がん患者さんの新型コロナワクチン接種について
新型コロナワクチンの接種が日本でも本格化してきました。これから接種を予定しているがん患者もいるかと思います。
一般の人向けのワクチンの効果・安全性の情報はよく見られるようになってきましたが、がん患者に特化した情報はあまりなく、不安になっている患者さんもいらっしゃるかと思います。
そこで、本記事では、がん患者さんへのワクチン接種について、現時点(2021年5月15日)でわかっている効果・副反応・注意点をまとめました。(※本記事では日本での接種が現在行われているファイザーワクチンを中心に解説しています)
接種は積極的に検討すべき
がん患者さんはワクチン接種をするべきかの結論から述べたいと思います。
現時点で判明しているデータを見る限りでは、がん患者さんはワクチン接種を積極的に検討すべきです。
国際機関/各国の政府機関/がんの主要学会の見解は一致していて、どこも積極的な接種を推奨しています。
その理由は、
・がん患者は新型コロナ重症化のリスクが高い
・ワクチン接種で感染・重症化の予防効果を期待できる
・ワクチンはがん患者にも安全に使用できる
からです。
以下で詳しく解説していきます。
重症化リスクが高い
がん患者さんは病気や治療に伴って、新型コロナ感染から体を防ぐ免疫機能が低下していることがあって、健常者に比べて重症化リスクが高いと言われています(米国CDC)。また、がん患者さんは高齢であったり、その他の持病を抱えている方も多く、その点でも重症化の危険が高いと考えられます。
そのため、ワクチン接種で感染・重症化を防ぐことが重要だと考えられています。
現在治療中の患者さんが要注意
がん患者と言っても、様々な状態の人がいます。がんの進行度合いも、受けている治療も、本人の症状もかなり違います。そのため、全員を一括りで解説すると誤解を招くかもしれません。
どのようながん患者さんが一般の人とは違うのか、どのような方は一般の人と同じ注意で良いのかについてまず説明します。
すでに治療が終了しているサバイバーや、現在は積極的治療をしていない経過観察中の患者さんは、一般の方にかなり近いと思ってもらって構いません。
要注意なのは、現在積極的ながん治療を受けていて、特に免疫低下(白血球減少)が起こる可能性のある患者さんです。それらの患者さんは重症化リスクが高いことに加えて、ワクチンの効果や副反応が変わる可能性があります。なぜかというと、ワクチンは免疫反応を起こすことで効果を得るためです。
抗がん剤などの治療を現在受けている、もしくは今後予定しているという患者さんに、今回解説する内容を特に知っておいてもらいたいです。
ワクチンの副反応について
まず、皆さんが最も心配される副反応についてです。副反応とはワクチン接種で引き起こされる困った症状のことを言います。
ファイザーワクチンが一般の人に起こす副反応は、
などです。まれな頻度でアナフィラキシー(急性のアレルギー反応)が発生します。詳細はこちらです。
では、がん患者さんではどうかです。
先ほども説明したように、状態が安定していて、治療を積極的には受けていない患者さんはほぼ一般の人と同様と思ってもらって構いません。
次に、治療中のがん患者さんの副反応について、現時点で出ているデータを見てみましょう。治療前もしくは後に、ファイザー社製のmRNAワクチンを接種した場合の、副反応についてまとめた論文(Monin L, et.al., Lancet Oncol. 2021)が出ています。
この結果では、がん患者さんに特有な重篤な副作用は見られていません。
ワクチン接種後に一時的に出る接種部位の痛みや、発熱・関節痛などの風邪様症状については、がん患者の方が逆に頻度が低いという結果も報告しています。これは免疫低下によって、ワクチンに対しての免疫反応が弱いためと推察されます。
他には、免疫の状態を大きく変える可能性のある免疫チェックポイント阻害剤というのを使っているがん患者さんでの検討も出ています(Waissengrin B, et.al., Lancet Oncol. 2021)。これでも重篤な副作用は見られないこと、副反応は一般の人と比べて、ちょっと筋肉痛が多い程度で、大きな違いはなかったことを示しています。
まだまだデータが少ないので、引き続き注意をしてみていく必要はありますが、現時点ではファイザー社のmRNAワクチンは、治療中のがん患者さんでも安全に使えると考えられます。
