Yahoo!ニュース

サヨナラ捕逸よりも珍!「サヨナラ振り逃げ」で10年前、ソフトバンクは勝っていた

田尻耕太郎スポーツライター
2014年当時の松田宣浩(筆者撮影)

 4月28日のソフトバンク対西武、4時間36分のロングゲームはあっけない結末だった。2対2で迎えた12回裏、ソフトバンクが2アウト満塁で絶好のチャンスを作って打席に主砲の柳田悠岐を迎えた。

 柳田は西武7番手・ヤンに追い込まれたが、それは4球目に起こった。11回裏から途中出場の捕手・古市尊が外角低め直球を後逸。ファウルゾーンをボールが転々とする間に三塁走者が生還して、ソフトバンクがサヨナラ勝ちを決めたのだ。

 記録は「サヨナラ捕逸」。

サヨナラ捕逸は9年ぶり

 29日付のスポーツニッポンによれば『サヨナラ捕逸は15年9月29日の阪神戦でDeNAの嶺井博希(現ソフトバンク)が記録して以来、プロ野球16度目』とのこと。まさに珍事だったといえる。

 だが、遡ること10年前、ソフトバンクはもっと珍しい形でサヨナラ勝ちしたことがある。

 2014年5月6日、対日本ハム(ヤフオクドーム=当時名称、現みずほPayPayドーム)で「サヨナラ振り逃げ」を記録しているのだ。

 1対1の9回裏、ソフトバンクの攻撃。1アウト二、三塁で打席には松田宣浩、対する日本ハムのマウンドは当時抑えだった増井浩俊が立っていた。カウント1ボール2ストライクからの4球目、増井の投じたワンバウンドのフォークボールに松田は空振り。しかし、捕手が後逸し、ボールがバックネット方向へ転がる間に三塁走者がサヨナラのホームを踏んだ。

 ベンチを飛び出したソフトバンクナインは、生還した走者のもとに駆け寄って大喜び。三振した松田はちょっと気まずそうにしながらも勝利の輪に加わっていた。

 ここで公式記録員のアナウンスは「三振と暴投」。いわゆる振り逃げが記録されたのだ。公式のスコアシートにも、松田の記録は三振だったがアウトカウントは記録されず、増井の取ったアウトも1つだけだった。

 三振=アウトと思いがちだが、あくまで3つ目のストライクを取っただけでアウトにするにはもう1プレー必要な場合がある。ルールブックにも<第三ストライクと宣告された投球を、キャッチャーが正規に捕球した場合>には打者がアウトになるとある。正規の捕球とは投球を地面に落ちる前(つまりノーバウンド)で押さえたとき。ワンバウンド投球などは、第三ストライクで「三振」と記録されるが、「アウト」にするためには打者にタッチするか、打者が一塁へ到達する前に送球しなければならない。(ただしノーアウトもしくは1アウトでランナー一塁の場合は適用されない)。

松田は一塁に走らなかったのに、なぜ「振り逃げ」?

 つまり、打者はそれより早く一塁に到達すれば「振り逃げ」となる。しかし、この試合でもう1つややこしかったのが、松田が一塁に走っていなかったからだ。つまり「逃げ」ていなかった。

 それでもなぜ『サヨナラ振り逃げ』なのか?

 当時取材した話を総合すると、「記録員の判断だが、ソフトバンクの松田は一塁に到達しなかったが、一方の日本ハム側は打者・松田にタッチをしに行くことも、ボールを一塁に転送することもなく“アウトにすることを放棄したため」という見解だったようだ。

プロ野球で2度しかない珍記録

 なお、『サヨナラ振り逃げ』はプロ野球史上2度しかなく、1度目は1994年6月12日のオリックス対ロッテの10回裏2死満塁、打者イチロー(オリックス)の場面で記録されている。

 また、2014年といえばソフトバンクは10月2日のシーズン最終戦で延長サヨナラ勝ちを決めて劇的なリーグ優勝を果たした年だ。1勝が明暗を分けた紙一重のシーズンでこんな出来事があったのだ。

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。現在は「Number web」「文春野球」「NewsPicks」にて連載。ホークス球団公式サイトへの寄稿や、デイリースポーツ新聞社特約記者も務める。また、毎年1月には千賀(ソフトバンク)ら数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。2020年は上野投手、菅野投手(巨人)、千賀投手が顔を揃えた。

田尻耕太郎の最近の記事