安部裕葵のバルセロナでの挑戦。独立の気運が高まる街で見えた景色。
バルセロナは、魅力的な街だ。
『それでも恋するバルセロナ』という映画にあるように、この街を訪れる人々は芸術に、ロマンスに、身を焦がす。そして、そこで欠かせないのがフットボールである。
そのバルセロナが、この夏に日本人選手獲得に動いた。鹿島アントラーズに所属していた安部裕葵に白羽の矢が立てられた。
■海外初挑戦とバルセロナの街
10月のスペイン。2019-20シーズンが開幕して間もない頃、バルセロナBの本拠地エスタディオ・ヨハン・クライフに足を運んだ。
バルセロナBには、リキ・プッチ、アベル・ルイスなど、将来を期待される選手たちが集う。10月12日に行われたオリウエラとの試合では、格の違いを見せ付け、3-0で勝利した。
近年、乾貴士の成功を契機に、スペインに移籍する日本人選手が格段に増えた。現在、乾と安部のほか、久保建英、柴崎岳、香川真司、岡崎慎司がプレーしている。その中で、少年期をバルセロナで過ごした久保を除けば、安部と柴崎が海外初挑戦の舞台をスペインとしている。
バルセロナが、海外挑戦をスタートさせる場所になる。地中海に面する土地で、人々は開放的でオープンな性格、そういうイメージがあるかもしれない。だが一方、日を追うごとに激しくなるカタルーニャ独立への動きが、この街に少なからず影響を与えている。道を歩けば、カタルーニャ州旗とデモクラシア(民主主義の意)の幕が散見される。
確かに、バルセロナにはインターナショナルな雰囲気が漂う。港町であるため、多種多様な人間と交流して発展してきた側面がある。しかし、カタルーニャ人以外には、差別とまでは言わないものの一線を引くスタンスがある。スペインの中では、外から来るものに対する風当たりが強い。
また独立志向が強い一方で、バルセロナでは都市化が進んでいる。都市化は人の心を亡くす。忙しくなるからだ。そこには、グローバリズムの波と自分たちの思惑の狭間で揺れる人たちがいる。
■適応に必須なのは
先のオリウエラ戦、安部はベンチスタートだった。負傷明けで、スタメンから外れていた。それでも、ウォーミングアップから、チームに溶け込もうとする姿勢がうかがえた。ミスをした選手に「デコピン」をするという、スペイン特有の“イジリ”にも積極的に参加していた。
ただ、まだ安部がスペイン語でガルシア・ピミエンタ監督やチームメートとコミュニケーションを取る場面はなかった。ここで長くプレーしたいなら、言語の習得は必須だ。久保はさることながら、数年スペインでプレーしている乾や柴崎はスペイン語でコミュニケーションが取れるまでにはなっている。そこが、ひとつ目の壁になるだろう。
加えて、当然ながらピッチ上で結果を出さなければいけない。それがふたつ目の壁だ。オリウエラ戦では、安部のポジションで先発したキケ・サベリオが得点を記録。また、フベニル(ユース)世代のミカ・マルモルがBチームでデビューした。若い選手の突き上げが、日常的に起こっている。
Bチームとはいえ、競争は激しい。今季はアンス・ファティ、カルロス・ペレスとカンテラーノがトップチームで居場所を確保しようとしている。
バルセロナBの選手たちは飢えている。我こそは、とトップに行くチャンスを虎視眈々と狙っている。決して簡単ではない適応に、苛烈な競争。揉まれ、もがき、その果てに進化した安部がいるはずだ。