在宅勤務中「仕事をした気にならない」と言ってしまうオジサンから学ぶもの
■仕事をした「気」がしないとは?
「在宅勤務だと、仕事した気にならないですよね」
先日、あるクライアント企業の営業課長から、このようなことを言われた。
私は危うく「そうですね」と返しそうになったが、すぐに思いとどまった。
そこで一言「ああ、なるほど」とつぶやくだけにしておいた。「なるほど」は便利な表現だ。相手の話を受け止めたと伝えることができるからである。たとえ受け入れなくても。
緊急事態宣言が発令され、多くの人が外出を自粛するようになってから、このような発言を最近やたらと耳にするようになった。
「最近オンライン会議をしているけれど、パソコンの画面を観てるだけじゃ、会議をした気分にならないなあ」
「オンライン研修って、受けてみたけど、あれじゃあ勉強した気にならないですよね」
「オンラインで商談したんですけど、まったく営業した気にならない」
こう口にするのは、ほぼ100%中高年の男性――いわゆるオジサンだ。テレワークが慣れないのか。気分、気分、気分。
「オンラインで〇〇してみたけど、〇〇した気がしない」の連発。
昨年の4月から「働き方関連法」が施行された。もう気分で仕事をする時代ではないのにもかかわらず、だ。
忘れてはならない。なぜ長時間労働がなくならないのか? 遅い時間までオフィスに残って働いていると「一所懸命に働いている気がする」からだ。
だからこそ、夜遅くまで仕事をしている部下を見ると、
「頑張ってるな」
と声をかける。このようなオジサンたちは。部下がどんな仕事をしているのか、どれほど組織の付加価値アップに貢献しているのか。その具体的な中身も確認せずに、条件反射的に口にする。
このような、気分で仕事をしているオジサンが多いから、いつまで経っても無駄な長時間労働は減らない。
■「部下が上司を不満に思う理由」ダントツ1位は?
私は企業の現場に入って目標絶対達成させるコンサルタントである。大事なことは、労働時間でもないし、もちろん気分でもない。成果である。結果である。企業が掲げている経営目標達成に向けて寄与しているかどうかである。
2018年、アトラシアン株式会社が調査した「部下が上司を不満に思う理由」のダントツ1位が、
「部下に対する指示・指導・目標設定が曖昧」
であった。
現場で指導する絶対達成コンサルタントの私からすれば、大きくうなずける結果だと言えよう。
管理職研修だけを実施するコンサルタントは、だいたい中間管理職の言い分しか聞かない。
彼ら(圧倒的にオジサンが多いので、敢えて「彼ら」を使用する)は、組織目標が達成しない理由を「部下の主体性のなさ」「部下の当事者意識のなさ」などに転嫁するが、私たちは、それが真実ではないとわかっている。なぜなら現場で「事実」を目にするからだ。
実際の上司や部下の行動や姿勢、コミュニケーション手段やその中身を日々目の当たりにしているので、わかるのだ。
まさに部下たちが発する不満のとおりである。
「部下に対する指示・指導・目標設定が曖昧」
なのである。
これでは上司から「主体性を持て」と言われても、「当事者意識が欠けている」と叱られても、部下側は納得できないだろう。
■機能的ベネフィットと情緒的ベネフィット
ほぼ在宅勤務が強制され、しぶしぶテレワークをはじめた多くのオジサンたちは、緊急事態宣言が解除され、
「はやく通常勤務に戻してほしい」
と願っているはずだ。
家で仕事をしているのでは、仕事をした気分にならないからだ。
長時間の会議をするオジサンは、短い時間の会議だと、マネジャーとして仕事をした気にならないし、分厚い管理資料を作らないと、組織を管理しているという気分に浸れない。
不確実性の高い時代だ。だからこそ私は常に、マネジメントサイクルを高速にまわさなければならないと主張している。
そのためには、気分だとかに酔いしれることを許さない。シンプルな会議、シンプルな管理資料を徹底させる。
やたらとIT武装したがる情報システム部門にも、強く言い放つ。
「何でもかんでもIT化しようとするな。こんなものは、ノートとペンがあればすぐにできる」
そのように指示し、実際に結果を出させる。
個人の趣味ならいい。ファッション目的で、高機能な一眼レフカメラを買うのも、ダイバーズウオッチや、SUVを手に入れてもいい。機能的ベネフィットではなく、情緒的ベネフィットをも満たそうとするから、人は高いものを欲しがるのだ。それはそれでいい。
しかし、経営の観点からすれば「手段の目的化」は許されない。そんな遠回りをしている時代ではなくなったのだ。
オンライン会議も、オンライン商談も、オンライン研修も、オンライン飲み会も、慣れてしまえば機能的ベネフィットが高い。とても高い。
もちろん、すべてをオンライン化する必要はないが、機能的ベネフィットが高いケースでは、今後積極利用すべきだ。
■「隠れ働かないおじさん」とは?
気分というのは一過性のものである。政府はキャッシュレス化社会の実現に向けて、さらにあの手この手を打ってくるだろう。もう、元に戻ることはない。
だから、「現金じゃないと、ついつい無駄遣いしてしまう気がする」と主張する現金派も、もうすぐ絶滅する。
「振り込みとかじゃなくて、実際に札束の入った給料袋をもらわないと、給料をもらった気がしない」
と言いつづけたオジサンたちが、現代社会において誰一人いないように。
昨年からメディアで「働かないおじさん」という言葉が注目を浴びた。ところが、今はコロナの影響もあり「隠れ働かないおじさん」という言葉も登場しつつある。
一見すると働いているのだが、実は働いているには値しないオジサン、ということなのだろう。テレワーク時代になり、ますますその数は増えそうだ。だから、
「オンライン〇〇だと、〇〇した気がしない」
という表現を無邪気に使っていると、
「あの人は、隠れ働かないおじさんかも」
と若い人たちに言われかねない。こういう言葉は慎んだほうがいいだろう。気分ではなく、成果を意識すべきなのだ。