本当に怖い熱中症。脳は大丈夫か!?
うだるように暑い日が続いています。
メディアでは熱中症に注意するよう呼びかけていますが、熱中症ってどういう状態なのでしょうか?
暑さのせいで「卵がゆで卵になるような危険な状態」という意見も聞かれますが、実際のところどうなのでしょう?
(結論から言うと、きちんと対処しないと命に関わる病気です。暑さを避けて、こまめに水分を補給しましょう!!)
熱中症と熱射病
熱中症という病気の他に熱射病という言葉も知られてますが、違いはあるのでしょうか?
実は、熱中症は暑さによって生じる障害をまとめた呼び名で、熱射病はその一部です。つまり、次のような4つのタイプに分けられています(1)。
熱失神
炎天下にじっと立っていたときや、運動した後などに起こる、立ちくらみのような気が遠くなる感じ、めまい。
熱けいれん
汗には塩分も含まれていますので、汗をたくさんかくと、水は飲んでいても、からだの中の塩分が不足するため、筋肉が痙攣を起こすことがあります。
熱疲労
暑い環境で、汗をたくさんかくと、からだが脱水状態になり、しかも表面温度を下げるために皮膚の血管が広がった状態になっています。その結果、全身に十分な血液を送れなくなり、全身の脱力、だるい感じ、めまい、頭痛、吐き気などが起こります。
スポーツドリンクや点滴などで水分と塩分を補給する必要があります。
熱射病
体温が40度以上に上昇し、脳をはじめ、からだのさまざまな臓器に異常をきたす状態です。受け答えがおかしい状態から、悪化すると昏睡状態、生命に関わる状態になります。とにかく早く体温を下げる必要があります。
一方、救急車を呼ぶ方がよい、など実際に「どうすればいいか?」という点から、熱中症の重症具合で分類する方法があります。
つまり、意識や体温が正常で、自分で水分が飲める場合は軽症となり、涼しい場所に移動させてスポーツドリンクなどの水分をとらせ、症状が改善するかどうかを見ることが可能です。
反応が鈍かったり、言動がおかしかったり、自分で水分が飲めなかったりする場合には、中等症以上となるため、からだを冷やしつつ救急要請する方がよいでしょう(4)。
どういうときに起こりやすいの?
日本の多くの場所は、気温が高いことに加え、湿度も高いことから、熱中症の危険性が高いといえます。
熱中症は炎天下、長時間、屋外にいることで起こるように思われるかもしれませんが、照り返しが強い場所や、風が吹いていないところでは、皮膚温が下がりにくいため、やはり熱中症が起こりやすくなります。
また、屋内でも換気が悪く、蒸し暑い状態だと熱中症にかかることがあります。実際、熱中症で救急要請される場所の中で、住宅などの居住施設が37%と最も多くなっています(3)。
どういう人が熱中症を起こしやすいか?
1.高齢の方
メディアでよく言われているように、高齢の方では、もともと動脈硬化などの持病をかかえていたり、体温を調節する能力も落ちていたりします。さらに「のどが渇いている」という感覚も若い人と比べると鈍くなっており、脱水になりがちでもあるため、熱中症になる危険性が高いと言えます。
高齢の方に限りませんが、糖尿病を長く患っている方も、汗腺を開かせる自律神経のはたらきが落ちるため、熱中症を起こしやすいと言われています。
2.子供
子供は体重の割に、からだの表面積が広いため、熱を吸収しやすく、血液などの体液の量が少ないため、熱がからだにこもりやすく、脱水になりやすいです。
しかも小さい子供では汗腺の発達が十分でなく、汗をかくことによる体温調節能力も未熟です。
毎年、車の中などに放置された乳児や幼児の、いたましい事故が報道されますが、子供はとても熱に弱いのです。
3.元気に運動する人
元気な人は、高齢の方や子供とは異なる原因で熱中症になります。
つまり、スポーツや仕事で、炎天下など暑い環境で長時間、激しく活動することによって起こります。
からだを動かすことによって起こる熱が、体温を下げる能力を上回ってしまうのです。
当然、高齢な方と違って、のどが渇いているのも分かっているでしょうが、体温が上がるに従ってたくさん汗をかいていても、それが間に合わなくなるということです。
しかも、この若い方の身体活動による熱中症(熱射病)では、高齢の方よりも血液や肝臓・腎臓に悪影響を生じることが多く、やはり生命に関わることがあります(4)。
からだの中で何が起こっているの?
脳や神経は熱に弱いので、高体温の重症の熱中症になると、話がかみ合わなかったり、上手くしゃべれなかったり、場合によっては吐いたり痙攣を起こしたりすることもあります。
特に小脳という、後頭部にある、からだのバランスを取ったり、細かい運動を調整したりする部分の細胞が熱に弱いと言われています。
幸い適切な治療が間に合えば、後遺症として残ることは少ないですが、全く無いわけではありません。
この熱に弱い脳神経の症状に引き続き、腸やその他の臓器がうまくはたらかなくなって全身の具合が悪くなっていきます。
とにかく予防が大事
とにかく入院になるような熱中症が起こると、全身の臓器が影響を受け、命にかかわります。
ですので、予防が何より大事です!
現在のような気温が高いときには、可能であれば、あまり外出せず、エアコンの効いた屋内にいる方がよいでしょう。
とは言っても、まったく出かけずに済む方は少ないはず。
外出時には帽子や日傘を使う、日陰を歩くだけでも、直射日光を避けられるので、体温の上昇を抑える効果があります。
こまめな水分補給。
上記のように、汗をかくと、水分とともに塩分も失われています。塩味のあめをなめたり、水ではなく麦茶などで水分補給したりするのもよいでしょう。スポーツドリンクはミネラルも補えますが、糖分も多いため、飲み過ぎには注意が必要です。
高齢の方では、上記のように「のどが渇いた」という感覚が、どうしても低下しています。そのため、時間を決めてこまめに飲むことが大事です。
今から間に合うことではありませんが、ウォーキングやランニングで、普段から汗をかく習慣を身につけておくことも、体温調節の能力を維持するためには大事です。
体温が原因で「卵がゆで卵になるような」タンパク質の変化までは至らないものの、重症になると、からだを正常に保つメカニズムがダメになって、肝臓や腎臓には元には戻せないような変化が起こる。
熱中症はそういう怖い病気です。
こまめに水分を摂って、暑い夏を乗り切りましょう。
参照
1. 日本スポーツ協会スポーツ医・科学研究>熱中症を防ごう>熱中症の病型 https://www.japan-sports.or.jp/medicine/heatstroke/tabid913.html
2. 全日本病院協会 みんなの医療ガイド 熱中症についてhttps://www.ajha.or.jp/guide/23.html
3.厚生労働省大阪労働局 熱中症の症状と重症度分類
https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/anzen_eisei/hourei_seido/nettyuu_mokuji/syoujou.html
4. Epstein Y, Yanovich R. Heatstroke. N Engl J Med. 2019 Jun 20;380(25):2449-2459. doi: 10.1056/NEJMra1810762. PMID: 31216400.