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がん患者さんを励ましたい。そんな時にかけるべき言葉とは?

大須賀覚がん研究者
(写真:イメージマート)

あなたの大切なご家族やご友人が、もしがんと診断されたら、あなたはその人を励ましてあげたいと、何か言葉をかけられないかと考えるかもしれません。

でも、どんな言葉をかけたら良いのか?と悩む方は多いかと思います。難しい状況にある患者さんに、安易な言葉をかけて、逆に傷つけてしまうことも心配されるかもしれません。

深刻な病気になられた患者さんへの言葉は難しいです。私自身もがんに関わる医師・研究者として、多くのがん患者さんに関わってきましたが、私でもかける言葉選びはとても難しいと感じてきました。

Xで行った患者への調査

世間的にはこんな言葉が良い、こんな言葉は悪いと言われているものがあったりします。また、教科書的にはこんな言葉が良いと、がん患者さんとのコミュニケーションの本には書かれています。しかし、本当にそれが答えなのかはよくわかりません。そもそも、答えなどあるのかもわかりません。

この疑問に答えを求めるには、実際の患者さんのご意見を聞くのが一番ではと思い、私はX(旧Twitter)で直接に問いかけることにしました。

この書き込みに対しては、多数のがん患者さんがご協力をしてくれまして、コメントとリプライも含めると180個を超えるご意見をいただきました。ご協力に心から感謝いたします。

私の方でこの貴重なご意見を分析しまして、がん患者さんが嬉しいと感じる言葉はどのようなものかを検討してみました。

がん患者さんが嬉しいと感じる言葉とは

まず、がん患者さんがかけてもらって嬉しいと思った言葉には、何らかのタイプに分類できるのではと考え、その分析をしたところ主に7つのタイプがあることがわかりました。それをランキングにして、それぞれの特徴と、言葉の例を示します。

1) 寄り添いの言葉(39人)

例:「一緒に頑張ろう」「そばにいるからね」「応援してるよ」「一緒に乗り越えるよ」「一人じゃないよ」「なんかあったら、別に何もなくても、いつでも電話して」

患者さんは病気に動揺して、多くの不安を感じています。その時に、寄り添う言葉を伝えることは、患者さんに孤独感を感じさせず、強い支えとなると思います。寄り添いの言葉を嬉しいとあげたがん患者さんが最も多かったです。

2) 前向きな励ましの言葉(34人)

例:「きっと大丈夫」「治ったら一緒に○○しよう」「大丈夫、向いてる方が前だから」「さっさと治して〇〇するぞ」

励ましの言葉や、前向きな思いにさせる言葉が、とても嬉しかったという患者さんがとても多かったです。きっと、患者さんに希望を与えるのだと思います。

3) 日常の会話(23人)

例:「今日は暑いね」「おはよう」「この本面白かったよ」「あのね、今日職場でね…(以下いつもの仕事の愚痴)」

患者さんは突然の入院や治療で、日常生活や社会から離れてしまっていることがとても心配になります。何気ない日常の会話が、社会と繋がっているというのを感じさせて、安心感を与えるのかもしれません。また、離れたところにいても、思ってくれている人がいるのを感じるのも嬉しいことなのだと思います。

4) 患者さんの努力や選択を賞賛する言葉(22人)

例:「よく乗り越えたね」「あなたは強いね」「よく頑張ったね」「頑張らなくていいよー、十分頑張ってるんだから」「弱音吐いていいよ。よく頑張ってる。」「出来ることをやってくれればそれだけでいいんだよ」「あなたの選択は間違ってないよ」「それは本当に辛かったね、大変だったね」「お前は凄い」

患者さんは辛い思いをしつつ頑張っています。そのことを認めてくれる言葉や、賞賛する言葉が患者さんを支えてくれるのだと思います。

5) 具体的な助けを申し出る言葉(18人)

例:「買い物に行くけど、何か必要なものある?」「病院への送迎をするよ」「退院の日迎えに行くわ!」「「できることがあれば言ってね」ではなく「○○するよ!」」

具体的な提案は、患者さんの実際の肉体的・精神的な負担を軽減し、貴重なサポートになっているのだと思います。

6) 医療者からの前向きな言葉(18人)

