「ゴールデングラブ賞もベストナインも取り返す!」―東北楽天ゴールデンイーグルス・藤田一也選手の誓い
■相次ぐケガで、全試合出場が叶わなかった昨季
「今年も全試合、出場します!」東北楽天ゴールデンイーグルスの藤田一也選手がそう宣言したのは、昨年の自主トレ中のことだった。その前年、プロに入って初めて全試合出場を果たしていた。
ところが昨季はケガに泣かされた。5月頃から右膝の痛みを発症し、こらえながら戦っていたが、知らず知らずのうちに庇っており、その負担が右太ももに影響した。
限界がきたのは6月20日、対千葉ロッテマリーンズ戦だった。内野安打で一塁ベースを駆け抜けた時、右太もも裏は悲鳴を上げ、肉離れを起こした。初めての箇所だった。
7月末には1軍復帰したが、「肉離れは治っても、膝がなかなか…」としっくりはいかなかった。さらに追い討ちをかけるように、死球により右足の甲を骨折した。小指と薬指の2本が骨挫傷と診断された。目標達成とはならず、出場は111試合に留まった。
■パーソナルトレーナーに全面的なコンディショニングを依頼
改めて自身の体と向き合った。「もう一度、自分の体を作り直して、1年間しっかり戦えるように自主トレで作り上げよう」と。
弱点もわかっていた。「いい時と悪い時の波が激しい。体調によってバッティングが左右されてしまう。疲れが出ると、数字にも影響してくる」と自己分析し、「1年間ずっとベストなコンディショニングを維持し続けるのは難しい。だけど、少しでも波を小さくしよう」と決意した。また「今年34歳になるし、体も変わってくる。衰えないように」と、年齢からくる肉体の変化にも対抗心を燃やす。
そこでお願いしたのが「パーソナルトレーナー」だ。知人の紹介で知り合った幸智之氏(柔道整復師・コンディショニングトレーナー)に、今年から正式に全面コンディショニングを任せることにした。きっかけは昨年の自主トレだった。自身の勉強のつもりで訪れたという幸氏に、藤田選手は多くの質問を浴びせた。そうして会話を重ねるうちに、二人の間に意思疎通ができた。
自主トレ終了後、藤田選手からシーズン中の体のケアの依頼を受けた幸氏がまず考えたのは、「責任重大だな、と。だって日本の宝ですから」ということ。「医学的な知識を当てはめるだけではダメだ。選手のパフォーマンスを上げなくてはならない」と、気を引き締めた。
そこで幸氏は「とにかく試合を見よう」と、昨年の関西での試合は全て足を運び、動きをつぶさに観察したという。「調子が崩れる時の、その崩れ方を知っておかないと、自主トレですべきことが見えてこないから」。今年の自主トレで取り組むべきことを、昨季の試合中のプレーから見出していたそうだ。
藤田選手も「ケガもしたし、自主トレからしっかり体を診てもらって、1年間戦える体を作りたい」と、幸氏に昨年のようなケアだけでなく、1年を通しての全面的なコンディショニングを依頼し、今年はホームゲームにも全試合、足を運んでもらう予定だという。
幸氏が「オーダーメイドでないといけない。一般的なことを当てはめるのではなく、それぞれの体に合ったものをしっかり見極めてやっていきたい」と眼光鋭く見つめてきた結果が、今年の自主トレの内容に顕れている。
幸氏が作ったメニューはこうだ。朝はランニングに始まり、ストレッチ、ジムでのウェイトトレーニング。午後からは体操とジョギングに続いて、インナーマッスルトレーニングを含むストレッチに殊のほか時間をかける。「質の高いストレッチを心がけています」と、たっぷり20分以上はストレッチに費やす。
そしてフットワークやランニングの後はキャッチボール、捕球などの基本練習、ノック、バッティングと続くが、とにかく全てにおいて、丁寧に高い質を求めて実践している。
バッティング練習の前にはチューブを使ったトレーニングで今まで眠っていた筋肉を起こし、畳の上での素振りでは、しっかりと足の裏で地面を掴む感覚を養う。早くも効果が出始め、「フォロースイングが大きくなったし、ヘッドの走りが違う。下半身を使いながらスイングできている」と、実感しているという。
■自ら考案した“秘密兵器”を導入
「ケガに強い体を作ること」とともに、藤田選手が誓っているのが「ゴールデングラブ賞」と「ベストナイン」を取り戻すことだ。
2013年、2014年と2年連続で獲得したこれらの栄冠を、昨季も当然、逃すつもりはなかった。しかし「ベストな状態で戦えなかった」と、つくづくケガが悔やまれた。
そこで体とともにもう一度、プレー自体も一から磨き上げる決意をした。“新兵器”として自らメーカーさんに発注して、練習に取り入れているのが「トレーニンググラブ」だ。そもそも「守備の名手」の土台を作り上げたのは、高校時代のスリッパだった。(参照記事⇒「一期一会」―藤田一也選手が大切にしている人との縁)
藤田選手考案の「トレーニンググラブ」はそれに近い、ポケットのない真っ直ぐな板状のグラブで、大きさはほぼ手のひらサイズだ。これで捕球の基本練習をみっちり行っている。ポイントは「生卵のようにボールを柔らかく捕球する。衝突して弾かないように」ということ。
このグラブを使いこなすことでハンドリングが良くなるし、上半身の力が抜け、下半身を使う低い姿勢を保てるようになるのだ。
■天然芝に生まれ変わるコボスタ宮城
また、今年から本拠地・コボスタ宮城は内外野とも天然芝に生まれ変わる。一般的には体への負担が小さいとされる天然芝だが、それが自身の味方になるのか、それとも敵になるのか、藤田選手も現時点では計りかねている。「天然芝によって体がどう変わるか、未知の世界やから」と話す。
天然芝でのプレーは、これまでも甲子園球場やマツダスタジアムなどでは経験はあるが、「3試合だったので、すごく神経を使って疲れが出た」と振り返る。人工芝と比べてバウンドの予測がしにくい。「イレギュラーするし、最後まで安心できない」と、自ずと集中力もより高まる。しかし「ビジターで、しかも3試合だけ」だからかもしれない。
「ホームグラウンドで慣れてくれば、クセもわかって楽になるかもしれない」とも考えられる。「雨が降ったり、寒くて霜が降りたりもあると思う。これから試合を積み重ねていく中で、自分のものにしていきたい。早く慣れることが大事だし、整備してくれる人とコミュニケーションをとって、選手が守りやすいグラウンドを作ってもらいたい」。グラウンドキーパーさんともタッグを組んで、“未知なる世界”に挑む。
■全てを手に入れるために―
改めて今季の目標を口にした。「143試合、全試合出場が目標です!」そしてこう続けた。「監督も代わられたんで、もう一回レギュラーを獲るという気持ちで、ゴールデングラブもベストナインも獲って、3年前のような優勝と日本一を味わいたい」。
新しいボールパークで、いいプレーを見てもらいたい。勝つ喜びを味わってもらいたい―。そのための揺るぎない体を今、藤田選手は作り上げようとしている。