トランプ2.0の下では暮らせない!富裕層、セレブに続いて中間層までアメリカ脱出!
■「衆愚国家」(イデオクラシー)では暮らせない
「トランプ2.0」(第2次トランプ時代)が確定してから、アメリカを脱出する人間、脱出を希望する人間が増えている。「トランプ1.0」のときも、同じようなことが起こったが、今回は前回を上回っている。
いくら民主党統治下で「ポリコレ」「ウォーク(Woke)」が行き過ぎ、「サンクチュアリシティ」で犯罪が多発しようと、共和党“オレ様”大統領の下では息が詰まる。「Make America Great Again」といっても、じつは「「Make A[Me]rica Great Again」(オレ様を再び偉大にする)だと、多くの人間が疑っている。
要するに「トランプのアメリカなんて、バカバカしくてやっていられない」「トランプでは健全な民主政治(デモクラシー)が失われ、衆愚政治(イデオクラシー)になる。そんな国で暮らすのはまっぴらだ」と、思う人間が増えたのだ。
■トランプ勝利確定後から問い合わせが殺到!
トランプ勝利が確定した直後から、海外移住のための居住権や永住権取得を支援するコンサルタント会社には相談が殺到。ネットの海外移住支援サイトでは、アクセス数が急増した。
「ロイター」などが報じたところによると、移住先として人気のあるカナダ、ニュージーランド、オーストラリアなどの現地の移住支援サイトを閲覧したアメリカからのアクセス数は、トランプ当選前の10倍以上に上った。
また、グーグルで「moving to Canada」(カナダ移住)と検索した数は、当選前の1270%(24時間で)、「ニュージーランド移住」は2000%、「オーストラリア移住」は820%にも達した。
アメリカ人にとっての夢は、富裕層なら当たり前に持っている通称“第2のパスポート”を持つことだ。これは主に「ゴールデンビザ」のことで、その国に投資すれば得られる居住権、永住権のこと。
じつは、アメリカには「EB-5」という投資で永住権を得られるプログラムがあるが、最近はアメリカ人のほうが別の国の居住権、永住権を欲しがるようになった。
■始まったセレブたちのアメリカ脱出
「トランプ2.0」からの脱出(exodus:エクソダス)の先駆けは、セレブたちだ。報道によると、これまで何人かのセレブがアメリカを出ている。
反トランプとして有名なエレン・デジェネレスは、同性婚相手の女優ポーシャ・デ・ロッシと連れ立ってアメリカを脱出したと、ニュースサイト「TMZ」が報道。ヘンリー王子&メーガン妃も、カリフォルニア州サンタバーバラの邸宅を売り払い、英国コッツウォルズで新生活に入ったという。
また、「ロサンゼルスタイムス」などは、『デスパレートな妻たち』で有名な女優エヴァ・ロンゴリアが、カリフォルニアを離れ、スペインとメキシコを行き来して暮らし始めたと伝えた。彼女は、トランプのアメリカは「ディストピアだ」と語ったという。女優のアメリカ・フェレーラと夫の俳優ライアン・ウィリアムズ、女優のウーピー・ゴールドバーグもアメリカを去る意向だという。
■居住先として人気が下降したアメリカ
アメリカが世界の人々にとって移住先として人気があったのは、ひと昔前の話である。とくに、世界のどこにでも行け、パスポート保持国、居住国、投資先国、長期滞在国などを使い分けられる富裕層にとって、近年のアメリカは居住国としては人気をなくしている。
英コンサルティング会社「ヘンリー&パートナーズ」のレポートによると、1億ドル(155億円:1ドル155円で換算、以下同)以上の投資資産を持つ超富裕層「センチミリオネア」の3分の1がアメリカに居住している。彼らが暮らす都市は、多い順にニューヨーク(744人)、サンフランシスコ及びベイエリア(675人)、ロサンゼルス(496人)だが、そこから出て行く人間が増えているという。
この動きは、トランプ再選以前から起こっている。バイデン政権は、一貫して富裕層に対する課税を強化するとしてきたからだ。とくにセンチミリオネアに対して未実現利益に25%を課税するという政策は嫌われた。これは、富裕層に出ていけと言っているも同然だ。
いまや、富裕層の多くは定住国を持たない。
「ヘンリー&パートナーズ」のレポートは、ミリオネアの流出国、流入国を順付けしている。それによると、流入数がもっとも多いのはオーストラリアで、2位がUAE、3位がシンガポール。アメリカは4位である。かつて1位だったアメリカの人気はなくなっている。
■トランプから逃れる世界周遊クルーズツアー
富裕層のアメリカ脱出を象徴するのが、クルーズ会社「ヴィラ・ヴィ・レジデンシズ」が開始した「4-Year Skip Forward」(4年間のスキップ・フォワード)というクルーズツアーである。
