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ホークス160キロ左腕が覚醒なるか、工藤監督ら首脳陣が与えた助言とは

田尻耕太郎スポーツライター
工藤監督(左)と古谷

160キロ「幻です」と言ってみたものの・・・

「3年目、自分の中では悔しさしかない。成長できなかった一年でした」

 福岡ソフトバンクホークスの20歳左腕、古谷優人は文字どおり唇をかんで、呟くような声で話した。

 ドラフト2位という高評価で入団しながら、3年間一軍登板はゼロに終わった。10日の契約更改ではダウン提示に黙ってサインをした。「自分の課題が全く克服できなかった」。ボールを思うように操れなかった。

 古谷の魅力はなんといってもストレートの速さだ。5月の香川オリーブガイナーズとの三軍戦で、日本人左腕では史上最速の160キロを叩き出した。だが、プロ野球の世界ではどんな球速自慢でも、どれだけ変化球が切れようとも、コントロールがいの一番に重視される。制球力のない投手は勝負にならない。

「何一つ成長できなかった」

 シーズンが進んだ頃、古谷は160キロの話題を振られると「あれは幻です」と敢えて距離を置いた。コントロール、コントロール・・・。課題というより、それは悩みだった。

「速い球を投げても思ったところに投げられなければ意味がない。スピードを抑えて投げようとも考えました。だけど、秋のキャンプで(今オフからファーム投手統括コーチに転任した)倉野コーチに言われたんです。『フォアボールをゼロにすることは出来ない。147キロでフォアボールを出すオマエに魅力はあるのか。それで通用するのか。思いっきり腕を振って155キロでフォアボールなら相手も嫌がる。フォアボールを出しても失点しなければいいじゃないか』と。僕の中でラクになったというか、その言葉で開き直ることができました」

 ストライクゾーンに思いっきり腕を振って投げ込めばいいとシンプルに考えることにした。

どんぴしゃで投げたとき、一級品のボールが

 とはいえ、一方ではストライクさえ投げられれば一軍で通用するほど甘くもない。

 11日、ブルペンで投球練習を行っていた古谷のもとへ歩み寄ったのは工藤公康監督だった。声を掛け、身振り手振りでアドバイスをし、時には自ら手本を示した。

 上半身の無駄な力が抜け、右半身の開きを一瞬我慢出来て、どんぴしゃのタイミングで投げることが出来た時の右打者アウトコースへの真っ直ぐはまさしく一級品だった。威力も球の回転も素晴らしく捕手のミットへズドンと吸い込まれていった。

「もともと上半身に力が入り過ぎていて、工藤監督からボールを離すときに指で押し出すような使い方をしていると指摘をされました。『叩け』と。また、『いい投げ方をしていればコントロールは自然に身につく。今はバランスよく投げることが大切だよ』とも言われました」

 力まずに投げても、自分の感覚の中では威力のあるスピードボールが投げられていたという。いい投げ方で、思いっきり腕を振る。自分が何を目指すべきか、その方向が定まった。もう迷いは完全にない。

 今月下旬からは台湾で行われるウィンターリーグに参戦する。さっそく実戦の場で試すことが出来るのは古谷にとって大いにプラスだ。

 来季はヤフオクドーム、もとい「ペイペイドーム」のマウンドで異次元の豪速球を投げ込む古谷の姿が見られるかもしれない。とても楽しみだ。

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。「Number web」でのコラム連載のほかデイリースポーツ新聞社特約記者も務める。2024年、46歳でホークス取材歴23年に。 また、毎年1月には数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。

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