ワクチンの効果について
次にワクチンの効果についてです。ワクチンは接種することで、免疫反応を起こして、体にウイルスへの対応を覚えさせて、本当のウイルス感染を防ぐというものです。そのため、ワクチンが効くためには、ワクチン接種で免疫反応がちゃんと起こることが重要になります。そこで、問題になるのが、がん患者さんの免疫低下です。
現時点のデータでわかっていることとしては、がん患者さんでも効果は得られるが、免疫低下がある場合には効果が減弱する可能性があります。
がんの病状によって、もしくは抗がん剤治療やステロイド投与などに伴って、免疫低下が起こっている場合には、ワクチン接種後に十分な免疫反応が起こらず、効果が低下することが危惧されています。
少数例での検討結果も出始めています(Monin L, et.al., Lancet Oncol. 2021)。治療中のがん患者さんにファイザー社製のワクチンを接種した場合では、1回接種だけだと、がん患者(血液がん以外)では30%、血液がん患者では11%にしか免疫応答が得られなかったことを報告しています。これは健常者の場合の86%と比べてかなり低いものでした。ただ、2回ワクチン接種をした場合には、がん患者(血液がん以外)で95%、血液がん患者で60%の免疫応答を得られたと報告しています。
これは少数例での検討ですので、今後の追加検討が必要ですが、治療中のがん患者でも2回接種をすれば免疫を得られる可能性があること、しかし血液がん患者や一部の患者さんでは得られる免疫が低下してしまう可能性があることがわかりました。この免疫応答の変化が、実際の感染予防効果にどのくらいの影響を与えるかはまだわかっていませんが、予防効果を低下させることが推察されます。
がん患者さんでもワクチンの効果を得られるが、免疫の状況によっては、効果が従来よりも低下する可能性があると言えます。
最適な接種のタイミング
基本的にはできるだけ早めの接種を検討してください。また、しっかりとした効果を得るために、2回の接種をちゃんと受けてもらいたいです。
全身状態が悪い患者さんや、免疫低下をきたす治療を受けているか、これから予定している方は、ワクチンの効果を減弱させないために最適な接種のタイミングを、主治医と相談できると良いかと思います。抗がん剤治療の前や、治療後の免疫機能が回復する時期に接種できれば理想的です。
ただ、がん治療を円滑に進めることも大切ですし、ワクチン接種日を柔軟性を持って決められるかはまだ不透明な状況ですので、難しければできるだけ早めに打つということを考えてもらいたいです。可能であれば、主治医の言う最適なタイミングに合わせるというのを検討してください。タイミングが完璧でなくても、一定の効果は得られると予想されますので、まずは早めの接種をご検討いただければと思います。
接種後の感染対策について
一般の人向けの案内にもあるように、ワクチンの効果が出るまでにはタイムラグがあります。2回目のワクチン接種後1-2週間が経たないと、十分な感染予防効果は出ません。また、その期間が過ぎても、100%かからなくなるわけではありません。
特に、治療中のがん患者さんの場合には、効果が不十分になってしまう恐れがあるため、感染予防の徹底は引き続き行ってもらう必要があると思います。接種後も、手洗い・マスクによる予防・三密回避などは引き続き行ってください。
接種後は以前よりは感染・重症化が抑えられていると思って、少し安心してもらって良いのですが、安心しすぎないようにご注意ください。
今回はがん患者さんの新型コロナワクチン接種の注意点を解説いたしました。現時点でわかっていることとしては、がん患者さんでもファイザー社製のワクチンは安全に打てて、一定の効果が得られることが期待されます。重症化の危険が高いがん患者には十分なベネフィットが期待できると思われますので、副反応のことも十分に理解をした上で、接種を積極的に検討してもらいたいと思っています。
ワクチンについてより知りたい方は、以下の情報もご参考になさってください。
<ワクチン全般>
坂本昌彦先生「GW明けから接種が本格化!新型コロナワクチンを正しく知ろう」
<がん患者さんへのワクチン接種について>
日本癌治療学会・日本癌学会・日本臨床腫瘍学会の3学会合同「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とがん診療についてQ&A」