このツアーは、居住型豪華クルーズ船「オデッセイ」(The Odyssey)内のコンドミニアムに住んで、トランプの在任期間中の4年間で世界140カ国425港を巡るというもの。もちろん、オーナーシステムなので、好きなときに好きな期間だけ乗船できる。
最安値のワンルームコンドミニアムの料金は25万5000ドルだ。
すでに、こうした居住クルーズは行われていて、代表的なのが居住型豪華クルーズ船「ザ・ワールド」(The World)による世界周遊ツアーである。「ザ・ワールド」は2002年から運行され、これまで何度か日本に寄港している。
船内のコンドミニアムはほぼ埋まっているが、それでも年間10戸前後が売りに出されており、価格は200万ドル〜1500万ドルである。
■アメリカ人の5人に1人が海外移住を希望
富裕層が国外に脱出しようと、それほど大きな問題とは言えない。アメリカ人なら、世界どこにいようとIRSから課税されるからだ。しかし、富裕層ばかりか、一般層までが国を出たがっているとなると、問題は深刻だ。
最近の「ギャラップ」の世論調査によると、アメリカ人の5人に1人が海外移住を希望している。アメリカを脱出して海外へ移住したいと考えるアメリカ人の割合は、2011年には10%だったが、年々上昇して2024年にはなんと21%に達した。
なぜ、アメリカを脱出したいのか?
その理由はじつにシンプルで、問題はトランプ登場以前から始まっている。分断と格差拡大が進み、「アメリカンドリーム」が消失しつつあるからだ。
■国民の半数がアメリカンドリームを信じていない
アメリカ人、いや、世界中の人々が長い間「アメリカンドリーム」を信じてきた。「頑張って働けば出世できる」「アメリカにはチャンスがある」「チャンスをつかんで頑張れば夢をかなえられる」というのが、アメリカンドリームである。
しかしいま、それを信じる人間は半数ほどになった。とくに、ミレニアム世代、Z世代などの若者層の多くは信じていない。
「ピュー・リサーチ・センター」の最新の世論調査によると、アメリカ国民の半数がアメリカンドリームを信じていない。この調査は、「アメリカンドリームはいまでも実現可能か」と聞いているが、その回答は、53%が「イエス」、41%が「かつては可能だったがいまは不可能」、6%が「アメリカンドリームなど1度も存在したことはない」である。
■低家賃賃貸かルームシェアか親と同居か
アメリカンドリームがなくなりつつある。その結果として、トランプが再選されたと言えるかもしれない。トランプなら、再びアメリカを偉大にし、アメリカンドリームを復活させてくれると支持者たちが信じたからだ。
しかし、それはとんでもない間違いだ。
フロリダのパームビーチの大邸宅で暮らす富豪が、ホワイトトラッシュのことなど本気で考えるわけがない。
オハイオの崩壊家庭の出身で、その境遇から逃れるために海兵隊、オハイオ大、イエール大のロースクールと進んでエリートとなったJDヴァンスが、自分の元いた場所と自分をひどい目にあわせた人々のことを考えるだろうか。
トランプの欺瞞性をもっともわかっているのが、高学歴のミレニアル世代、Z世代の若者たちだ。彼らは大学を出ても、高給な職を得られないうえ、学費ローンの返済に追われ、この物価高のなかで日々の暮らしもままならない。
それに住宅価格の高騰が拍車をかける。彼らは、もはや住宅など買えず、低家賃の賃貸物件で暮らすか、ルームシェアするかなくなっている。親元を離れられない若者も増えている。
■いまや「ミドルクラス」になるのも難しい
カマラ・ハリスは「ミドルクラスの復活」を訴え、住宅購入に補助金を出すなどの政策を提示したが、若い世代は反応しなかった。バラマキでは中流は復活しない。かえって貧困層を増やすだけだ。
アメリカのミドルクラスの割合は、1970年代は6割を超えていたが、いまや5割を切った。
ミドルクラスとは、定義として「年収の中央値の67%〜200%を得ている世帯」のこと。ただし、年収の中央値は州によって異なる。
テキサスでは年収が4万8200ドル(744万円)以上14万4600ドル(2241万円)以下、ミネソタでは5万4900ドル(851万円)以上16万4700ドル(2552万円)以下がミドルクラスと定義されている。つまり、ある州におけるミドルクラスは、ほかの州なら上流(アッパー)あるいは下流(ロウアー)と見られることがある。
この定義を適応して、2022年のアメリカ国勢調査局のデータを「マネーインサイダー」が分析したところ、ユタ州では人口の52.7%がミドルに属している一方で、ニューヨーク州では42.3%しかミドルに属していない。都市部ほど、中流崩壊は進んでいる。いまや、ミドルクラスになることすら難しいのだ。
■移住新天地は、ポルトガルほか南欧諸国
では、アメリカ人はどこに新天地を求めようとしているのか?
