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新型マツダ3世界初試乗【動画アリ】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
写真は全てマツダ株式会社の広報写真

マツダ新世代商品の幕開け

 VWゴルフ7を完全に超えた!

 と、走り始めて数分で確信した。乗り心地の良さと静粛性の高さでは間違いなく、クラストップの実力だ。新型マツダ3は筆者の想像を遥かに超えたプロダクトに仕上がっていた。

 同時に、ついに日本のクルマもクラスのベンチマークと肩を並べるほどになったのか、と感じ、なんだか感慨深い気持ちを覚えたほどだ。

 昨年11月のロサンゼルスショーで発表された新型マツダ3(現在の日本名アクセラ)。1月の東京オートサロン2019で日本初お披露目されたばかりの注目モデルの国際試乗会が、ロサンゼルスで開催された。筆者はそこに招かれ、世界で初めてマツダ3を試したのだ。マツダ3はVWゴルフやメルセデス・ベンツAクラス、日本車ではトヨタ・カローラスポーツやスバル・インプレッサ、ホンダ・シビックが存在する激戦区Cセグメントに属すモデル。マツダの世界販売の約1/3を占め、累計販売は600万台を超え、約130カ国で販売される重要な位置付けにある。

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 マツダは既に2016年登場のCX−5から新世代の技術やデザインを一部先取りしてきたが、今回のマツダ3からは完全に、全面的に新世代化を図った。マツダも自ら、このマツダ3をして「マツダ新世代商品の幕開け」と呼ぶほどだから、今回は相当に気合が入ったモデルであることは間違いない。新世代化とは具体的に、新世代のガソリン・エンジン「SKYACTIV-X」、新世代車両構造技術「SKYACTIV-VEHCLE ARCHITECTURE」、そして深化した魂動デザインによる「エレガントで上質なスタイル」を採用したことを指す。

 これらを用い「誰もが羨望するクルマ」をテーマに開発したと開発主査の別府耕太氏はいう。氏はさらに「あらゆる質感を飛躍的に高めた」と筆者が試乗する前に語った。マツダは最近「人間中心」の思想を謳うが、マツダ3はこれに基づき、デザイン・走り・静粛性・環境性能・質感など、すべての領域を飛躍的に高めて、未知の価値を創ることに挑戦し、先の新世代化を要素として用いたわけだ。そうして世に送り出されたマツダ3を実際に試してみて、筆者はものの数分で驚きを覚えた。確かに別府氏の言葉通り「あらゆる質感を飛躍的に」高めていることを痛感したのだった。

新たに採用した技術群による目覚ましい進化

 事実、乗り心地や静粛性に加え、インテリアの品質感はもちろん、操作スイッチの感触まで統一されていることにも感心した。しかもウインカーレバーですら操作感がこれまでと違う優れた感触で、ウインカーの音の響きすら抑えが効いた品質感のあるものだった。さらにインテリアは余計なパーティングを始めとする視覚的なノイズを徹底して削減されており、室内は見て、触って、操作して感じられる上質というものが実現されていたのだ。

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 そんなことを感じつつ、フリーウェイに合流。先に感じた乗り心地の良さと静粛性の高さは、失われず、むしろ今度はそこにフラットな姿勢が高いレベルで保たれ続ける様を感じて、再び驚きを覚えた。こうした乗り心地の良さと静粛性の高さはまさに「SKYACTIV-VEHCLE ARCHITECTURE」によるところが大きい。

 今回は遮音性能を高めるためにボディパネルとマット間にスペースを設けた二重壁構造をマツダで初採用した。また騒音の発生源を抑え、それを小さくし、さらに入ってきた音の変化と方向を制御する徹底対策で、単に静かなだけでなく、質の高い静粛性を実現した。それに加えて驚きだったのが標準装着のオーディオ。高い静粛性を実現した室内に、独自のレイアウトでスピーカーを置いたそれは、8スピーカーの純正ながら社外のオーディオシステムに迫るレベルの、驚きのクオリティを実現していたのだった。

