甲子園4強決まる! どこが勝っても初優勝!
夏の甲子園は4強が決まった。抽選に左右されるとはいえ、大会前から優勝候補だった星稜(石川)、履正社(大阪)、明石商(兵庫)が持ち味を発揮して準決勝に残った。中京学院大中京(岐阜)は、それほど前評判が高かったわけではないが、終盤の驚異的な集中力で関東の強豪を連破し、堂々と勝ち上がっている。準決勝は、履正社-明石商、中京学院大中京-星稜の対戦で、20日9時のプレーボールだ。
打線好調の履正社
履正社(タイトル写真)は、大阪大会から打線が好調で、初戦で霞ヶ浦(茨城)の好投手・鈴木寛人(3年)に初回から本塁打攻勢であっさり攻略。続く津田学園(三重)の前佑囲斗(3年)からも3回までに6点を奪って早々と試合を決めた。3回戦では高岡商(富山)の変則右腕・荒井大地(3年)に立ち上がりこそ手こずったが、ふた回り目にとらえ、連打を浴びせた。準々決勝の関東一(東東京)には先制を許したが、じわじわ反撃し、投手交代機に逆転。エース・清水大成(3年)が、今大会2度目の完投で、ここまでの4試合、危ない場面は全くない。打線は1番の桃谷惟吹(いぶき=3年)が4試合すべてで初回に安打を放ち、活気づく。4番の井上広大(3年)が、17打数8安打11打点2本塁打と好機で勝負強さを発揮している。岡田龍生監督(58)も、「桃谷で勢いづいて、井上が4番の仕事をしてくれている」と理想的な得点パターンに目を細める。
心配された投手陣も、清水が調子を上げていて、関東一戦は、初回の3ラン以外はテンポよく低めに投げ、味方の反撃につなげた。同校の卒業生には、T-岡田(オリックス)、山田哲人(ヤクルト)らがいて、多くの一流選手がプロ球界で活躍している。センバツでは2度の準優勝があるものの、夏は初めての4強入り。大阪で2強を形成するライバル・大阪桐蔭には甲子園実績で大きく水をあけられていて、この夏の優勝で一歩でも近づきたいところだ。
接戦に強く、ブレない明石商
明石商は、手堅い野球で僅差試合に滅法強い。センバツに続いて4強に勝ち残り、実力を証明した。2回戦からの登場で日程運には恵まれたが、初戦は2年前の全国優勝校・花咲徳栄(埼玉)が相手で、4-3と競り勝ち、接戦で本領を発揮した。エース・中森俊介(2年)が苦しみながらも完投して強敵を破ったが、不動のエースがその後の2試合で先発を外れているのは気にかかる。2戦目の宇部鴻城(山口)との対戦では、左腕技巧派の杉戸理斗(3年)が先発し、初回に本塁打で2点を失ったが、その後は粘り強く投げ、10回を2失点完投した。終盤の8回には、三塁走者をスタートさせ、エンドランの形で追いつくなど、頭脳的な小技が冴える。狭間善徳監督(55)は、「うちにはいろいろな(攻撃の)引き出しがある」と胸を張り、「やるべきことは全部やってきた」と、豊富な練習量にも自信を持つ。昨夏の再戦となった八戸学院光星(青森)との準々決勝も杉戸が先発し、序盤から打線が援護したが中盤につかまり、昨年とよく似た打撃戦に。それでも7回のピンチで中森が救援に立って流れを引き寄せ、相手の暴投で挙げた1点を守り切って、7-6でリベンジした。中森は2回1/3を1安打無失点の37球で切り抜け、自己最速を2キロ更新する151キロをマークした。3試合すべてが1点差勝ちで、チームの形は崩れていないが、大黒柱・中森の状態が万全でないのか、3回戦では展開にかかわらず登板しないことになっていた。救援勝利した準々決勝後には、本人も「投げたくてうずうずしていた」と話していたが、「最後の2~3回でいく、と決めていた」と、狭間監督は当初から短いイニングの登板を予定していた。4番の安藤碧(3年)が、準々決勝でも本塁打を含む2安打4打点と当たっているが、中軸でも、あるいは1死からでも送りバントを敢行する。選手が狭間監督の野球を深く理解し、実践できるのが最大の強みで、ここ数年、強豪ひしめく兵庫では1強独走状態だ。卒業生の松本航投手が日体大からドラフト1位で西武入りし、早くも活躍している。
力勝負に持ち込みたい履正社
今チームでの対戦はなく、ここまでの戦い方に大きな違いがあることから、どちらが本来の形で試合を進められるかが勝敗の大きなポイントになる。まず、カギを握るのが明石商の投手起用だ。中森が無理させられない状態なら、ここ2戦のように、杉戸を先発させ、右腕の溝尾海陸(3年)や、3回戦で登板の可能性があった安藤らで、中盤まで履正社の攻撃に耐えるしかない。特に1番の桃谷は、必ずファーストストライクを強振してくるので注意が必要だ。履正社の岡田監督は、「狭間監督は作戦を駆使してくる」と警戒し、終盤まで競り合うと明石商の展開になる。履正社としては、力勝負に持ち込み、中盤までに引き離して逃げ切りたい。
終盤の逆転で勢いづく中京学院大中京