富裕層の場合は、オーストラリア、ニュージーランド、スイス、カナダ、シンガポール、ドバイ(UAE)、ケイマン、バハマなどが人気だ。しかし、ミドルクラスの場合は、生活費、住居費が安く、文化的にも共通する欧州の国々、とくに南欧が人気だ。
その筆頭はポルトガルで、続いてマルタ、スペイン、ギリシアなど。いずれもEU加盟国なので、ビジネスでは独仏などへのゲートウエイとなるし、就職先もある。さらに子供がいれば、英語での教育を高いレベルで受けられるので、家族で移住する人間は多い。
とくに近年はポルトガルが人気だが、その理由はゴールデンビザがあるうえ、物価が圧倒的に安いからだ。ここ数年、ポルトガルの不動産価格は上昇している。アメリカ人ばかりか、英国人、フランス人、中国人などが買い漁っている。
■南米ならウルグアイ、中米ならパナマ
南欧以外でアメリカ人が好むのは、やはり英語圏であるオーストラリア、ニュージーランドだが、こちらは生活コストが高いので、ミドルクラスでは手が出ない。カリブ諸国もミドルクラスだとハードルが高い。
そのため、南米ならウルグアイ、中米ならパナマが人気だ。ウルグアイが人気なのはイタリアやスペインなどの南欧文化の国であること、医療費や公立学校の学費が無料で暮らしやすいことがある。
パナマの場合は、なんといっても米ドルがそのまま使える国であるうえ、物価は安く、社会保障も整っている。最大の魅力はリタイアメントビザが取りやすいことで、アメリカのリタイア組はフロリダよりパナマを目指す人間も多い。
じつは、ここ数年、日本の人気も高まっている。円安で生活コストが安いうえ、インフラが整い、治安がいいからだ。しかし、永住権取得の難易度が高く、日本語や日本文化がユニークすぎること、英語教育のレベルが低いことが難点になっている。
■「トランプ2.0」はエクソダスを加速させる
はたして「トランプ2.0」はどうなるのか? はっきりしていることはいくつかある。
一つは、自称「タリフマン」(tariff man:関税男)が、敵対国であろうと同盟国であろうと関税をふっかけることだ。しかし、これでは帝国は繁栄を取り戻せず、かえって世界から孤立する。
次は、パリ協定からの再離脱。「温暖化などフェイクだ」と言い放ち、オイル、シェールガス業界に「掘って、掘って、掘りまくれ!」と言っているのだから、地球は冗談ではなく“沸騰化”する。
さらに、金融バブルの崩壊が懸念される。
コロナ禍でFEDは大幅な金融緩和を行った。その結果、マネーサプライは5倍以上に膨れ上がり、それをいまだに回収できていない。トランプはこの状況をソフトランディグに持っていけるだろうか。
このままいけば、「出アメリカ」(エクソダス)はさらに加速する。ラストベルトの忘れられた人々が、アメリカンドリームが完全に消滅してしまうことを知るのに、それほど時間はかからないだろう。