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失語症ってどんな病気?

木村俊運脳外科医
(提供:イメージマート)

僕も大好きな俳優が失語症で引退されるというニュースがありました。

失語症というのはどういう症状でしょうか?

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「言葉を使ってコミュニケーションを取れる」というのは、人間の大きな特徴の一つです。

言葉があるおかげで、われわれは自分が考えていることを他の人に伝えたり、あるいは他の人や様々なメディアから情報を得ることができるわけです。

この情報のやりとりに用いる「言葉」が、何らかの形で上手く使えなくなるのが失語症です。そして、想像に難くないと思いますが、この失語症は「脳」の問題で起こります。

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言語だけでなく、手足を動かすとか、表情を作るというはたらきも、脳が担当していますが、それぞれの機能は、脳の比較的狭い場所に集まっています。

特に言語については、昔からよく調べられており、右利きの人では99.5%の方で、左脳に言語の機能があると言われています。(左利きの方ででも、50-60%の方で左脳に言語の機能があるようです。)

左脳の中でも、聴いて理解する部分は側頭葉と呼ばれる部分、考えたことを言葉として表現する部分は前頭葉という部分に機能が集中しており、言語中枢と呼ばれます。

(なぜ、MRIやCTのない昔から、このようなことが分かったかというと、そのような症状を持っている方が亡くなった後に解剖すると、側頭葉や前頭葉の部分に傷が付いているのが分かったからです。現在では、MRIを使った検査などで、脳のどの部分が言語のどういうはたらきを担当しているか研究されています。)

そして、病気などによって左の脳がダメージを受けると、言葉にかかわるトラブル・障害が発生します。

つまり、脳梗塞や、ケガによる脳挫傷、脳腫瘍などによって、この言語中枢のはたらきが妨げられるのです。

失語症ではどのような状態になるの?

言語中枢がダメージを受けると、全く言葉を失ってしまうのでしょうか?

実際に、心臓に近い、太い血管が詰まって起こる脳梗塞などの場合には、言語による理解も、しゃべることも全く出来なくなってしまうことがあります(全失語)。

一方、比較的細い血管が詰まった場合や、脳挫傷でも範囲が狭い場合には、言語機能の一部だけが、うまくはたらかないということもあります。

全失語の方は別として、部分的に言語機能が低下した方については、その症状は千差万別です。

「他の人が言っていることは全て分かっているけど、まったく言葉が出ない」、あるいは「スムーズにしゃべれないだけ」という場合もあれば、「しゃべってはいるけれど、周りが言っている内容を全く理解していない」ような場合もあります。

ご本人にとっては、知らない外国語が使われる世界に放り込まれたような感覚で、それが多少知っている言語だと、「今のはxxという意味かな?」くらいの理解ができることがあるようなものです。

もちろん、発音から挨拶まで全く分からない言語もあることを考えれば、失語症になった世界がどのようなものか想像できるかもしれません。

外から見ると、こちらが言っていることも分からなければ、話している内容も意味不明だったりするのですが、外国語の例えのように、失語症になった人では認知機能が低下している訳ではありません。

むしろ、認知力が保たれているので、「どうして周りの人達は、オレの言っていることが分からないのだ!」と、自分の意図、希望が伝わらないことによるストレス・フラストレーションをため込むことになることが多いと言われています。

どうやって治療するの?

良性腫瘍によって、このような失語症になっていれば、腫瘍を摘出すれば完全に良くなることもありますが、脳梗塞や脳挫傷など多くの場合は、言語を担っていた神経細胞自体が傷ついているため、リハビリが必要になります。

もちろん、患者さんごとに失語の症状や程度が異なっているため、言語聴覚士という資格を持った専門のスタッフが、「どんなことはできて、どういうことができないか」「こちらの思っていることがどうやったら伝えられそうか」などを評価して、リハビリのプログラムを立て、回復具合を見ながらステップアップしていくという流れになります。

麻痺など、身体の他の部分のリハビリ同様に、軽い失語症であれば、日常生活がリハビリになって、普通に会話することで言語機能が元に近い状態に近づいていくということもしばしばあります。

現在はCOVID-19のために機会がないかもしれませんが、「病気前はとてもおしゃべりで毎日、井戸端会議していた」という方だと、そのおしゃべりがリハビリになって、医療者側からは全く症状が分からないまで回復するということもあります。

逆に、もともと寡黙で、人としゃべるのが嫌いという方の場合は、リハビリ病院などで一時的に良くなっても、退院したらどんどん言語の働きが衰えていくという方もいらっしゃいます。

つまり継続が非常に大事です。

どうやったら失語症にならずに済むのでしょう?

周りの人から見れば全く問題なく見えるようでも、ご本人にとっては「いや、元通りではありません。つらいです」ということもしばしばあります。

つまり全くの元通りには戻らない、ということなのかもしれません。

残念ながら脳腫瘍や、事故などによる脳挫傷で失語になることは防げません。

しかし、頻度として失語症の原因として最も多いのは脳卒中であり、ある程度、予防することが可能です。

特に若い方の場合には、健診で高血圧を指摘されていたのを放置していた結果、細い血管が破れて脳内出血を起こした、という経過の方がしばしばいらっしゃいます。

特に40代・50代で、脳内出血で失語症になる方は、独身もしくは単身赴任の男性が多いという報告があります。

仕事が忙しい年齢で、外食が多いこともあって塩分の取り過ぎだったり、孤独自体が影響しているという説もありますが、高血圧が続いているようであれば、とりあえず医療機関を受診して治療してほしいです。

余談ですが、高血圧で「降圧薬を飲み始めたら一生飲み続けなければならない」と思っていらっしゃる方がかなり多いと思います。

確かに、高血圧のほとんどはいわゆる生活習慣病なので、生活習慣を変えなければ、年齢を重ねるごとに動脈硬化も進んでさらに血圧が高くなり、薬も増える、ということになります。

しかし、食生活を変えるとか、こまめに運動する習慣を取り入れられれば、薬を減らせて、正常血圧に戻る方はかなりの割合でいます。

残念ながら、慣れ親しんだ生活習慣を変えるというのは容易ではありませんが、40代、50代を健康に過ごすというのは「別に長生きしたいわけではない」という方にとっても価値があるのではないでしょうか。

血圧のコントロールが大事なのはご高齢の方でも同様ですが、特に70代後半から80代以降にかけては、心房細動という不整脈が出る方が多くなってきます。

この心房細動では、心臓の中で血栓ができ、それが脳の血管まで流れていって大きい脳梗塞を起こします。比較的大きい梗塞になることが多く、しばしば失語症だけでなく半身麻痺などを伴います。

これについては以前に別の記事で書きましたが、血液を固まりにくくする薬でかなり防げるため、これも健診で指摘された場合には、医療機関で相談しましょう。

脳外科医

脳神経外科医。脳動脈瘤・良性腫瘍・バイパス手術・微小血管減圧術(顔面痙攣・三叉神経痛)など、微細操作が必用な手術が得意。日本赤十字社医療センター(渋谷)。

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