 こうしてオーディオが活きるのも、高い静粛性と乗り心地を実現するボディ骨格があるからともいえる。実際にマツダ3でユニークなのは環状構造のボディ骨格とし、走りのための基本骨格を徹底した他、新たに減衰ボンドを使い走行時の入力をいなす構造を取り入れ、骨格の段階で高い静粛性や乗り心地を実現する工夫がなされた。

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 驚きはサスペンションで、フロントはマクファーソンストラット式とこのクラスの標準的な形式だが、リアは従来のマルチリンク式からトーションビーム式を採用。この選択は、ともすればコストダウンとも取れる。が、実際はこのトーションビームが走りの狙い通り動くよう入念な開発を行なった。結果先に記した通り、走らせてこのクラスの頂点を確信させる快適性を発揮していた。その乗り味はなんというか未曾有の感覚で、ドイツ勢のようにタイヤを押し付けて例え凸凹路面でも、それをタイヤでならしてしまうかのように走るのでなく、また日本勢のようにタイヤが路面変化に煽られてしまうわけでもなく、ヒタッと路面にタイヤを置きつつ入力は確実にいなすため、滑らかな感触が失われない。そんな走りは筆者の試乗動画も参照いただければ幸いだ。

エンジンは6種類。今回試した2機の印象は…

 搭載エンジンはグローバルで、ガソリンの1.5/2.0/2.5の3種類とディーゼルの1.8Lをラインナップ。これに加えて革新的な燃焼制御技術でガソリン・エンジンとディーゼル・エンジンの中間的な仕組みを持つエンジンである、火花点火制御圧縮着火SPCCIを実現した本命のスカイアクティブXが2019年のうちに加わる。今回はこの中から北米仕様の2.5Lガソリンと、これまで存在を知らされていなかった欧州仕様の2.0Lガソリン・エンジンにM Hybridと呼ばれるベルト式ISGを組み合わせたマイルドハイブリッドを試乗したのだった。

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 最初に乗ったのは欧州仕様の5ドア・ハッチバックで、先の2.0L+M Hybridで6速MT、サマータイヤの18インチを履くモデル。走り出しの圧倒的な乗り心地の良さと静粛性の高さはフリーウェイでも変わらず。一方でエンジンはというと、最高出力が122psと周りに比べて数値が低く、最大トルクは213Nmとこの排気量では平均的な数値だ。とはいえ街中や高速の巡行では回転も滑らかで気持ち良く、発進や加速でモーターアシストの独特の力のプラスαが気持ち良い。が、高速で加速するようなシーンでは明らかに力不足を感じるのが残念なところ。

 ちなみにその後試乗した北米仕様のセダンに搭載された2.5Lガソリン・エンジンも最高出力は186ps、最大トルクは252Nmと数値は平均的で、気持ち良さはあるが周りと比べて光るほどの魅力はなかった。しかも最近ライバルはガソリン・エンジン+モーターを搭載した魅力的なユニットを用意するモデルも多い。例えばメルセデス・ベンツCクラスの1.5LのBSGや、ホンダ・インサイトの1.5Lのi-MMDと比べると、今回試乗した2種類のパワーユニット自体の魅力は薄いというのが本音だ。

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人が歩くのを意識しないように、意識せず運転できるクルマ

 エンジンはやや残念だが、走りの実力には驚かされるばかり。ワインディングを走ると、ドライバーはあまりの自然な動きに驚くはず。通常カーブに対してハンドルを切ればノーズが動きロールが生まれ…というコーナリング一連の動作がある。が、マツダ3の場合はハンドルを切ると、ロールすら感じることなく曲がっていくのだ。操作から反応までの一連の動作が極めて連続的なため、クルマの動きを意識することがない。さらに驚きは操舵に対するクルマの反応が、極めて穏やかなこと。しかし決して動きが遅いのでなく、素早い操作にも遅れなく反応するが、その動きは落ち着きや穏やかさを保ち続けるのだ。これが実に不思議な、マツダ3のハンドリングの真骨頂だ。

