音楽配信は成長続くが音楽ソフトは縮小傾向…音楽CD・音楽配信の売上動向をさぐる(2023年公開版)
音楽ソフト・音楽配信の売上推移
日本国内では音楽として定義づけられた娯楽に対価を支払う動きは、環境の移り変わりに伴い次第に縮小する方向にある。日本レコード協会が2023年3月に発表した白書「日本のレコード産業2023」を基に、その実情を確認する。
まずは一番気になるであろう音楽配信(モバイル、そしてインターネットダウンロード(パソコン配信とスマートフォン双方)、さらにはストリーミング)の2022年分における結果。金額としては1050億1800万円、前年比でプラス17.3%を示した。従来型携帯電話(フィーチャーフォン)による着うたなどの売上を意味する「モバイル」は急速に減少を続け、インターネットダウンロード(iTunesなどのスマートフォン系含む)も減少しているが、ストリーミング(定額制方式に対する使用権の販売など。以前はサブスクリプションと表記していたものと広告収入を合わせたもの)が大幅上昇を遂げ、今回年も音楽配信の全体額を押し上げる形となった(ストリーミング単体ならば前年比でプラス24.7%)。
2007年までは「音楽ソフトの売上減を音楽配信がカバーし、全体の売上は増加していた」、つまり「音楽業界は売上では成長を続けており、CDなどの音楽ソフトの売上減は音楽配信にそのシェアを食われている」と解説できた。ところが2008年に至り、音楽配信の成長は続いているものの、それ以上に音楽ソフトの売上減が急速に進み、市場全体の売上も落ち込む結果となってしまった。そして2010年以降はモバイル端末市場の変化、具体的には従来型携帯電話からスマートフォンへのトレンドの移り変わりに伴う、利用者の有料音楽との付き合い方の激変によって、音楽配信も急速に縮小してしまう。
他方2014年以降はストリーミングの大幅増加により、従来型携帯電話向けを意味するモバイル部門の減少分を補完しきることができ、音楽配信は拡大を示すことができた。
直近となる2022年は音楽配信は成長を続け、音楽ソフトは新型コロナウイルス流行といった特殊事情が2020年から継続していた2021年の前年比減少からは転じて規模を拡大。結果として音楽配信も音楽ソフトも増加する形となり、音楽ソフト全体の売上は増加、アナログ・デジタルを合わせた音楽全体の売上は2年連続して前年比で増加となった。音楽全体の売上は2018年の水準ぐらいにまで戻っている。あるいは2013年以降は音楽全体の売上は3000億円内外を行き来する状態で、2020年~2021年は新型コロナウイルス流行の影響でイレギュラー的に落ち込んだと解釈すべきだろうか。
売上動向を長期視点で
音楽業界の動向を一歩引いた立場から眺められるのが次の図。上記のグラフを1990年までさかのぼって再構築したもの(音楽配信はデータ上に登場した2005年以降のみ)、さらに音楽配信と音楽ソフトの売上合計における両者の比率推移をグラフ化した。
音楽配信のデータは2005年からの調査・公開であることから、それまでは音楽ソフトのみのグラフとなるが、2004年以前は音楽配信そのものがごく少数だったことを考えると、グラフ形成上大きな問題はない。1990年代後半に音楽業界はピークを迎えており、それ以降は売上の面で漸減する傾向である実情が確認できる。
従来型携帯電話上の着メロがスタートしたのは1996年。ただし2004年以前は計測対象とならないほど売上が小さかったこと、そして音質の問題もあり、1996~2004年の音楽ソフトの減少が、デジタル音楽配信のみに起因するとは考えにくい。2005年からは別途取り扱われるほどまでに音楽配信が成長し、一時期ではあるが音楽業界に救いの手を差し伸べた形になっているのが分かる。
2009年~2010年ではすでに1/4近くがソフト部門において音楽配信で占められていた。ところがそれ以降は「従来型携帯電話からスマートフォンへの利用移行に伴う、音楽聴取者の音楽配信との付き合い方の変化」などがあり、少なくとも売上の面ではトレンドの変化が確認できる。そして2013年以降は音楽ソフト分野におけるそのドーピング効果も薄れ、音楽配信分野ではサブスクリプション(現状では広告収入と合わせてストリーミングと表現を変えている)という新たな音楽提供のスタイルの伸長により、再びシェアは音楽配信の増加の形で変化を見せつつある。音楽配信のシェアはこの勢いならあと4、5年もすれば、4割に届くかもしれない。
金額こそまだ音楽ソフトと比べれば少額ではあるが、今後の動向では注目すべきなのが音楽配信部門。同部門ではスマートフォンの台頭、急速な普及に伴い、大きな転換点を迎えている。曲の管理の簡易化と収録容量の増加、無料曲の増加、市場単価の下落、定額制サービスの普及など、多彩な売上圧縮理由により、従量制的な従来の音楽市場が縮小を続けている。昨今のストリーミングによる売上増は、見方を変えればアラカルト方式(1曲ごとの販売方式)の低迷に直結することになるため、諸手を挙げられる状況とは言い難い。
今後さらにスマートフォンの普及率が高まり、多様なサービスが広まり、音楽への接触の様式が変わるに連れ、有料・無料楽曲間のバランス、聴取者の利用スタイルはどのような変化を見せていくのか。多分に拡大を続けているであろう無料音楽市場、さらには定額制の取得サービスの動向も併せ、注視し続けたい。
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