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「戦争反対」。勇気あるロシアのテレビ局員「兄弟殺しをやめろ」「プロパガンダを許した自分を恥じている」

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
「戦争反対」と掲げて声を出して訴えるマリナさん。Youtubeより筆者撮影。

「戦争反対。プロパガンダを信じないでください。あなたはここで騙されているのです」

事件が起こったのは、3月14日の夜。ロシア最強のテレビ局、ペルヴィー・カナル(Pervy Kanal)の、夕方のメインニュース番組「Vremia(時間)」でのことだった。

ソ連時代から、何百万人もの人が見ている番組だ。

有名な司会者であるエカテリーナ・アンドレーエワさんが話していると、彼女の後ろに「戦争反対(No War)」と書かれた看板を持った女性が現れて、何かを声に出して訴えた。「プロパガンダを信じないでください。あなたはここで騙されているのです」「ロシア人は戦争に反対です」。

ウクライナとロシアの国旗が描かれた看板には、このように書かれていた。

抗議者が「戦争反対」を唱えている間、司会者は平然と数秒間話し続け、その後、チャンネルは病院の報告を急ぎ伝え、生放送を終了させたという。フランス公共放送のサイトでAFP通信が伝えた。

抗議者の権利を守るNGOである「OVD-Info」は、この女性を同局の職員であるマリナ・オヴシアニコヴァ(Marina Ovsiannikova)さんと紹介し、彼女は逮捕され警察署に連行されたと述べた。

「事件」について、ペルヴィー・カナル局は、声明で「内部調査が実施されている」と述べた。タス通信によると、この若い女性は「ロシア軍使用の信用を失墜させた」罪で起訴される可能性があるという。

現在ロシアでは、最大15年の禁固刑の可能性がある。通りを歩いていても、警官に呼び止められて、携帯を見せなければならない風景は当たり前になっている。携帯のメッセージで反政府的なものがないか、チェックしているのだ。

NGOであるOVD-Infoが以前公開した録画ビデオ(上記)で、マリナ・オヴシアニコヴァさんは、父親がウクライナ人、母親がロシア人であると説明していた。

「残念ながら、私はここ数年ペルヴィー・カナル局の下で働き、クレムリンのためのプロパガンダを作ってきました。今ではとても恥ずかしいです」と言っている。「テレビで嘘を流すことを許したこと、ロシア国民を『ゾンビ化』させたことを恥じています」

ロシア当局は、ウクライナ侵攻に関するあらゆる情報を統制しようと、残っている独立系メディアのほとんどだけではなく、TwitterやFacebookなどの主要なソーシャルネットワークをブロックしている。

彼女は上記のビデオで、以下のように訴えている(全文)。

いまウクライナで起こっていることは、犯罪です。そしてロシアは攻撃者(侵略者)です。

そしてこの攻撃の責任は、たった一人の人物の考えにあります。その男はウラジーミル・プーチンです。

私の父はウクライナ人で、母はロシア人です。二人は決して敵ではありませんでした。

私が身につけているネックレスは、シンボルです。ロシアはすぐに兄弟殺し(同胞殺し)をやめなければいけないという印です。

そして、私たち兄弟のような人々は、まだ和解ができるでしょう。

残念なことに、私は近年1チャンネルで働いて、クレムリンのプロパガンダのために働いてきました。私はいま、それをとても恥じています。

私はこのような嘘を画面上で流すのを許したことを恥じています。ロシアの人々を「ゾンビ化」するままにしてしまったのを、恥じています。

2014年(訳注:クリミア侵攻の年)、私たちは沈黙を保ちました。これはすべての始まりにすぎませんでした。

クレムリンがナヴァリヌイ(訳注:反体制の政治家)に毒をもったとき、私たちは集会(デモ)に行きませんでした(報道しませんでした)。

私たちは黙って、この非人間的な体制を見ているだけだったのです。

そしていま、世界中が私たちに背を向けています。

これから10世代たっても、この兄弟殺しの戦争の恥をぬぐいさるには十分ではないでしょう。

私たちロシア人は、思慮があって頭がよくて、この狂気を終わらせるのは私たち次第なのです。

外に出て集会(デモ)に参加してください。何も恐れないで。彼らは、私たち全員を投獄するなんて不可能なのです。

この戦争をとめられるのは、ロシア人しかいない。まだ間に合うだろうか。

彼女は「まだ和解ができる」と言っている。しかし、ウクライナ人がロシア人を許せるとは思えないし、決別の道が揺らぐことは決してないだろう。それでも首都キエフ(キーウ)が陥落する前なら、もしかしたら、まだ間に合うかもしれない。

ロシア軍は兵站(補給)に苦労しているというが、ここ数日はめっきり攻撃の度合いが落ちて鈍っている。戦争が二週間も続いている疲れはあるだろうが、疲れを吹き飛ばす気力がない、やる気がない、士気がないのではないか、とも思わせる。

彼女の勇気は素晴らしい。釈放されるように何とかできないものか。

デモや署名活動があれば協力したい。

あるいは、彼女の勇気を称えている投稿や、釈放を訴えている投稿に「いいね」を押すだけでも、支援になるのではないだろうか。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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