中京学院大中京は、初の4強入りで、勢いだけならこのチームがトップだろう。こちらも2回戦からの登場で、北照(南北海道)を4-3で破ると、劣勢が予想された東海大相模(神奈川)戦では、7回に一挙7得点のビッグイニングで9-4と、鮮やかに逆転勝ちした。北照戦でも7回に4点を奪って逆転していて、文字通りの「ラッキーセブン」だ。準々決勝では、作新学院(栃木)に初回の3ランで主導権を握られたが、先発の左腕・不後祐将(3年)が追加点を許さず、またも7回に反撃。1点差に迫ると、8回には、救援で力投していた7番・元謙太(げん・けんだい=2年)が逆転の満塁弾を放って、相模に続き関東の強豪に逆転勝ちした。投手陣は、不後が先発して中盤まで流れを作り、元や赤塚健利(3年)につなぐパターン。元は186センチ、赤塚は193センチで、不後と全く違った球筋の大型右腕。打線は、岐阜大会から急成長した小田康一郎(1年)が5番に座り、初戦から大活躍している。4番打者として3試合連続安打の藤田健斗捕手(3年=主将)が、守っても多彩な投手陣を巧みにリードし、U18日本代表候補の実力を発揮している。初戦を見る限り、このチームの快進撃を予想した人は少なかったと思うが、岐阜県内では無敵で、秋の東海大会でもセンバツ王者の東邦(愛知)と延長10回の激闘を演じていて、実力はかなりある。今大会では、相模との試合で爆発した7回の攻撃で完全に勢いづいた。終盤の集中打について橋本哲也監督(55)は、「(それまでの)凡打を生かす」と表現し、選手たちの対応力、修正能力の高さを褒めた。「楽しんでやろう、と言ってきたが、ここからは貪欲に頂点をめざしたい」と、指揮官も手応えを感じているようだ。卒業生には、ソフトバンクの松田宣浩らがいて、甲子園直後に、明石で行われる軟式の全国選手権では2連覇中。奇しくも準々決勝の相手・作新とは軟式の「全国2強」で、ともに優勝9回。硬式も負けじと、夢の初優勝へ期待は高まるばかりだ。
星稜は死闘を制し、翌日17得点
センバツでは優勝候補の一番手に推されながら2回戦で敗れた星稜は、苦しみながらも旭川大高(北北海道)、立命館宇治(京都)と連破し、智弁和歌山との3回戦に臨んだ。その結末、試合内容は読者もご存知と察するので、詳しくは述べないが、40年前の「箕島-星稜」の伝説の死闘に匹敵する、球史に残る試合であったと確信している。ルールによって、13回からタイブレークになり、14回のサヨナラ3ランで星稜が勝つことになるが、タイブレークがなければ、15回で引き分け再試合なっていたことは間違いない。それ以前のルールなら18回までいってもおかしくないくらい、点が入りそうな気配すらなかった。酷暑の中、星稜の奥川恭伸(3年)が、智弁を14回3安打で23奪三振なら、智弁も3投手が束になって星稜打線を抑え込んだ。こんな試合はめったに見られるものではない。この試合の録画をお持ちの方は、ぜひ、残しておいていただきたい。優勝校がどこになるかはわからないが、今大会はおろか、近年の高校野球で最もレベルの高い試合だった。この試合で165球を投げた奥川を温存して臨んだ準々決勝の仙台育英(宮城)戦では、智弁戦が嘘のように攻撃陣が発奮。
初スタメンの2番・今井秀輔(2年)が満塁弾を含む3安打7打点と大爆発すれば、同学年の主砲・内山壮真にも待望のアーチが飛び出し、2打席連続弾のおまけまでついた。結局、22安打17得点で、「2点差以内なら奥川投入も考えていた」という林和成監督(44)もびっくりの猛爆ぶりだった。半世紀近く「北陸の雄」として君臨する同校は、松井秀喜氏(元ヤンキースほか)を筆頭に多くの一流プロ選手を送り出し、球界に大きく貢献している。24年前に夏の準優勝はあるが、奥川という逸材を擁する今チームは最大のチャンス。智弁という大きなヤマを乗り越えたからには、石川勢悲願の初優勝しかない。
終盤勝負に持ち込みたい中京
準々決勝で完全休養だった奥川は、林監督が、「途中のキャッチボールでも違和感がないようだった」と話す通り、智弁戦の疲れが取れれば中2日で問題なく先発できそう。ただし、奥川といえども智弁戦のような超人的投球はできないだろう。特に中京は終盤に必ず力を発揮する。その傾向に力点を置くなら、準々決勝で先発した荻原吟哉(2年)や、左腕・寺沢孝多(3年)を先にマウンドへ送り、奥川を待機させる策もありか。奥川先発なら、途中で差がついても簡単にはベンチに戻せないため、最後まで試合に出ることになるだろう。中京は、「早めに手を打つ」という橋本監督の言葉通り、相手に流れがいく前に投手をつなぐ。星稜は、仙台育英戦のように投手交代機に畳みかけ、奥川の負担を軽くしたい。一方の中京は、得意の終盤勝負に持ち込むためにも、6回まで3点差以内で食らいつけるか。
どこが勝っても初の栄冠
いよいよ準決勝だが、4校すべてが春夏の甲子園優勝未経験校。どこが頂点に立っても初の栄冠となる。履正社、明石商、星稜は春夏連続出場で、大会前から有力視されていた。中京は、強豪に逆転勝ちで勢いに乗っていて、トーナメントではこういうチームが一番怖い。