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発表直前。「Giri/Haji」の平岳大が挑むBAFTA TV アワード受賞の可能性を探る

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
Netflixオリジナルシリーズ「Giri/Haji」独占配信中

 2020年度BAFTA TV アワード(英国アカデミー賞テレビ部門)の発表が迫ってきた。現地時間7月31日(日本時間8月1日午前3時)から行われる今年の授賞式は、パンデミックの影響で式典やレッドカーペットはオンラインで開催される。先日ノミネーションが発表されたばかりの今年のエミー賞授賞式(9月20日開催)もオンライン開催が決定。主催者側は候補者たちに対してドレスコードを設けないことから、場合によっては自宅からガウンやパジャマ姿での出席もありだと伝えている。BAFTA TV アワード、そして、秋のエミー賞授賞式へと繋がる新しいアワードショーの実施形態は、来年のアカデミー賞授賞式にも影響を与えることは間違いない。

パンデミックと繋がる「チェルノブイリ」のテーマ

 さて、発表までカウントダウンが始まったBAFTAで最も注目されるのは、ドラマ・シリーズ部門の主演男優賞にアジア人として初めてノミネートされた平岳大だ。ノミネート作品の「Giri/Haji」(Netflix)は、歴代最多タイの14部門で候補に挙がっている「チェルノブイリーCHERNOBYLー」(HBO)、7部門の「ザ・クラウン」(Netflix)に次ぎ、「Fleabag フリーバッグ」(BBC)と共に6部門で候補入りしている。

 主演男優賞の本命は、「チェルノブイリ~」でソビエト人科学者、ヴァレリー・レガノフを演じたジャレッド・ハリスだ。イギリスの”The Guardian”紙は、原発事故の恐るべき実態に切り込んだ「チェルノブイリ~」が最多候補数を勝ち取った背景には、COVID-19の世界的感染蔓延に際して、政治がその無能ぶりと隠蔽体質を図らずも露わにしたことに対する怒りが反映されていると分析している。それは正しいかもしれない。

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「Giri/Haji」に有利な空気も

 一方で、「Giri/Haji」にも分がある。まず、今年の1月に行われたBAFTAアワードの授賞式で、監督のスティーヴ・マックイーンが同賞にダイバーシティ(多様性)が著しく欠落していることを指摘したことを受けて、続くTVアワードでは主演女優賞部門以外の3部門に、BAME(イギリスで長く使われてきたBlack(黒人)、Asian(アジア人)、Minority Ethnic (少数民族)の頭文字をとった略称)の候補者たちが名を連ねているのだ。彼らは、「The End of the F***ing World」で助演女優賞候補に入ったグレナダ出身のナオミ・アッキーであり、「Giri/Haji」で主人公の健三がロンドンで出会う男娼、ロドニーを、英語と京都弁を駆使して演じる日系イギリス人俳優のウィル・シャープであり、そして、日本人の平岳大である。

ヨーロッパの状況がTVにも影響を及ぼしている?

 また、前出の”The Guardian”紙はBAFTAのメンバーも含めて、多くのイギリス人がヨーロッパを舞台にしたTVドラマやドキュメンタリーに飽き飽きしていると指摘している。ここ数年、ブレグジットに翻弄され続けた彼らは、TVでまでそれを観たくないというのが同紙の論調だ。その証拠に、EUの分弾を阻止しようと奔走した各国の大統領や首相、顧問たちの姿を追ったBBCによる3部構成のドキュメンタリー・シリーズ「Inside Europe:10 Years of Turmoil」と、イギリスの有権者たちにEU離脱を呼びかけた政治戦略家、ドミニク・カミングスを描いたTVドラマ「Brexit: The Uncivil War」で、カミングスを演じたベネディクト・カンバーバッチが、共にドキュメンタリー部門と主演候補から漏れている。どちらも批評家の評価はそこそこ高かったにもかかわらずだ。

 

 そんな中で、東京とロンドンを舞台に、両方の街で起きた殺人事件が裏社会の権力抗争に影響を及ぼしていく様子を、東京とロンドンのストリートにカメラを持ち出し、独特のライブ感覚を演出した「 Giri/Haji」が、選者たちにとっていかに新鮮だったかがわかる。そこには、ハリウッド映画が日本で製作した犯罪バイオレンス映画にはない、不思議な無国籍ムードが漂って、視聴者の目を引きつけずにはおかないのだ。特に、事件の真相を追って2つの街を行き来する主人公、健三に扮して、常に退廃的で品のいい存在感を発揮し続ける平岳大は、新しい日本人俳優像を体現している。日本語の台詞と英語の台詞がシームレスに繋がっているというのは、高い言語的スキルの現れではないかと思う。

すでにブラックスーツを着て臨戦体制の平岳大

 注目の主演男優賞部門、イギリスではお馴染みのオッズでは、ジャレッド・ハリスがトップで、続いて「The Capture(原題)」のカラム・ターナー、「The Virtues(原題)」のスティーヴン・グレアム、そして、平岳大の順。本人も直前のTV取材に対して、「自信は全くないです。ノミネートされただけで充分ですから」と答えている。しかし、すでに彼のインスタグラムにアップされている、鍛え上げたボディに黒いタキシードを羽織って本番に備えるその姿は、喜びと期待に溢れている。明朝の結果を楽しみに待ちたい。

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Netflix オリジナルシリーズ「Giri/Haji」

独占配信中

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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