例:「一緒に頑張りましょう」「本当によく頑張られましたね」

「笑顔でこの病院を退院してもらいたいと思っています。一緒に頑張りましょう。」「悪い所全部取ったからね。もう大丈夫!」

医療者からの言葉は、患者さんに大きな安心感と希望を与えるのだと思います。特に治療の節目(手術など)でかけられた言葉を嬉しかったとあげる方が多かったです。

7) 仕事への復帰を支えようとする言葉(10人)

例:「治療終わったらまた一緒に仕事しよう!」「いつでも戻って来て。」

患者さんは仕事から離れて、もう仕事に復帰できないのではと不安になります。職場の人からの、復帰を支えようとする言葉は、患者さんに安心感と将来への希望を与えるのだと思います。

誰からの言葉が印象に残っているか

患者さんからいただいたご意見の中で、誰からその言葉を言われたかが書かれたものを集計して、誰からかけてもらった言葉が嬉しかったのかを分析しました。その結果によると、以下の人々からの言葉が特に印象に残ったようでした。

1. 友人・知人(約56人が言及)

2. 医師(約32人が言及)

3. 職場の同僚や上司(約19人が言及)

4. 家族(約18人が言及)

5. 看護師(約11人が言及)

6. 他の患者さん(約5人が言及)

7. SNSのフォロワー・友達(約3人が言及)

これらの結果からわかったのは、意外にも家族よりも、友人や知人に言われた言葉が強く印象に残っているようでした。また、医師や看護師からかけてもらう言葉も患者さんには大きな支えとなっているということがわかりました。

職場の同僚や上司からかけてもらった言葉も多くが印象に残っていることがわかりました。このことからは、がん患者さんが家族のみでなく、多くの友人や同僚にも助けてられているということがわかりました。素晴らしいですね。

私はもっと多いかと思っていたが、あまり多くはなかったのは他の患者さんからの言葉でした。これは同じように苦しい立場にある人の言葉は支えにもなるのかなと思いましたが、やはり急に病院で知り合った人よりも、以前から知っていた深い友人の言葉が大きな影響力を持っているのではと思いました。

周囲からの言葉が救いとなった場面とは

あと、どのような場面でかけてもらった言葉が印象に残っているのかも調べました。

1. 治療中(抗がん剤など)(約20人が言及)

2. 診断時や告知直後(約15人が言及)

3. 治療開始前や治療方針決定時(約12人が言及)

4. 手術直後(約10人が言及)

5. 退院時(約8人が言及)

6. 治療後の日常生活や職場復帰時(約15人が言及)

これらの結果から、何らかの大きな出来事が起こった際や、生活状況が変わる際などの、精神的・身体的に負担の大きい時期にかけてもらった言葉が大きな助けとなっていることがわかりました。これらの時期の辛い時にこそ、患者さんに何かの言葉をかけてあげることが助けになるのだと思います。

ユニークな言葉かけも

印象に残っているという言葉の中には、とてもユニークな言葉もありました。いくつかあげさせてもらいます。

- 「サクッと取れば治る治る」

- 「あなたが死ぬはずない。殺しても死なない」

- 「これからも一緒に年取ってかわいいおばあちゃんになろ!」

- 「新年早々、腹をあけましておめでとうかい!めでたく終わるわそれ」

- 「夜中2時でも4時でも辛い時電話して」

- 「さっさと会社戻って来なよ!!先ずは決起飲み会じゃあ」

- 「状況を受け入れて、低空飛行で生きろ。」

- 「「なにかして欲しいことがあったら言ってね」だと絶対遠慮して言ってこないだろうから、お節介するよ。」

- 医師から「癌だけにがんばろー」って言われ、笑いに変えられ良かった

- 五年生存率5%という数字を悲観的に捉えていたら友人が、「その100人中の5人になればいいだけじゃん!」

ユーモアを交えたものもあり、時にそんな言葉をかけても大丈夫なのかなと、こちらが心配になりそうなのもありました。でも、それが嬉しかったというのは、おそらく二人の関係はとても深くて、その中で生まれる言葉だからこそ、特別な意味があったのかなと感じました。

受け止め方が異なる言葉に注意

今回の調査でとても興味深かったのは、全く同じ言葉なのに、それがとても嬉しいと思った患者さんもいれば、逆にそれが嬉しくないと思った患者さんもいたことでした。患者さんによって捉え方が異なるケースが多々あることがわかりました。

