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「学歴フィルター」を公表したらよい

山口浩駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部教授

ゆうちょ銀行が大学新卒採用においていわゆる「学歴フィルター」を設けているとして話題になっている件。

【炎上】ゆうちょ銀行が学歴フィルターを仕掛けていたことが判明!勇気ある学生が告発して大祭りに!!!!」(netgeek 2015年6月2日)

現在、就活まっただ中のSさんはずっとおかしいと思っていた。セミナーの予約が一向にできないのだ。そして学歴フィルターに引っかかっているのではないかと疑い、ある実験を行った結果、企業の卑怯すぎる採用手法が明らかになった。

要は、業界研究セミナーと称する事実上の採用活動イベントへの参加申し込み枠が、学生の在籍大学によって操作されており、「日東駒専」で登録したアカウントでは満席となっていたセミナーが「東京大学」で登録すると参加可能になっていた、ということらしい。

で、関心を惹きやすい話題だけに案の定いろいろと議論になっているようだが、少し話がずれているように思うので手短に。

この件では、いわゆる「識者」の皆様の間では、どうも「しかたないんじゃないの?」に近い方の意見を多くお見受けするように思う。ざっくりまとめると、「まあ学歴って、ある程度能力とリンクしてるし、たくさん応募があってさばききれないから絞り込もうとしてるんだろうし」みたいなご意見、「そんな文句いう前に自分で工夫しろ努力しろ、逆転する方法だってあるし」みたいなご意見などを見かけた。

ごもっとも。

学歴が必ずしも就職後の能力を保証しないとしても、なんとなくそういう傾向はあるだろう、というのは少なくとも個人的感想レベルでは納得感がある。グーグルでは「学歴は関係ない」としていて、実際「グーグルの社員の半数は大学の学位を持っていない」のだそうだが、それはたぶんいろいろと事情がちがうのではないか(才能がありすぎて大学の枠にはまりきらなかった、みたいな話がけっこうありそうな気がする。知らんけど)。

企業が採用において能力ある学生を採用したいと思うのは当然で、とはいえ能力なるものを見極めることは実際にはなかなか困難(認めたくないだろうけど)な状況では、出身大学は有力な指標になるだろう。めんどくさい勉強をこなす力はめんどくさい仕事をこなす力と似ていそうだし、同窓生ネットワークでいろいろ仕事もとってきてくれそうだし。じっくり人の能力を見極めたくてもそんなに時間はとれないし、もし絞り込むならそりゃ有力大学にしたいだろう。

そもそも、どんな人を採用するかについて、企業は選択権を持っている。公平な機会を与えるべきという理屈は、性別(と、あと身体障害についてもそうかもしれない)に関してはうるさくいわれるが、能力に関していう人はほとんどいない。能力は本人の努力次第だという理屈だろう。それが実際は必ずしもそうではないということはちょっとものを知ってる人ならもれなくご存じのことだろうが、それはなぜかいわない約束になっている。

実際は学歴が採用後の能力と関係ないとしても、実際には能力のない高学歴の学生を採用するのは企業の自由だ。そうやってゆうちょ銀行以外の有力企業が「学歴フィルター」を採用して実際には能力のない高学歴の学生をたくさん採用すれば、それ以外の企業は実際には能力のある、必ずしも高学歴ではない学生を採用できるわけで、損得はないだろう。

というわけで、企業が学歴である程度絞り込むのはやむを得ないという意見に対して、基本的に異論はないわけだが、しかしちょっと待て。

問題はそこではない。

もともとこのきっかけを作った学生(本当に学生なのかどうかはわからないが)は、学歴フィルターそのものに対して怒ったのだろうか。もしゆうちょ銀行が、「セミナー枠は出身大学ごとに設定しています」としていたらどうだったろう。もっとはっきり「有力大学出身者を優先して採用します」と書いていたらどうだったろう。もしそんなことをしたら、世間的にはそれなりに問題になったかもしれないが、当の学生にとっては、ひょっとしたらむしろありがたいのではないか。無駄な努力をする必要がないからだ。

ということは、ゆうちょ銀行が実際に上記のようなことをやっていたのだとすると、それは自らが行っている、社会的に批判を浴びるかもしれない行為を隠蔽するためということになろう。それこそが批判されるべき点ではないか。「学歴は関係ありません」という「ええかっこしい」をして、その実、裏で操作しているのだとすれば、それは「年齢不問」といいながら40歳以上は採らないとか、「女性も活躍できる職場」とかいいながら実際には女性はほとんど補助職とか、そういう類の行為となんら変わるところがない。上記の通り、年齢や性別と比べて能力による「差別」はあまり社会的批判を浴びないようだが、だからといって隠していいということにはならない。もちろん、社会的批判を浴びると嫌だから隠すというのも(実際にやっているのなら)卑怯だ。

というわけで、暴論めくが、強引に主張しておく。「学歴フィルター」を設けるなら、企業はその旨と、実際にどんな「フィルター」を設けているかを公表すべきだ(ぱっと見たところ、日本郵政グループの採用ページには「学歴フィルター」の存在を伺わせる説明はない)。「当社の社員を調査した結果、学歴と業務上のパフォーマンスには関係があるので、有力大学出身者を優先します」でも、「社長の出身大学の学生は優遇」でも、なんとでも決めて公表すればよい。各大学ごとの応募件数と採用人数の実績も公表するとよりわかりやすい。就活サイトあたりが代行して公表してくれるとさらに便利だ。

もし隠しておきたいと思うなら、そんなことはやるべきではない。

駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部教授

専門は経営学。研究テーマは「お金・法・情報の技術の新たな融合」。趣味は「おもしろがる」。

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