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【医学論文】ケトン体ダイエットは危険?心臓病リスクが高まる可能性も。

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

ケトン体ダイエットにとって警鐘。最新医学論文

こんにちは、医学情報レポーターの黒澤 恵です。ここでは、日々出版される膨大な数の医学論文の中から選りすぐりの1本をご紹介します。

今回取り上げるのは「血中のケトン体濃度が高いと、心筋梗塞や脳卒中などの心臓血管系疾患の危険性が上がる」という論文です。ケトン体ダイエットを試している人は要注意。ケトン体ダイエットに興味のある人もぜひ、目を通してください。

ケトン体ダイエット:糖質を制限してエネルギー枯渇状態を作り出すことにより、脂肪を分解して産生されるケトン体をエネルギー源として活用。脂肪が減って体重も落ちる——という理屈のダイエット。

この論文は3月6日、「欧州心臓雑誌」(EHJ)という学術誌に掲載されました。欧州心臓病学会(ESC)という世界最大の心臓病学会が出している論文誌で、信頼性は非常に高いと考えられます。筆者はテルアビブ・ソウラスキー医療センター(イスラエル)のElad Shemesh氏たちです。

ケトン体濃度が高いと心臓病リスクが増える

Shemesh氏たちが解析したのは、健康な米国人6800人弱を平均14年間観察したデータです。観察を始めた時の血中ケトン体濃度とその後の心臓血管系疾患のリスクを調べました。

その結果、ケトン体濃度が高い人は心筋梗塞、そして脳卒中などを起こすリスクが非常に高いことが明らかになりました。

具体的に記すと、ケトン体濃度が10倍高くなるに従い、心筋梗塞や脳卒中を起こす確率が1.54倍も高くなっていました。また心臓がポンプとして正常に働かなくなる「心不全」*という疾患のリスクも1.68倍に増えていたのです。

心不全:心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気(日本循環器学会/心不全学会による定義)。[詳細PDF]

ケトン体濃度の正常値上限はおよそ120マイクロミリモルだとされています [岡山大学ウェブサイト] 。一方、ケトン体ダイエットが目標とするケトン体濃度は1.5〜3.0ミリモル(1500〜3000マイクロミリモル) [あえてリンクは貼りません] 。正常値上限の10倍を軽く超えています。

死亡リスクも増加

それだけではありません。血中ケトン体濃度が10倍上がると、心臓血管系疾患で死亡するリスクも1.87倍、総死亡の危険性さえ1.81倍に増えていました。

これらの数字はすべて、心臓血管系疾患の発症リスクに影響を及ぼし得る他の要因による影響を、統計的に除外した結果です。つまり「ケトン体濃度高値」そのものの影響を見ていると考えて良いでしょう。

いかがでしたか?簡単に体重を落とせるイメージの強いケトン体ダイエットですが、ケトン体が増えるとその裏でこのようなリスクも隠れているのです。リスクとベネフィットをよく考えてから始めたほうが良いでしょう。

なおダイエットについての論文は以下の記事でも紹介しています。「目から鱗」の論文があるはずです。ぜひお読みください。ではまた!

今回ご紹介した論文

血中ケトン体濃度高値で心臓血管系疾患や死亡のリスクが著増 [欧州心臓雑誌 (無料) ] 。

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【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の内容はあくまでも「論文筆者」によるものです。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。あくまでもご自身の見解形成の参考としてお読みください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は3桁。日本医学ジャーナリスト協会会員(いずれも筆名)。

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