例えば

「頑張って」

は励みになって嬉しかったという人が多数いましたが、逆にプレッシャーを感じたとか、無責任に感じて辛かったという方もいました。

「大丈夫」

という言葉も、安心感を得られて嬉しかったと語る人も多くいましたが、現状を軽視されていると感じて嬉しくなかったという方もいました。

「元気そう」

という言葉も、前向きになれて嬉しかったという人もいれば、内面の苦しみを理解してくれていないと感じる人もいました。

これらの違いは、個々の患者さんの性格、状況、心境によって変わるのだなと感じました。それに最も大事だと思うのは、言葉をかける相手との関係だと思います。普段からよく知っている親しい友人に「大丈夫」と心の底から言われれば嬉しいですが、よく知らない人に言われると、私のことを何を知っているのとなって、あまり嬉しくはないのかもしれません。

コミュニケーションや言葉は、人と人との関係があって、はじめて意味のあるものとなります。やはり型通りにこの言葉をかければ良いなどとは考えずに、相手のことをよく知って、その人のおかれている状況も知って、相手の反応を見ながら言葉を選ぶことが重要なのだと思います。また、「もし嫌だったら言ってね」など、相手の気持ちを確認する一言を添えるのも良いでしょう。

もちろん、簡単ではないのですが、あなたが大事な人を何か助けられないかと思いかける言葉は、きっと伝わるのではと思います。

自分の心もケアするのを忘れずに

今回、がん患者さんにかける言葉について考えてきました。しかし、最後にとても大事なことをお伝えします。それはあなた自身の心にも注意を払ってくださいということです。周囲の大事な人が病気だと診断されれば、もちろんあなたもショックを受けます。また、さらにがん患者さんと対話をすることは、時にあなた自身も受け止めきれない心のショックを受けてしまうことがあります。

何かしてあげたいという気持ちはとても大事ですが、決して無理はしないでください。

自分の心も苦しくなってしまうということであれば、直接に患者さんに話すことはさけて、手紙やお見舞いを送るなどの他の手段で、ちょっと距離を置いてサポートするのでも全く構いません。

あなた自身の心をケアするのも忘れないで欲しいということをお伝えしておきます。

また、あなた自身がとても精神的にまいってしまう時には、そのことをがん相談支援センターで相談することもできます。全国のがん拠点病院にあるがん相談支援センターはがん患者さんのみでなく、その家族や友人も相談することが可能です。もし、悩むことがあれば相談されてみると良いかと思います。

まとめ

実際の患者さんに伺ったことから、あなたの大切な人がもしがんになったら、以下のようなことに気をつけて言葉をかけてあげることが良いのかもしれません。

1. 寄り添う姿勢を示し、助けになるよという気持ちを伝える

2. 前向きで肯定的な言葉をかける。患者さんの思いへの配慮は忘れずに

3. いつものように接する。日常の出来事を伝えたりする

4. 患者さんの頑張りを賞賛してあげる

5. 何か具体的な助けをすることを申し出るが、迷惑にならないよう配慮する

6. 職場の同僚は、患者さんの社会復帰を手助けする言葉をかけてあげる

7. 自分の心の負担には注意をして、決して無理はしないようにする

コミュニケーションは難しいですよね。一つの答えなんてないものです。私が今回あげたものも、誰がどの場面で誰に言うかで変わってくると思います。

たしかに難しいことではあるのですが、ただ今回の調査でわかったように、言葉は患者さんの大きな助けとなっています。あなたも何か困ったご友人を助けたいと思っておられるようでしたら、今回のをヒントに、何かかけられる言葉がないかと考えてみてもらうと良いのかもしれません。あなたが心から思って出した言葉はきっと伝わるのではと思います。頑張ってください。今回の記事が何かのヒントになってくれれば幸いです。

*実際の患者さんからのコメントはこちらのリンクから見られますので、ご興味ある方は詳しく見てみてください。

がん研究者

がん研究者 / アラバマ大学バーミンハム校助教授。筑波大学医学専門学群卒。卒後は脳神経外科医として、主に悪性脳腫瘍の治療に従事。患者と向き合う日々の中で、現行治療の限界に直面して、患者を救える新薬開発をしたいとがん研究者に転向。現在は米国で研究を続ける。近年、日本で不正確ながん情報が広がっている現状を危惧して、がんを正しく理解してもらおうと、情報発信活動も積極的に行っている。Twitter (フォロワー4万人)。著書に「世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療」(ダイヤモンド社、勝俣範之氏・津川友介氏と共著)。わかりやすくて、温かい、がん情報を発信していきます。

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