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ノート(65) 検察における未済処理の重要性とそのための裏ワザ

前田恒彦元特捜部主任検事
(ペイレスイメージズ/アフロ)

~達観編(15)

勾留23日目(続)

受理したら、いずれは処理

 検番や受理日は、検察内でも非常に重要なものだ。事件を受理し、新たな検番を付けたということは、いずれ起訴するなり不起訴にするなり、何らかの形で処理しなければならないということを意味しているからだ。

 この点、「身柄事件」、すなわち被疑者を逮捕勾留して身柄を拘束する事件の場合、勾留期限という締め切りがあるので、これに追われるように最優先で処理を行う必要がある。

 これに対し、「在宅事件」、すなわち被疑者の身柄を拘束していない事件の場合、勾留期限という締め切りがないので、ついつい後回しになりがちだ。

 警察などから事件を受理したり、検察が被害者などからダイレクトに告訴や告発を受理しても、多忙な中でほとんど何もできず、「未済(みさい)」という状態のまま放置されることの方が多い。

 ただ、この状態が半年や1年も続くと、主任検察官の評価が下がるし、管理する幹部についても、組織や部下のマネジメント能力がないということで、上級幹部からの評価が下がる。

集中的な未済処理

 そこで、検察では、年末である12月と年度末で定期異動前の3月に、中長期の未済となっている在宅事件の一掃を図ろうとしている。

 年末には「今年の未済は今年のうちに処理するように」といった指示が、年度末には「手持ちの長期未済は後任に引き継がず、異動前に処理して行くように」といった指示が、幹部から頻繁に下りてくるわけだ。

 年内に処理しなければならない事件の数を増やさないため、警察との取り決めで、12月上旬以降は、在宅事件の新たな送致や送付を行わせず、翌年回しにしているほどだ。

 検察も、ダイレクトに告訴状や告発状が送られてきた事件を「預かり」に止め、正式な受理は1月以降としている。その上で、リアルタイムに発生する身柄事件の捜査や処理をしつつ、溜まりに溜まった在宅事件の一掃に専念するわけだ。

 ただ、多くの事件が嫌疑不十分や起訴猶予といった不起訴で処理される。未済のまま長く放置されてきた在宅事件というのは、結局のところ証拠に難があったり、起訴価値が乏しい事案がほとんどだからだ。

 告訴や告発をした後、ずっと何の音沙汰もなかったのに、12月や3月に入って急に事情を聴きたいなどと検察から呼び出しを受けるパターンがその典型だ。

 中には起訴するような事件もあるが、忙しい中でバタバタと捜査や処理が行われるので、仕事に穴が多く、検察にとってマイナスとなる重要な証拠を見落としていたり、条文の確認を怠り、法令の適用を誤ったまま起訴するといったミスも生じやすい。

書類ねつ造の例も

 年末や年度末に不起訴で処理する場合、実際には実のある捜査などほとんどやっていないにもかかわらず、「許しがたい事件なので告訴をしていただいてから鋭意捜査してみたのですが、決め手となる証拠がなく、起訴して有罪を得るには厳しい状況です」といった方便を使い、被害者や事件関係者を納得させ、告訴や告発を取り消してもらう、というのがよくあるやり方だ。

 ただ、告訴取消しの申立書などをねつ造した例も現にあった。まさしく年度末である2007年3月に生じたもので、4月の定期異動を控えた東京地検刑事部の検事が、担当していた強制わいせつ事件に関し、書類のねつ造に及んだというものだ。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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