債暴落、ハイパーインフレである。つまり、“お花畑”に住む積極財政派は国民を地獄に導こうとしている。そんな地獄が来る前に、富裕層から有為な若者たちまで、この国を出ていくだろう。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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