 走りの開発を担当する虫谷泰典氏から説明された「人は歩く時に、体の動きを意識しなくても普通に歩ける。それと同じような感覚で運転できるような環境を作り上げた」ということが確かに実現されている。これを実現するために今回のマツダ3では統合制御システム開発本部の千葉正基氏が人間研究を行い、ドライバーが自然に動作を行える正しい姿勢を導き出した。結果マツダ3では「骨盤を立てて座る」というマツダの理想の着座姿勢をサポートできるシートの構造や膝裏のチルト調整機構を備えた。それだけにマツダ3はシートに座ると、ドライバーはハンドルと完全に正対し、ペダル類もオフセットがなく、運転にベストなポジションが得られる。シートがフィットし、これが思いの外良さを感じる。

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 また操作系も全てドライバーに向いてセットされており、パーフェクトな運転空間が生まれる。こうした優れたドライビング環境を構築した上で、先に記した自然に動くダイナミクスを構築したからこそ、マツダ3は異次元の走りを我々に感じさせるのだ。つまり優れた走りは、メカニズムの性能だけでなく、人間を中心に考えた運転環境を整えたことが大きく貢献している。それだけにマツダ3の走りは、楽しいと表現するより、これまでに未体験の気持ち良い走り、という表現が相応しい。もっとも帰路で試乗した北米仕様のセダンはオールシーズンタイヤを履いており、タイヤの柔らかさからかボディの上下動がやや気になったが…。ただそれでも走りのレベルはこのクラス随一といえる内容に違いないものだった。

いくつかのウィークポイント以外はCセグメントの頂点

 試乗を終えて印象をまとめると、今後改めてレポート予定のデザインや内外装のクオリティの高さに始まり、今回記した静粛性や乗り心地、街中と高速での乗り味の良さ、ワインディングでのハンドリングはパーフェクトといえる内容だ。だからこれら部分の評価は、Cセグメントの頂点にあるといえる。

 一方でウィークポイントはパワートレーン。2.0L M Hybridと2.5Lガソリンはともに真打とはいえないが、ライバル比で物足りないのは確か。最も今後、本命のスカイアクティブXや、販売面で主役だろう1.8Lディーゼルや通常の2.0Lガソリンなどを試すと印象は変わるだろう。驚くべきシャシーの実力の高さに釣り合う魅力的なパワートレーンを体感できるかどうかが、今後の評価の分かれ目となるはずだ。

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 またマツダコネクトのHMI(ヒューマンマシンインターフェイス)は新たに開発されて扱いやすくなったが、先進性ではやや物足りない。メーター内の液晶がコストの問題からセンター部分のみの表示は魅力に欠ける。ライバルの多くは最近、全面液晶を採用するが、マツダコネクトの液晶パネルはサイズも小さい。さらに最近は会話方式のHMIが登場しているだけに、それらと比べられる機能も欲しいところだ。純正の8スピーカーのオーディオシステムは目が覚めるほど素晴らしい音を出すのだから、先進性に関しても閃きを感じるようなものを期待したい。

 こんな具合でいくつかウィークポイントもあるが、オーバーオールでは間違いなく驚きの仕上がり。マツダが今までコツコツと積み上げた価値観と世界観が、ついに世界のベンチマークを凌駕しそうな領域に到達したといえる。もちろん、まだ手放しで絶賛はできないが、日本での発表および試乗や本命スカイアクティブXの評価次第では、少なくとも現行のVWゴルフ7超えは可能なはず。もっとも王者VWゴルフは間もなく8世代目となる新型が登場するはずで、さらに激しい戦いとなることが予測されるが。

 しかしマツダは最近、事あるごとにブラッシュアップして商品性を高める術も身につけた。そう考えると今後がますます楽しみだし、マツダ3がクラスのベンチマークとなる可能性は大いにある。そんな期待を抱くほどの高い完成度を、今回新型マツダ3を試して感じたのだ。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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