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11歳で親に結婚を迫られ家を飛び出た女性との出会い。「世界の縫製工場」バングラデシュの現実を描く

水上賢治映画ライター
「メイド・イン・バングラデシュ」のルバイヤット・ホセイン監督

 わたしたちが日々着ている、いわゆるファストファッションの服は、なぜ安価なのか?

 詳しくは知らなくとも、低賃金で働かされている労働者のもと成り立っていることぐらいはなにかしらで耳にしたことがあるのではないだろうか?

 本作「メイド・イン・バングラデシュ」は、<世界の縫製工場>といわれるバングラデシュのとある工場で働く女性の物語。

 実話をもとに、劣悪な労働環境を変えようと組合を作って経営者と相対した女性労働者たちの姿が描かれる。

 その物語は、ファストファッションの裏側にある現実のみならず、男性上位社会にあるバングラデシュの女性の立場までを浮かび上がらせる。

 名もなき女性労働者から自国バングラデシュと世界の現実を見据えたルバイヤット・ホセイン監督に訊く。(第四回)

縫製工場で働く女性労働者に目をむけたきっかけは?

 はじめにルバイヤット・ホセイン監督は、1981年生まれでバングラデシュ・ダッカの出身。

 バングラデシュで数少ない女性監督のひとりとして活躍している。

 ニューヨーク大学のTisch芸術学部で映画を学び、本作「メイド・イン・バングラデシュ」を発表する前に、バングラデシュ独立戦争下で敵兵と恋に落ちた女性を描いた「Meherjaan」(2011年)と、タゴールの詩を背景に葛藤する女性を描いた「Under Construction」(2015年)という2作品を発表し、各国の映画祭で評価されている。

 訊くと、今回の「メイド・イン・バングラデシュ」の出発点は、第二作の「Under Construction」から始まったという。

「実は、『Under Construction』をブラジルのサンパウロで、上映する機会があったんです。

 その上映の際、オーディエンスにたくさんの女性がいたんです。

 で、実は『Under Construction』にも工場で働く女性がいたんですけど、Q&Aのときに、女性の労働者は『これからどういう人生を歩んでいくんでしょうか?』という質問をけっこう受けたんです。

 『メイド・イン・バングラデシュ』の主人公となるシムに通じる、同じような年ごろの女性の労働者の人物が小さな役だったんですけど、彼女を気にする意見がけっこうあって。そのときに、『工場で働く女性たちの映画を作ってみようかしら』とはたとひらめいたというか。アイデアが浮かびました。

 『Under Construction』ではいわゆる脇役だった女性労働者のキャラクターを、全面に押し出して、主人公にした映画が作れないかとまず思いました」

バングラデシュの女性の経験と社会状況を映画で描きたい思いがありました

 それとともに、ずっとこんな思いを抱えていたという。

「バングラデシュ女性の権利に関するNGOで働いていた経験から、以前より、バングラデシュの女性の経験と社会状況を映画で描きたい思いがありました。

 工場で働く女性というアイデアが浮かんだときに、合わせてこれらの状況が描けるのではないかと考えました」

「メイド・イン・バングラデシュ」より
「メイド・イン・バングラデシュ」より

モデルとなるダリヤ・アクター・ドリとの出会い

 こうしてまずは工場で働く女性労働者についてのリサーチを開始。

 その中で、今回の作品の主人公シムのモデルとなる、ダリヤ・アクター・ドリに巡り合うことになる。

「わたし自身は工場で働いた経験がまったくなかったので、まずは一から工場で働く女性たちについて調べなくてはならなかった。

 そして、たくさんの工場労働者に会う中で、ダリヤにめぐり逢うことができました。

 彼女に出会ったのは2016年だったと思います。

 ダリヤの自宅を訪問して、そこで話したのですが、当時、彼女はまだ23歳か24歳だったと思います。

 まだまだ若いですよね。諸外国でいえばまだ大学を出たばかり、もしくは大学院でまだ学んでいるぐらいです。

 それぐらいの年齢にもかかわらず、彼女は工場で働きながら、労働組合の代表も務めていた。しかも、当時、8カ月の妊婦で出産を控えていたんです。

 でも、そんなことを感じさせないぐらいパワフルで、そのときも毎日働いていました。『なんてすごい女性なんだ』と思いました。

 それで、話を訊いてみると、映画でも描かれていることですけど、彼女は11歳のときにむりやり大きく年の離れた男性と結婚させられそうになって、自分の家から逃げだしている。

 そのとき、お父さんのお財布からお金を抜き取って、その現金だけを手に家を飛び出た。

 11歳でもう二度と家には戻らないと決めて、家を飛び出るってそうとうな覚悟が必要なことですよね。いくら嫌でも普通はできないと思うんです。だってまだ11歳ですよ。家を飛び出て、いく当ても、働く当てもないのに……。でも、彼女は家を出たんです。

 その彼女の意志の強さ。そこにも心を動かされました。

 そして、実際話してみると、彼女はすごくクレバーなんです。

 11歳で家を飛び出していますから、もしかしたら教育を受ける機会を失っているかもしれない。

 でも、ひじょうにクレバーで、それから周囲をおもいやれる人で。

 労働組合の代表も、自分のためでもあるのですが、同じ境遇の女性たちのことにより思いを寄せて務めている。

 また、劣悪な労働環境や低賃金労働の改善に関しても、より広い視野でみているというか。

 こういう劣悪な労働環境や低賃金労働が間違っていて許されるものではないことを社会や工場の経営者が認めるところまでを見据えて、活動をしているところがある。

 フェミニストのわたしの目からすると、ダリヤは女性のために闘う女性に映りました。

 このようなことで彼女にひじょうに感銘を受けて、わたしはダリヤが実際に経験した出来事に基づいて、本作の執筆を始めました」

(※第二回に続く)

「メイド・イン・バングラデシュ」より
「メイド・イン・バングラデシュ」より

「メイド・イン・バングラデシュ」

監督・脚本・製作:ルバイヤット・ホセイン

出演:リキタ・ナンディニ・シム、ノベラ・ラフマンほか

4月16日(土)より岩波ホールほか全国順次公開

詳細は公式サイトへ http://pan-dora.co.jp/bangladesh/

写真はすべて(C)2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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