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日本人GKは世界に通用しないのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
アジアカップでゴールを守ったGK権田修一は、ポルトガル挑戦へ(写真:松尾/アフロスポーツ)

「GKだけでも、帰化させられないのか?」

 かつて日本代表を率いたヴァイッド・ハリルホジッチは就任当時、関係者にそう相談を持ちかけたという。JリーグのGKには心外だろうが、その手の意見の持ち主はハリルホジッチだけではない。アルベルト・ザッケローニも、ハビエル・アギーレも、あるいは日本に来たヨーロッパの監督たちも、JリーグのGKに厳しい評価を与えている。

 その批評については、真摯に向き合う必要があるだろう。

 では、日本人GKは世界で通用しないのか?

海外のクラブで戦い抜く川島

 南アフリカW杯、ブラジルW杯、そしてロシアW杯と3度のW杯でゴールマウスを守った川島永嗣は、世界を舞台にその力を示した日本人GKと言えるだろう。

 川島はベルギー、スコットランド、そしてフランスのトップリーグのクラブを渡り歩いて9シーズン目。今シーズンはストラスブールで出場機会に恵まれていないが、昨シーズンはメスでレギュラーとしてゴールマウスを守っている。これは簡単なことではない。

 日本サッカー史上最高のGKは? その議論になったとき、必ず「楢崎正剛、川口能活のいずれか」という意見が大勢を占める。楢崎の総合力はそれに値するし、川口のパフォーマンスは鮮烈だった。

 しかし海外のクラブで戦い抜いた点において、日本人GK川島の実績は他の追随を許さない。

川島のアドバンテージ

 川島は英語、イタリア語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語など複数の言語を流暢に操り、コミュニケーション能力が高い。味方ディフェンスを手足のように動かす言葉の力を持つことで、海外でもポジションをつかめた。多くの日本人GKがこのボーダーを超えられない。GKはディフェンスとの呼吸を合わせ、シュートコースを極力消すことによって、セービングを生み出しているのだ。

 二度のW杯ベスト16のGKになった点でも、そのゴールキーピングは日本人歴代屈指だろう。ロシアW杯では、コロンビア戦、ベルギー戦の失点で批判を浴びたが、情状酌量の余地はあった。ミスをしたあとのリカバリーは傑出し、必ず1失点を防ぐようなセービングを披露。改めて、メンタルコントロールで一流GKの証を見せつけた。

 その川島だが、実は十代からゴールを守り続けているわけではない。18歳から24歳になるまでの6シーズン、リーグ戦はJ2で41試合、J1で17試合に出場したのみ。2007年シーズン、24歳からJ1で定位置をつかんでいる。それを契機に代表メンバーに選出され、めきめき頭角を現すことになった。そして2010年W杯で代表GKとして出場し、その後、欧州挑戦に踏み出した。

 一つ言えるのは、GKにとって出場機会ほど大事なものはない、ということだ。

 逆説すれば、埋もれている日本人GKがいると言うことかもしれない。

Jリーグにも逸材GKはいる

「ダイ(前川黛也)は試合に出てプレーする機会がなかった。素晴らしい能力を持っている。プレーすることで、もっと良いGKになる。楽しみな才能だ」

 ヴィッセル神戸を率いるファンマ・リージョ監督は、若手GKの前川のポテンシャルを高く評価していた。事実、昨シーズンの終盤戦では韓国代表GKキム・スンギュをベンチに置いて、リーグ戦出場経験のなかった前川を先発に起用。リージョも多くの外国人監督と同じように、GKに関しては人材難に頭を抱えていたが、灯台もと暗しだったか。

 日本人GKの能力が低いのではない。経験が足りない一面があるのだ。

 ロシアW杯のセカンドGKだった中村航輔も、試合出場が転機になった一人と言えるだろう。ユース年代では史上最高の逸材と言われていたが、J1の柏レイソルでは第3GKに甘んじ、定位置を奪うには至っていない。

 2015年、20歳のときだった。新天地として求めたJ2アビスパ福岡で、神懸かったセービングを見せ、昇格の原動力になっている。この1年で、中村はプロGKとして成熟した。その後は柏に戻って、レギュラーGKとして獅子奮迅の働きを示し、2017年シーズンにはベストイレブンに選ばれている。わずか3年で、「Jリーグ最高GK」の称号を得たのだ。

GKは試合で成長する

 GKは出場機会を得られるようなプレーを示す必要がある。しかし、試合に出ない限りは成長するのも難しい。たった一つのポジションで、交代もほとんどないため、GKはその矛盾を抱える。

 そこで、「GKの潜在能力を見抜けるか」という起用する側の力量も求められるのだろう。あるいは見抜いて、積極的に起用できるか。そこには必ずリスクが伴う。

 例えばスペインの守護神イケル・カシージャスは、十代でレアル・マドリーのゴールマウスを守っている。当時、実力的には波が激しかったが、そのセンスと将来性が買われた形だった。そしてプレーする中で、自信を身につけ、技術を改善し、神懸かったセービングを見せるようになったのだ。

 日本人GKもきっかけさえ、つかむことができれば――。今年1月には、柏レイソルのGK小久保玲央ブライアン(18歳)がポルトガル1部リーグの強豪、ベンフィカに移籍するというニュースが出た。2018年に参加したアルカスUー17カップで、トッテナム、レアル・マドリー、ベンフィカを破る立役者になって、注目を浴びたという。

 そしてアジアカップで日本のゴールを守った権田修一は、ポルトガル1部リーグ、ポルティモネンセへの移籍を決めた。厳しい挑戦になるだろう。しかし、そこで道を切り拓くことができたら――。

 能力的に、日本人GKが著しく劣っていることはない。試合に打って出て強敵と戦い、それを乗り越え、正しい評価を与えられたら――。日本人GKも世界と対峙できるはずだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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